016

 翌日は、特に問題無く出発出来た。

 あの、カラッとからあげ君のパーティーも、何とか準備出来たらしい。


 試験なので、輝夜師匠はお留守番。

 セラフィ義姉さんは、治癒師として別枠で依頼を受けたので、俺達とは別に同行する。


 しかし、四十人以上になると本当に多いな…。


「試験のついでも有るんだがな、結構被害が出てやがる、街のお偉方も本気って事だ」 

「…そんなに被害が」


 知らなかったな、マリーは知ってたみたいだけど。


 今回の遠征、目的は盗賊団の討伐だ。


 つまり、相手は『人』。

 相手が悪党でも、人殺しに忌避感を持つ奴は居る。

 でも、そういう奴は、はっきり言えば現場じゃ邪魔だ。

 そういった無能を、ふるいにかける意味もあるんだと思う。


 護衛依頼がCランクからってのも、当然だな。

 街道まで出て来て、態々人を襲うのは、魔物よりも、同じ人間の方が多い。


「今日は此処で野営だ!!」


 衛兵隊の隊長のオッサンが、声を張り上げる。

 一応、今回の遠征でのリーダーだ。

 衛兵隊は今回、主に裏方に回る、まあ俺達の試験もあるし。

 人数が多いのは、盗賊団を一人も逃さず殲滅するため。

 あと、捕まってる人が居たら、救助しなきゃいけない。

 大人ってのは色々と大変だな。


 俺たち試験組は、その上でケントさんが引率してる。

 お荷物になる様なら、その場で失格、追い返される訳だ。

 いざとなれば、ケントさん達だけでも討伐は出来るって事だな。


「ま、お前らはソコソコ優秀だからな、そんな事にはならねえよ」

「へぇ、からあげ君も?」

「ガラッドは、ああ見えて強えからな、既に武技も使える」


 おお、ケントさんがそこまで言うとはな。

 まあ、確かに身体デカいし、強そうではあった。


「…所でよ、お前ん所のメシ、オレにも分けてくれねぇか?」

「いや、後輩に集るなよケントさん」

「いや、メイドの料理があんまり美味そうだからよ、金は払うから、な?」


 まあ、マリーの料理は美味いからなぁ。


「はい!今日は道中狩ったヘビとかボアとかウルフ肉に、その辺で雷牙が取ってきた野草にキノコとスパイスで煮込んだお鍋ですよ!!」

「…その内容で、何でこんなに美味そうなのか」


 謎の鍋、美味しいんだよな。


「何だよ、いい匂いじゃねえか…」

「いいわね…暖かいお鍋」


 ガラッドとリリファが、物欲しそうに見てるな…。

 食料に余裕はあるし、分けてやってもいいんだが、一応これも試験中だしな。


「はいはい!食材を出すなら一緒に作りますよ!!」


 おお、マリーが角の立たない提案をしたな。

 それなら、評価にも響かないだろう。


「オレらは干し肉だけだ、量はあるが…」

「アタシ達は雑穀の携帯食ね、それと、みりん」


 何故みりんを持ち歩いてるのか…。


「みりんが有れば、大体何とかなるのよ」

「お前は、みりんに命でも救われたの?」


 何がなんとかなるんだよ、具体的に言えよ。

 

「それでは、干し肉とみりんを頂きますね!!」


 雑穀はスルーされたな、まあ使い道ないし。

 ふむ、干し肉は塩分と出汁が取れて美味そうだ。

 そして、みりん使うのか…しかも結構入れた。

 他にも調味料を入れたな、適当に。


「出来ました!皆さん召し上がれ!!」

「何であれで、こんな美味そうになるんだろうなぁ…」


 不思議だ。


「…う、うめぇ」

「ガラッドさんマジ美味いすよ」

「矢部、癖になる味だ」


 鬼さんチームにも好評だな、まあガラッド以外人族だから、鬼族少数派だが。


「はー、暖まるわね…照りも出てる」

「キノコの食感が良いですね」

「…田舎のお母さんの味だ、グスッ」


 何だよ照りって、お前適当に言ってるだろ。

 まあ、女子チームにも高評価か、一人故郷に思いを馳せてるが。


 うん、こうやって同じ釜の飯を食うと、距離が縮まるな。


「あのね、アタシだって冒険者やってんのよ、女だからって舐められるとムカつくわけ」

「チッ、うっせえな…鬼人はあんまガキが生まれねえからよ、女ぁ前に出さねぇんだよ」

「雷牙ちゃん、肉球触ってもいい?」

「かまわねぇぜ!ガハハ!」

「はいはーい!締めは雑炊にします!」

「メイドのねえさん、俺らもおかわり!」

「ううっ、これもお母さんの味…」


 大分、雰囲気が良くなったな…。


「ケントさん、これ狙った?」

「何のこったか分からねぇな」


 モヒカンを整えながら、ゴーグルの奥の目がニヤリと笑ってる。

 流石はベテラン、まだまだ色々敵わないな。




 ◇◆◇



「やれ!一人も逃がすな!!」


 隊長の激が飛ぶ中、ケントさんを先頭に雪崩込む俺達。


 今回の目的は、盗賊団の殲滅。

 衛兵達が廃村を取り囲み、一人も逃がすまいと待ちかまえ、精鋭が切り込む。


 魔術を打ち込んで全部燃やせば楽なんだが、捕まっている人がいるかもしれないので、それは無し。


「おら!『シルバースラスト』!!」


 早速ケントさんが一人、てか槍が速くて見えない、すっげ。


 そして、どうやら二番槍はマリーか。


「はぁぁ!『セイバーウイング』!!」

「ぐぁぁ!!」

「な、何だこのメイド?!」


 マリーは、やっぱり『武技』使えたのか。

 つか、親父の技だな。

 左右の剣を翼に見立てた、移動しながらの高速斬撃だ。


「後ろのガキどもから殺れ!!」

「嫌だね、『鎌鼬』」


 指示を出してた盗賊の首が飛んだ。

 …初めて人を殺したけど、どうという事も無いな。

 まあ、廃村の外に打ち捨てられた、一般人や冒険者の骨を見れば、そうなるか。


 一方で、人を殺すのに踏ん切れない奴もいる。

 リリファだ。


「くそっ!この女ぁ!!」

「きゃあぁぁぁ!!」


 やばいかな?と思ったが、ガラッドが上手く身体を割り込ませて、フォローに入った。


「テメェ!オレを無視するな!『オウガクラッシュ』!!」

「ぐぼぁ!?!」


 なるほど…戦斧担いで、あの巨体で速いな、動きが直線的すぎるけど。

 『武技』で兜ごと頭を両断、ガラッドは戦場だと、中々頼もしい奴だ。


「おい、ボサっとしてんな!」

「あ、ありがと…」


 …駄目だな、リリファはまだ震えてる。

 魔物とは違うんだよ、人に殺意を向けられる事にも、人を殺める覚悟も、出来てない。


 俺は、一人向かって来ていた盗賊に『鎌鼬』を放つと、リリファの下に向かう。


「おい、ちょっと聞け」

「な、なによ…アタシはまだやれる…」

「女一人、大勢の男に囲まれて、服をひん剥かれて好き放題される」

「…な、何を言い出すのよ?!」

「飽きたら売られるか、外の連中の仲間入りだ」

「そ、そんなの分かって…」

「ならボサッとしてんな!!お前とお前ん所の仲間がそうなるぞ!!想像しろ!!」

「…!!」


 そうだ、ちょっと現実を見ろ。


「死にたくなきゃ、あのクソ共を何とかしろ」

「…わかったわ」


 覚悟が決まったか、ギリギリだか。


「…やるわ!『フレイムジャベリン』!!」


 炎の槍が着弾し、爆発が起こる。

 賊の胴体に、デカい穴が空いたな。

 こいつは、これで大丈夫か。


「おら!死ねやぁ!!」

「ぐっ!このヤロウ!!」


 やばいな、リリファを見てる隙に、ちょっとガラッドがピンチだ。

 一人やったが、三人に囲まれてる。

 まあ、こっちに盗賊が来ないようにしてくれてたものな。

 混戦してるな、魔術が誤射するかも…仕方ない。

 集中だ、集中。


「ふぅ…『縮地』」


 一瞬で間合いを詰める、この魔術本当に反則だよな。


「ガラッド、背後は任せろ!」

「うお?!何処から…いや、頼むぜ!」


 おお、戦闘中は案外、柔軟に動けるんだな。

 いいね、結構頼りになる奴じゃん。


「な、何だ?!このガキどっから沸いた?!?!」

「い、いいからぶった斬れ!!」

「そりゃ無理だ、『黒鉄』」


『黒鉄』で腕を硬質化させる、並の刃はこれで通らない。


「な、剣が腕に弾かれた?!」

「クソガキが!何で魔術師が前に出てくんだよ!!」

「うっせ、死ね悪党」


 鉄の腕で、そのまま盗賊の顔面を殴りつける。

 頭蓋骨をヘコませ、赤っぽい汁を撒き散らしながら吹っ飛んでいった。


「坊ちゃまに触るな!!『セイバーウイング』!!!」


 そして、一人が駆けつけたマリーの剣で首だけになる、いや早いな?!


「ぐぼぁ!!」

「よし!助かったぜウィンとマリー!」

「はい!!どういたしまして!!」


 ガラッドも丁度、戦斧を賊の脳天に叩き込んだ所だった。

 斬られてるけど、大した怪我じゃなさそうだ。

 鬼人は頑丈だしな、流石だ。


 そういや雷牙は何処だろう…あ、いたいた。

 暴れてるなぁ、両手の鉄爪が真っ赤だ。

 腕をクロスさせながら雄叫びを上げてる、猫だが。


 うん、戦闘も大分落ち着いてきた、そろそろ終わりかな?


「セラフィ義姉さんは何処だろうな…」

「ん、ここ」

「うぉぉぉい!!」


 びっくりした…後ろに居たよ!

 黙って近づくなよ!!


「ん、怪我人、治療してた」

「嘘つけ」


 メイスが血塗れなんだが。

 何で白い修道服が、赤に変わってるの。


「あ、セラフィ義姉さん、あっちに怪我人いるんだけど」


 ついでにガラッドを診てもらおう。


「わかった、ウィン君、案内よろしく」


 お、いたいたガラッド、リリファも一緒か。


「こ、これは助けてくれた借りを返してるのよ!勘違いしないでよね!!」

「いや痛え!力入れ過ぎだ!」


 包帯、巻き過ぎじゃん。

 あれ、この雰囲気もしかして、何か始まった?


「ん、怪我人発見」

「ちょっと!何よあんた…でっか?!」

「義姉さんだ、治療師が来たぞー」


 包帯じゃまだな、切って外すか。

 お、さすが義姉さん手慣れてる。


「『ミドルヒール』、…治った、大丈夫?」

「…はっ?!」


 ガラッドが何かぼーっとしてるけど、頭でも打ってたのかな?


「ん、大丈夫なら、行く」

「ま、待ってくれ!オレぁガラッドだ!あ、あんたの名前は?」

「セラフィ、ばいばい」


 あ、行っちゃった…相変わらずマイペースだな。

 多分、怪我人と盗賊の残りでも探しにいったな。


 …さっきから、ガラッドの様子がおかしいな。


「…天使だ」

「…んー??」


 あれ?これってもしかして…?


「な、なあ、あの聖女の様な方は…ウィンさんの所にいるのか?」

「ウィンさん?あ、ああ、義理の姉だよ…」


 あれが聖女?血まみれだったよ?

 そして、何気にさん付けで呼ぶし。


「あんなに、血で汚れるのを厭わずに、怪我人を治して回ってる…」

「いや、全部返り血だが」

「キレイだ…」

「話聞けおい」


 駄目だなこりゃ。


「ぐぬぬ…何なのよあの女…」


 リリファは…こっちはこっちで、厄介だ。


 面倒な事になってきたな…。



 ◇◆◇




 昇格試験は、全員合格だった。


 色々と怪しい所もあったが、良かったな。


「これで、Cランクか」

「そうですね、やりました!」


 まあマリーは受かると思ってたけどな。


 今回の盗賊団は、結局三十人規模だったらしい、いや多いよ。

 まあ、戦力だけ見れば、精々EからDランクの集まり、苦戦はしなかった。

 そもそも、五十人いても問題ない位の戦力を連れてったらしい。

 一人、頭目がCランク冒険者崩れだったが、ケントさんがあっさり倒した、流石だ。


 そんな訳で、軽く合格祝いをしてる。


「酒は飲めないから、飯だけどな」

「いつもより豪華なお肉です!」


 雷牙なんて、さっきから高級マタタビ入りのスナックをカリッカリッてやってる、猫だ。


「ん、取り分けた」

「セラフィ助かるのじゃ、あーん、熱っ!!あっつ!!」


 平和だなぁ。

 下を火傷して、治癒魔術を掛けられてる輝夜師匠を眺めていると、マリーが俺の肩をチョイチョイ、と突いてきた。


「ん、どしたの?」

「坊っちゃま、帰りに皆んなで写真を撮りましょう!」


 写真ってアレだろ、貴族が見合いに使うやつ。

 結構お値段しない?


「王国と違ってこの辺りだと、結構庶民でも撮ってますよ!」

「ん、記念、良い」

「オレぁアニキが良いなら何でもいいぜ!」

「な、なあ、妾も、妾も入って良いんじゃよな?」


 いや、輝夜だけ仲間はずれにしないから。


「だって、妾いつも戦闘混ぜてもらえないもん」

「いじけるな」


 面倒な女だな…。


「輝夜さんも仲間です!!」

「ん、一緒に撮ろ?」

「お主ら、良い奴じゃのう!!」


 よし、丸く収まったな。




 でもって食事の後、皆で記念撮影した。

 服装は何時もの、冒険者やってる格好だな、まあパーティーの写真だし。

 しかし、雷牙は写真映りが、完全に猫だな。


「いい記念になりましたね!」

「おう、そうだなぁ」

「ん、良き」


 ちょっと照れるけどな。

 俺、表情硬くない?


「輝夜の姐さん、何してんだ?」

「うむ、ペンダントに入れて、持ち歩こうと思うての」


 なるほど、だから縮小サイズを頼んでたのか。

 嬉しそうで何より。


「うーん、このペンダント何処から開けっ?!のじゃー!!」

「輝夜さんが!また転びました!!」

「余所見しながら歩くから…」


 俺はいつも通りパンツを確認した後に、腕を掴んで立たせてから、服のホコリを払ってやる。

 この動作も慣れたもんだ、今日は紫だった。


「ん、『キュア』」

「ふえーん、ありがとうなのじゃ…」


 最近は、セラフィ義姉さんが擦り傷を治してくれるから助かる。


「よし、帰るか」

「はい!今日は楽しかったですね!」

「おう!明日からがんばれるぜ!」

「ああっ!お主ら待つのじゃー!」

「こら、走らない」


 平和だなぁ。

 毎日、こんな感じで過ごせたらいいな、うん。




 ◇◆◇



 平和は、そう長くは続かなかった。


「ウィン君、助けて」

「…義姉さん、何があった?」


 助けを求めて来るとか、穏やかじゃ無いな。

 まあ、あんまり深刻そうな雰囲気では無いけど。

 セラフィ義姉さん、ちょっと表情が読み難いからな。


「むぅ、付き纏われてる」

「…誰に?」

「からあげ」

「…ああ、カラッと…じゃ無く、ガラッドな」


 あの様子だったからな、早速行動に出たか。


「ん、ちょっと鬱陶しい」

「そんな感じか」


 まあ、危害を加えられるとかじゃ無さそう。

 あと、既に振られてて可哀想。


「念の為に、一応聞くけど、無いと思うけど、付き合う気とかは?」

「無い」


 そうだよなぁ。


「そろそろ来る、一緒にいて」

「え、どうすれば良いの?」

「私に、合わせて」


 …まあ、何か考えがあるから、手伝えって事か。


 昼前なのも有り、ギルドの酒場は客が殆ど居ない。

 俺とセラフィ義姉さんは、目立たない隅っこの席で時間を潰した。


「あ、来た」

「どれ…ぶっ?!ブフォッ!!」


 そこには、白いタキシードに身を包み、薔薇の花束を携え、髪型を七三分けにした、赤褐色の強面がいた。


 いや、あまりのギャップに吹き出しただろうが!

 何、頬を赤らめてるの?モジモジしてんじゃねえぞ?!ラブコメかっ?!キモッ!!


 俺は、ガラッドの後ろで気不味そうにする、取り巻き二人に駆け寄り、首根っこを捕まえた。


「お前ら!!何であんなになるまで放っておいたんだ!!」

「お、オレらだって止めようとしたさ!!」

「気が付いたらもう、手遅れだったんだよ!!」


 …全く、こいつらには危機感が足りない。


「お前ら…アレが、ただの告白で終わるとでも思うのか?」

「…な、何?!」

「流石に冗談、だろ…?」


 …見てろ、動くぞ。


「せ、セラフィさん!!オレと結婚を前提に付き合ってくれ!!!」


 あーあーあー、言っちまったよ!

 ほれ見たことか!


「えっ?そんな、ガラッド、いきなりプロポーズ?!」

「おい止めろ!黒歴史になっちまうぞ!!」


 まあ、黒歴史云々は、もう遅いと思うが。


「ね、ウィン君、これ面倒」

「まあ、そうだなぁ…」


 こう、正面から真っ直ぐ来られると、邪険にし難い。

 何だかんだ、義姉さんは優しい人だから。


「ううん、出来るだけダメージ与えて、振る」

「血も涙もなかった」


 ひでぇや。


「こっちの都合考えない、身勝手男、ウザい」

「なるほどなぁ」


 女性の側から見ると、そんな感じか。


「なあ、頼む!オレと付き合ってくれ!!」

「ん、断った」

「お、お願いだ!オレ…こんな気持ちは初めてなんだ!!」

「…仕方ない」

「か、考えてくれるのか?!」


 いや、違うと思うぞ?

 相変わらず義姉さん、面倒そうな顔だし。

 そして、俺の頭を掴むし。


 …何故?


「ち、ちょっと!セラフィねえさん?!ん?!ンンン!!!」

「ちゅ、ペロペロペロー」


 お前なに又公衆の面前で何ディープかましてくれてんだ!!


 あ、ガラッドが薔薇の花束を落とした。


「…あ?せ、セラフィ、さん…何やって…?」

「私とウィン君、こういう事する仲」


 おい、俺を巻き込むな。

 というか、この為に俺をよんだか?


「ま、まてよ!アンタら姉弟じゃ?!」

「義理だから、ギリギリおっけー」


 義理とギリギリを掛けんな。


 とか心のなかでツッコミ入れてたら、セラフィ義姉さんが、そのとんでもねぇおっぱいに、俺の顔を抱き寄せてきた?!


 不味い!気道を確保しないと死ぬ!!


「わかった?私は、ウィン君の物」

「え…は?は??」

「(ふー!ふー!ふー!)」


 二人は何か言い合ってるが、俺は生きるのに必死だ。

 あ、腕の力が緩んだ…空気がうまい…。


 危なかった、おっぱいは怖いな。


「ウィン君、部屋に戻って、おねえちゃんのお尻、また叩いて、んっ」

「なっ?し、尻?!嘘だそんな…セラフィさんは天使なんだ…!!」


 お前メスの顔で何言ってんだ、このマゾ豚シスターが。

 あ、やばい、ガラッドの顔色が土みたいになってる。


「せ、清楚なセラフィさんが、オレ以外の男と、嘘だ…うっ!ゔゔ!!ヴヴェェェ゙ェ゙!!!」

「大変だ!ガラッドが吐いた!!」

「誰か!バケツと雑巾持ってこい!!」


 ストレス性の胃炎かな?

 いやあ、これは酷い事になった。


「うぉぉぉぉ!!オレのほうが先に好きだったのにっ!!!あがががががぎが!!!」

「ガラッドが逃げ出した!!」

「追いかけろ!!」


 …行ったか。


「何で俺、巻き込まれたんだろうな」

「ん、ありがと、ウィン君」


 義姉さんはスッキリした顔してるなぁ。


 ん?あれは?

 誰だっけ…ああ、リリファだ。


「…くふっ」


 …悪い笑顔を浮かべながら、ガラッドを追いかけて行ったな。


 …まさか、傷心につけ込む気か?

 やる事がエグ過ぎる。

 まあ、あの女がフォローしてくれるなら、俺も助かるよ、思惑は別として。


 俺は、走り去るリリファの背中に向けて、サムズアップをしながら見送った、頼むぞ。


「…薔薇の花束、置いてったな」

「ん、捨てる」


 結構高いだろうに、勿体ない。


「捨てられるのでしたら、受付のカウンターに飾っておきましょうか?」

「ん、ハルカさん、それがいい」

「飾っちゃうかぁ」


 カウンターに来るたび、トラウマが蘇るな。


 頑張れ、ガラッド。

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