023 エピローグ
結局、この街に居た住人や冒険者は、三分の一程しか生き残って居なかった。
いや、三分の一も、と言った方がいいか。
クロスロードの街は壊滅、物流の拠点だった此処が機能しなくなり、物資が滞る事になるだろう。
『魔人』の狙いは、それだったのだと思う。
今迄の歴史では、『魔王』や『魔人』が、こういった動きをする事は無かったらしい。
より人間らしい、この千年で、初めてのやり方。
今回の『魔王』、いや『邪神』は、どうも勝手が違う。
いよいよ、本気になったと言う事かもしれないが、俺にはどうでもいい。
『邪神』だろうが、全部殺すだけだ。
「あひがとう!あんたのお陰で生き延びた!」
「仲間を癒してくれてありがとう!!」
「オレは見たんだ!まるで風の様に颯爽とヤツらを斬り伏せる姿を!!」
「勇者だ!勇者があらわれた!!」
「勇者様!!勇者様!!」
…はあ、五月蝿い。
いい加減、逃げ出そうかと考えていたら、リリファに脇腹を小突かれた。
「アンタね、そんな顔してんじゃないわよ」
「…俺は勇者じゃ、ない」
「いいから、今は黙って持ち上げられときなさい、みんなにも『希望』は必要よ」
希望、か。
確かに、そうだな。
俺にも希望はある。
マリー…必ず、元に戻してみせる。
◇◆◇
あれから数日。
輝夜師匠と雷牙を迎えに行き、念の為二人とも治療院で診てもらっている。
まあ、怪我が無いのは俺が《診た》から分かるんだが。
精神面はそうじゃないだろう、休息が必要だ。
「そう、ウィン君も行ってしまうのね」
「うん、マリーを治さないと」
「気を付けて、無理したら駄目よ」
ハルカさんは此処に留まり、ギルドの再建に尽力するらしい。
曰く、誰かがやらないといけない仕事だから。
ギルドマスターも戦って大怪我をしたらしく、暫く動けない。
職員の中でもベテランのハルカさんしか、ギルマスの代理を出来る人が居ない。
「頑張って、ここを立て直して、ウィン君が…又戻って来れるようにしておくからね」
「ハルカさん…」
他の生き残った住人も、既に自分達なりに街を再建しようと動いている。
意外だが、此処を捨てて逃げようとする人は、それほど居ない。
「ずっと住んでた街よ、中々出て行けるものじゃないわよ」
「そんなものか…」
俺は一応、王都が故郷なんだろうけど…正直、あの場所は嫌いだからな。
解らない感覚だ。
「所で、何処まで付いてくる気だ?」
「当分の間よ、アンタの旅にアタシも同行するわ」
「…一応、理由を聞こうか」
「だって、アンタ『勇者』なんでしょ、これから『魔人』や『邪神教』に命を狙われるわけよね」
「そうだな、たからお前…来たら死ぬぞ」
脅しでも何でもない、それだけ危険だ。
「何言ってんのよ、『魔人』どもが寄ってくる生き餌の傍にいれば、アイツら殺し放題じゃない。
アタシはとにかく、ヤツらをぶっ殺したいの」
「…はっ、勝手にしろ、足手まといになったら置いてくからな」
「上等よ、絶対について行くからね」
…そうか、リリファはもう、何も残って無いんだな。
なら、それも仕方ないか。
◇◆◇
「アニキ、いつか必ず追いつくからよ」
「…ああ、待ってる」
「うむ、無理をするでないぞ」
雷牙は、今のままだと足手まといになるから、一旦別れると言い出した。
どうにかして戦える力を取り戻す為に、一度故郷に帰るらしい。
あいつの故郷にも『魔王』の影響が出てるかもしれないし、そういう意味でも一度帰った方が良いだろう。
俺と輝夜は、残った片腕と固い握手を交わし抱擁してから、ギルドに残る雷牙と別れた。
「リリファよ、宜しく頼むのじゃ」
「いえ、
リリファは師匠に対してかなり下手に出てる、これが普通らしいが。
魔術師内での輝夜の地位は、相当高いらしい。
「話し方は普通にしてよいぞ?これから旅を共にする仲間故にな」
「わかり…分かったわ、宜しくね輝夜さん」
まあ、少し硬いがすぐ慣れるだろう。
「ウィンよ、重くはないかの?」
「大丈夫だよ、師匠」
マリーは、棺桶に入れて運ぶ事にした。
あまり気分の良いものじゃないが、人を一人入れて運ぶのに、これ以上適した物が無かった。
大きさも重さもあるが、背負えない程じゃない。
「それで、当てはあるのかしら?」
「ああ、『勇者』関連の遺跡や施設を回る」
召喚勇者は、時間すら操ったと言う伝説がある。
師匠の時魔術も、それを再現しようとした物らしいからな。
「マリーの件は、あまりリリファに関係ないかもしれないが…」
「やめてよ、あたしだってマリーと知らない仲じゃないわ。
それに、あの子が復活したら嬉々として『魔人』を斬ってくれる筈よ、楽しみだわ」
「…ありがとう」
気を使ってくれてるのか、本気で言ってるのか。
多分、半々だろうな。
「では、行こうかの」
「ええ、出発しましょう」
「ああ」
眠るマリーの入った棺を担ぎの直し、歩き始める。
復興の為に頑張る街の人たちを手伝えないのは、心苦しい。
でも、俺はマリーを元に戻さないといけない。
そして、皆殺しだ。
『魔人』も、『魔王』も。
必ず、報いを受けさせてやる。
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