017
結局、義姉さんの部屋に連れ込まれた…と言うか、ちゃんと用事があるらしい。
「ん…真面目な、話」
そう言うと、義姉さんはシスター服の胸元に手を突っ込み始めた…?!
「胸の間から、紐パンが出てきたな…」
「ん、これじゃ無い」
あれ?真面目な話だよな??
何でそこから紐パンが出て来るんだよ…。
いや、そういえば…似たような光景を見た覚えが…。
「…マリーのメイド服と、同じか?」
「そう、ここ、マジックバッグ付いてる」
そうだったのか、てか何故そこに??
そういや、返り血めっちゃ浴びても、勝手に綺麗になってたな、その白い修道服。
「…もしかして、その服って親父から貰ったの?」
「そう、ブレイおじさんの、プレゼント」
何やってんだろうな、親父は…。
意図が、全く分からん。
「…あった、これが、渡したかった物」
「…これは?」
剣だ、二本の剣。
銀色の、無駄な装飾のない、実用的な剣。
ケントさんが愛用してる槍と同じ、ミスリル製だと思う。
「二剣一対、銘は『
…親父の、剣。
「おじさんが、弟に渡した剣、おじさんの形見であり、弟の形見」
「…それを、俺に?」
「そう」
…形見を返す、って訳じゃ無いだろうな。
「マリーに使わせろって事、だよな?」
「うん、盗賊との戦い、見た。
彼女なら、使える」
セラフィ義姉さんの弟の形見で、親父の使ってた、剣…。
「…ウィン君、複雑?」
「…ま、少しは」
…色々と思う所はある。
俺でなく、セラフィ義姉さんの弟に託したって所も込みで。
まあ、剣が使えない俺に渡しても、仕方ない話なんだが。
んー、親父の使ってた剣を、マリーに、か…。
「…私も複雑、弟の形見、本当は渡したく無い」
「…そっか、ありがとう、形見の品なのに」
「でも、ウィン君が、渡すの嫌なら…」
「ああ、いや…俺のはちょっと、違うんだよ」
まあ、嫉妬っていえば、そうなんだけど。
「それって、ずっと親父の使ってた剣なんだろ?」
「うん、そのはず…?」
「それをマリーが使うのが、嫌なんだ…」
何て言えば良いのか…うん。
「俺は、その剣の持ち主…親父に、嫉妬してるんだよ」
マリーに、親父の私物を持たせるのが、何か嫌だなって、思っただけだ。
◇◆◇
「これを、マリーにですか…旦那様の形見の、剣…」
まあ、親父と義姉さんの弟の形見とか言われたら、戸惑うよな。
「マリーには少し長いですが、魔力の通りが凄く良いですね」
ミスリルは使ってそうだけど、他に何が混ざってるかは分からない。
まあ、今迄の店売り量産品に比べたら、雲泥の差だ。
「俺は、マリーに使って欲しいと思ってる」
「…そうですか、坊ちゃまがそう仰るなら、使わせて頂きます」
と言う事で『
◇◆◇
あれから、又暫く経つ。
ここは、Cランクからが推奨されている、森の奥。
大昔の遺跡が近くにある事から、『遺跡の森』と冒険者の間では呼ばれている。
「…よし、『大鎌鼬』!」
以前より大きく鋭利になった、湾曲した風の刃が、五メートル程の体長を持つカマキリに向かう。
『ギヂギヂギチ…』
顎から威嚇音を出しながら、そのカマキリ――キラーマンティスは、自前の大鎌で、風の刃を弾き飛ばした。
「やっぱ駄目か、面倒だな」
「行きます!『ヴィクトリーサイン』!!」
Vの字に走った剣閃は、キラーマンティスの足を二本切り落とす。
うん、やっぱりこの双剣は、この技の為に親父が仕立てたんだろう、技の名前まんまだし。
マリーもこの剣を持つまでは、使えなかったっぽいしな。
バランスを崩した大カマキリに、タイミング良く雷牙が襲い掛かった。
「いくぜ!『サンダークロウ』!」
雷を纏った雷牙の鉄爪が、マンティスの動きを一瞬止めた。
――ヴヴヴ…
羽音だ、薄い翅を広げ、逃げに入ろうとしている。
だが、時間稼ぎは終わった。
「登らぬ月に待人重ね、想い馳せる闇夜の焦燥、『
月の光に似た粒子に包まれ、キラーマンティスはその動きを著しく遅くした。
「よし!全員で殴れ!!」
「あ!カマと羽根は売れますからね!!」
「オラァ!!」
「ふーん、ふーん」
うん、こうなるともうボコボコだな。
「うむ、妾から見ればまだまだじゃが、一先ずこんな物じゃろ」
「坊ちゃま!キラーマンティスは、強敵でしたね!!」
いや本当に強敵だったよ、輝夜師匠に教わった魔術無かったら、普通にヤバかったぞ?
「しかし…何でこんな場所に、昆虫型が?」
こいつBランクの魔物な上に、この辺に居ない筈だろ?
「ん、最近の魔物、活動が活発、らしい」
その影響で、物価も少し上がって来ている。
野盗に身を落とし、犯罪者になる者も増えたらしい。
「なぁアニキ、何か分かんねえけど、ヤバくねぇか?」
「…そうだな、どうも空気が重い」
…胸騒ぎ、って言うのか…どうにも、ざわざわとする。
また、マンティスより強い魔物が出て来たら危ないし。
「そうですね、マリーも帰るのが良いと思います」
「ん、何か嫌な空気」
本当にな、早く帰ろう。
◇◆◇
「キラーマンティスですか…分かりました、注意喚起と確認依頼を出しておきます」
「お願いします、ハルカさん」
ハルカさんが、渋い顔してるな。
「…実は、似たような報告が、他にも上がって来てまして」
「…俺達だけじゃないの?」
あちこちで、似たような事が起こってるのか。
「ええ、念の為に森の深い区域には、行かないで下さい」
「分かったよ、ありがとうハルカさん」
暫くは、森の奥に行かない方がいいか。
◇◆◇
久々に、マリーと二人だけで買い物に出かけた。
まあ、デートとかじゃなく、日用品の買い出しだけど。
「坊ちゃま、少し背が伸びましたね!」
「ん、そうか?」
そう言われると、目線がマリーより高くなったな。
えへへ、と笑う顔を、少しだけ見下ろせる。
「身長、追い越されちゃいましたね」
「まあ、育ち盛りだからな」
王都の家を追い出されてから、もう一年以上経った。
あのときは、まだ少しだけ、マリーの身長に負けてたし。
あれから色々あったけど、そこそこ上手くやれてるな。
まあ、色んな人に助けられてる結果もある。
ん、向こうから歩いてくるのは…ケントさん達のハパーティー『銀閃の槍』だ。
あの人にも、色々と世話になったなぁ。
「よう、ボウズ…じゃねぇや、ウィン」
「どうも、ケントさん」
「お前らもすっかり、冒険者になったなぁ」
「まだまだですよ」
Bランクはまだまだ遠いけど、俺達位の年齢でCランクに上がれるのは、相当早いらしい。
マリーは既に、戦闘力だけならBランクだと思うから、一番早く上がるだろうな。
「所で、これから何処に行くんです?」
「そりゃお前、酒に決まってんだろう?」
今日はもう依頼は無い、と。
しかし、昼間っから飲むのか、駄目な大人だ…。
「明日から、ちと指名依頼が入ってな、今日は飲み溜めだ」
「…もしかして、『遺跡の森』の調査に?」
「おお、知ってんのか、そうだぜ」
…あの、嫌な雰囲気の森に行くのか。
「まあ、オレらが行くのは森じゃなく、遺跡の方だがな」
「あれ、あの場所は何も残ってない筈じゃ?」
「何も無ぇのを確認すんのも仕事だ」
まあ、それはそうだけど。
「気を付けて下さい、あの辺なんか…嫌な感じしたんで」
「そうだな、まあチラっと確認したら帰ってくるだけだがな、油断はしねぇよ」
ベテランだしな、要らない心配か。
「ま、お前も一人前になったし、今度オレらの行きつけの店に連れてってやるぜ?」
「…ケントさん?それ綺麗なお姉さんがお相手してくれる店ですよね?」
「おっと、やべぇマリーも居たんだったな」
「駄目ですからね?」
「そんな顔すんなよ、おっかねぇ…冗談だ冗談」
んー、マリーの圧力も、この一年で増したなぁ。
成長を感じる。
「まあ、普通の店で良いから、帰ったら一杯付き合えや」
「いや、酒まだ飲めないけど?」
「じゃあ飯でも食わせてやるよ」
気の良い人だなぁ、見た目はならず者なのに。
いや、むしろモヒカンでトゲ肩パッドのゴーグルは、盗賊にも居ないか。
さて、ケントさん達は盛り場に向かったし、俺達も買い物済ませるか。
「…嫌な予感がします、心配です」
「…まあ、大丈夫だろ」
…でも、マリーに言われると、不安になるな。
それでも、森の異変を放置しておく訳にはいかない。
結局、この街で一番ベテランの、ケントさんがいくしかない。
「…買い物済ませようか」
「そうですね、行きましょう坊ちゃま」
そう言いつつも、どうもマリーが浮かない顔をしている。
…無事に帰ってくれるといいけど。
◆◇◆
一週間ほど経った。
ケントさん達は、まだ調査から戻っていない。
街道沿いに魔物が現れる頻度が、以前よりも多くなったとかで、最近は護衛の依頼が多い。
俺達も、近くの村まで、馬車の護衛依頼などを受けて、昨日戻ってきた所だ。
農村でも、魔物の出現が多くなってる。
まだ大きな被害は出ていないが、どの村も空気が重い、そう感じた。
宿屋の裏手には、少し開けた場所がある。
マリーや雷牙が、よく素振りに使ってる場所だ。
「ん、左側に偏りすぎ」
「こ、こうか?」
「そう、いい感じ」
セラフィ義姉さんは人体のエキスパート、身体を流れる魔力なども、外から見るだけで分かるらしい。
雷牙が『武技』を習得出来たのは、義姉さんが手伝ったお陰だ。
ちなみに、マリーは結構前から使えてたらしい、そんな気はしてた。
「ん、ウィン君おかえり」
「アニキ!今日のオレの仕上がりは最高だぜ!!」
「おう、ただいま」
ビタンビタン尻尾を当ててくる茶トラを受け流しつつ、買い物袋を持って部屋に戻る。
「ただいま…ん、輝夜師匠?」
「戻ったか、弟子よ」
「おかえりなさい、坊ちゃま」
…この二人が部屋で話してる事自体は、珍しい事じゃない。
ただ、表情を察するに…あまり楽しい話をしてた訳じゃ無いな。
「ウィンよ、指名依頼じゃ…『銀閃』が戻らん」
「実質、
「…まだ一週間だろ、ギルドが動くには早くないか?」
実際、こういった原因のハッキリしない調査は、長ければ一ヶ月は掛かる事だって有る筈。
「…ギルドの意図は分からぬが、どうも『王国』でも何か有ったらしい、と言う噂じゃ」
「それも『魔族』絡みです」
「…つまり、こっちの異変も、そうじゃかいかって事か?」
「分かりませんが、そうでなくともケントさん達には、早めに戻って欲しいみたいですね」
この街でも上位の冒険者、そしてベテランだ。
それに、あの人は指揮能力も買われてる。
「…もしかして、『スタンピード』か?」
「『魔族』が関与するなら、可能性は有るかと思います」
「若しくは、この近辺で『魔王』でも現れると考えておるのかもしれん」
「…時期的には、おかしく無いか」
約百年周期で現れる、邪神の下僕。
五百年前を最後に、大きな被害は出てないらしいが、油断は出来ない。
「どの道、断れる話では無いからの、トサカ頭も心配じゃ」
「行くしかありませんね」
「分かったよ、明日にでも出れる様に、準備しよう」
ケントさん達も、心配だからな。
マリーの嫌な予感が、当たらなきゃ良いが。
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