022

『みみみ皆さんが静かになるまでこんなに時間がかかってしまいました落ち着きが足りません!!ででも大丈夫ですせ先生はどんな愚鈍でも丁寧にききき教育ぅ!!しまぁす!!!!』


…なんだ、こいつ。


「ねえウィン、彼って前から、あんなニッコニコな感じだったの?」

「…いや、もっと仏頂面で、貴族主義で、冷酷で偉そうな…なんだコイツ?」


性格、変わり過ぎじゃないかな?


「…まあ、ハラたつ事に変わりは無いな」

「ボクは一周回って面白い…いや滑稽かな?」


気持ちは理解るけどなぁ。


「なんだろうね、話は通じ無さそう」

「それはそう」


その点は、まだ前の方がマシだった。


『はぁい!!そそそれでは授業を始めます!!!今日はみみみ皆さん『ニンゲン』の!!!しょしょしょ正体についてお話をします!!!他人の成果にしがみつき!!!そそそのお溢れにあずかり!!!寄生するだけの!!!たたた他力本願なせいぶつ!!!そうです!!!みみみ皆さんの正体わわわわ!!!!ななななんと!!!!!ウジ虫だったのです!!!!!!ウウウウジムシィ!!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ――』


…はぁ。


「ダメだな、早く殺そう」

「うん、この場合は『駆除』だと思うよ」

「それだ」


これは、意味なく人の言葉を並べるだけの『害虫』だ。

さっさと駆除しちまおう。


満面の笑みでずっとウジウジウジウジ言ってやがる。

気持ち悪っ、口からツバ飛んでるし…あれ、溶解液だな。


「あれ、近づきたくないね」

「ああ、ちとヤバイな」


どうも、口から吐いた溶解液を、羽根を高速で振動させて、周囲に拡散してる。

動かない理由はこれか。


「攻撃は『子』に任せっきりみたいだね」

「『魔人』自体は防御に専念してるって訳か」


まあ、ほっとくと又ムシが湧くから、さっさと倒さないとな。


「じゃあ、ここから遠距離で仕留めようか」

「だな、斬ったら剣がバッチくなりそうだ」


つか、剣の方が溶けそうだ。


「『ネメシス』『ディバインソード』」

「『天狗倒し』『八岐焰蛇』」

『ウジ虫!!ウジ虫!!ウジ虫!!UuuuuuuuuuuZiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!!!』



光線と光剣が突き刺さり、風の太刀で斬られ、八本の蛇に焼かれる。

ミカの『ネメシス』は、何か眩しさ軽減してるな…出来んのか、威力変わらず凄まじいし。

それでも、元がデカいしさほど効いているように見えないが。


おまけに、こっちに『溶解液』を飛ばしてくる、液体は躱し難いんだよ。


そして、こいつも再生する、耐久力が凄まじいな。

まあ、持久戦で俺に勝てる訳がないんだが。


「はぁぁぁ…『常闇』」

『U!!!ZIZIZIZIZI!!』


加速された重力で、『魔人ギルサレン侯爵』が、ぐちゃりと3分の2程まで縮む。


「いいね!そのまま!!」


ミカの翼から無数の宝石剣が飛び出し、『魔人』に突き刺さると、そこから部分的に『ダイヤモンド』の彫像に変化していく。

そして、『常闇』の超重力で、そのままパキパキとひび割れ崩れていった。


巨大な蠅の醜悪な腹部が砕け、『魔人ギルサレン侯爵』の『魔人石』が露出した…!!


「ウィン行って!!『ディバインシールド』!!」

「はぁぁ!!『ウイニング・サインW・S』!!!」


ミカの張ってくれたシールドで、漂う『溶解液』の霧は防げる。

ならば、あとは『縮地』で一気に距離を詰め、ヤツが死ぬまで斬撃を見舞うだけ…!


「さっさと死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

『みみなさぁぁぁぁん静粛にぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』


『魔人石』は『ベーダベータ』の時ほど手応えもなく、拍子抜けするほどあっさりと。

細切れになった。




◇◆◇




「うーん、コレ単体だとAランクの魔物相当だったね」

「そんなもんか」


『ギルザレン侯爵』の砕けた『魔人石』を回収しながら、ミカがそんな事を口にした。


「あくまで攻撃は『子』に依存してるからね、それ込みでやっとSだね」


じゃあ、『ベーダベータ』はSランクだったかか。


「その『剣の魔人』と戦って、生き残ったのは奇跡だと思うよ」

「かなり死んだけどな」

「うん、悲しい事だけど」


ミカなら倒せたかな、多分現時点で俺より強いし。


そんな感じで雑談をしてたら、街の方角から誰かが歩いてきた。


「リリファか」

「遠目から見てたけど、あんたら化け物ね」


相変わらず目が死んだままだな、無理もないが。


「化け物なんて失礼だなぁ、彼は『勇者』だよ」

「へぇ、あんた『勇者』だったの」

「やめろ、そんなんじゃない」


その単語を聞くたびに、イラつく。


「まあ、どっちでもいいわよ、『邪神」の手下共をぶっ殺せるなら」

「それはそうだけどな」


正直、他人が何と言おうが、もうどうでもいい。


「あ、そうだウィン、はいこれ『聖剣』」

「ノリが軽いな、つか要らな…何だこれ、ヒビ入ってるけど」


白い剣だ、それが二本。

細身で、なんだか儀礼用にでも使いそうな剣だな。

だが、片方は尖端が欠け、もう片方は細かいヒビが入ってる。


「壊滅した王都で回収してきた『歌姫』の聖剣だよ、『ディーヴァセレナ』の像に隠してあったんだ。

あ、壊されたんじゃ無いよ、元々壊れてて、長い事誰も使って無かっただ」

「それじゃ使えないだろ」


ガラクタじゃん。


「直せば使えるかもね、それにこれなら、『勇者を名乗りたくない』キミに預けても、文句言われないし」

「どういう事だ?」

「『聖剣』は数が限られてるから、勇者したくないキミにあげたら、『教会』から文句言われるでしょ、これならそんな心配無いからね」


まあ、元々使えない剣だしな。

俺が運良く直せたら、儲けものだろう。


「それに、キミ一応『歌姫』」の直系だしね、血は大分薄まってるけど」

「千年もありゃ、そうなるだろ」


それこそ、どうでもいい。


「何でもいいじゃないの、それで『魔人』をぶっ殺せるなら」

「それもそうだ、貰っておくか」


直せるかは分からないが、輝夜師匠に相談しよう。


「じゃあこれ、マジックバッグごとウィンに預けるね。

中に多少のお金と、アイテムも入れてあるから、頑張って『魔王』を倒してくれるとボクも嬉しいよ」

「倒すよ、つか『邪神』含めて皆殺しだ」

「あはは、じゃあボク他に仕事有るから、もう行くね。

あ、忘れる所だった、『エンゲージリンク』ちゅっ」

「お、おう…」


相変わらず唇柔らかっ。


「なによ、あの女アンタの彼女?」

「あいつ男だぞ」

「…うそでしょ」


街で再会して以来、初めて感情が顔に出たな、ミカすげー。


「え、じゃあつまり、男の子同士で??」

「ちげーわ、深掘りすんな、つか街戻るぞ…一応ギルドとか確認しに行きたい」


生き残りが居るかは、怪しいがな。


「ギルド…ああ、そっかアンタでも

「…何がだ?」

「まあ…見たほうが早いわ、案内するから来なさいよ」


…何だ?何があるんだ?




◇◆◇




「ほらね、言った通りでしょ」

「…はぁ?!なんで建物が…無傷なんだよ!!」


俺ははっきりと、瓦礫の山になった冒険者ギルドを確認したぞ…?!


「取りあえず、中に入りましょ」

「あ、ああ…」


いや、中から結構な数の、人の気配がする。

なんだコレ、俺は夢でも見てたのか?


「ウィン君!!」

「あ…ハルカさん?」


ドアを潜り、バリケードの跡を避けて中に入ると、受付のハルカさんが迎えてくれた。


「よかった!帰って来ないから…無事だったのね!!」

「…うん」


…ケントさん達の事を話そうと思ったけど、しがみついて泣くハルカさんを見て、言い難くなってしまった。


しかし、結構生き残りが居るな。

これは…街の人達が沢山いる?

多分、訓練場とか倉庫なんかも、フル活用してるな。

そういえば、地下の避難所もあったっけ。

みんな、ここに避難してたのか。


でも、どうやって…?


「…それはね、強力な幻術と隠蔽魔術で、ギルドを隠してたのよ」

「いや…全然気が付かなかったけど」

「彼女のお陰よ、Aランク冒険者『夢幻蜃気楼』のミラー・ミラージ」


ハルカさんが指さす方を見ると、フード姿の小柄な女の子が、仰向けで介抱されていた。

あれは…尻尾?狸っぽいな…獣人か。

獣族にも、魔術が得意な種族が居るんだな。


すぐそばには…儀式陣?それも…隠蔽・消音・消臭・魔力遮断・幻惑…それ以上は分からないが、かなり高度な術式だ。


多分だが、あの魔術陣を維持し続けて、魔力を切らせたのだろう。


そうやって見ていると、隣で腕を組んだリリファが話しかけてきた。


「あの人はね、戦闘力は低いけれど、一流の隠蔽・幻覚魔術使いなのよ。

Aランクだけど、そういう魔術師だから、普段はソロで潜入や偵察系の依頼を行っているわ」

「…なんか見たことあるな」


何処でだ?余り印象に残ってないな…。

普段から、気配を薄くしてるのかもしれない。

つか、此処にAランク居たんだな。


「アンタが『聖域』を張ってくれなきゃ、ここもいずれ落ちてたでしょうね」

「あの神聖魔術はウィン君だったのね、ありがとう…」

「…ハルカさん達が無事で、よかったよ」


間に合った…とは言い難いけど、生きてる人がいて良かった。


「それで…ウィン君、聴きたい事があるの」

「…何、ハルカさん」


不安そうな顔で、ハルカさんが訊ねてきた。

何を聴きたいかは分かるよ。

言い難いけど…。


「あのね…ケントさん達と、ウィン君の仲間は…何処なの?」


ああ、言いたくない。

目を合わせられない。


無言で、視線を上に逸らす。


もう、みんな、居ないんだよ。

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