013

12/9 少しタイトル変えました。



――――――――――――――――




「逢魔輝夜じゃ、冒険者登録を希望する」

「え、この身分証は…魔術ギルド幹部のカード?え?は、はい…はい?!?!」


受付のハルカさん、めっちゃキョドってる。


「どうした、兼任は問題なかろう」

「おい輝夜、あんまりハルカさん虐めるなよ」


泣きそうだろ。


「うう、ありがとうウィン君」

「うちの師匠がごめんな?」

「え、師匠?うそ…つまり、ウィン君、オリジンの、弟子…??」


あ、だめだフリーズした。

お、ギルマスが出てきたぞ?

あ、ハルカさんが運ばれていった。


「すまねえ!アンタの処理は俺がやるから!」

「ふむ、此処のぎるどますたーか、なら早よせい」


あきらかに、色々と端折って手続きされてるな。

これが権力か…。


「…んでだ、取りあえずアンタは、Sランクで登録するから、それでいいな?」

「いや、Dらんくからで良い」

オリジン根源魔導師をそんな下位ランクに出来る訳無いだろ!!」


ごもっとも、なのかな?

正直、輝夜の全力見たことないから、いまいち分からないんだよな。


「なんじゃあ…貴様ぁ…。

妾の言う事に、なんぞ文句でも有るかのぉ?」

「ひい!?ま、魔力を垂れ流すな!!勘弁してくれっ!!」


お、ギルド内で、泡吹いて倒れる奴が出てきたな。

そんなに怖くないのにな、輝夜師匠。


「だ、大体、なんでDランクなんだ?!」

「…だって、弟子と一緒に、ぱーてぃー組みたいもん」

「…特例で、組める様にするから、頼むから」


必死だなギルマス。

しかし、俺と組みたいからランク下げろとか、可愛いなこいつめ。


「ほら、ウィンのパーティーに入れておいたぞ…」

「おお!良くやった!

…ん?何じゃこの奇天烈なぱーてぃー名前は…『実家を追い出されたけどメイドさんと一緒に成り上がる』??

お主の”せんしてぃぶ”な情報、だだ漏れではないか」

「あのな師匠、ランク低いと、自動でそういう感じになるんだよ」

「ふーん、気に入らんのぅ…」


おい、ギルマスを睨むな。


「おい、輝夜、カスタマーハラスメントはやめろ」

「そんな怒らんでも…難しい言葉知っとるの?」

「ウィン、頼むからさっさとランクを上げろ…オレの心臓が保たない」


慣れてくれ、ギルマス。




◇◆◆




あれから二週間程経った。


「『常闇』、よし!討伐依頼は完遂じゃ!」

「アホかお前!肉片すら残さないでどうすんだ!?」


お前これじゃ金にならないだろ。

何だあの魔術、グランドヴァイパーが、ひしゃげながら闇に飲まれてったぞ。


「だって、ちゃんと倒したんじゃもん」

「倒せばいいってもんじゃないんだよ」


これで何度目だ。

魔石とか牙とか、色々金になるんだよ。

肉も結構美味いし。


「えっと、輝夜さんは後ろに下がってて下さいね」

「輝夜の姐さん…おっかなくて、前に出れねぇぜ」


オーバーキルなんだよな、ヘビどこ行った。

大体ここ、DからCランクの狩り場だし。

そう、俺と雷牙もやっとDランクになった訳だ。

引っ掛け問題にも慣れたよ、うん…。


此処は街から歩いて半日、街道か少し奥に入った森の中なので、野営を一泊挟むことになる。

初めて野営したときは、戸惑ったけどな、三回目だから多少勝手が分かる様になった。

あと、距離が有るので荷物が邪魔になる筈だたんだが、輝夜師匠の『空間魔術』を使わせて貰ってるので、かなり助かってる。

優秀な荷物持ちだな、うん。


「よし、もう一匹探しにいくか」

「ふぇーん!次はちゃんとやるのじゃー!」

「…輝夜は師匠らしく、後ろで見守って危なくなったら助けてくれ」

「む、その方が師弟らしいかの…仕方ないのぅ!」


納得してくれたか、良かった。

実際、輝夜程の実力者が後ろで控えてくれてるのは、頼もしい。


「輝夜師匠のお陰で、ちょっと上の狩り場にも来れるしな」

「お?そうじゃろ?もっと師を敬うが良い!」


うん、機嫌良くなったし、暫く放って置けるな。




◇◆◆


「アニキ!そっちだ!!」

「ちっ、疾・風・鋭・刃!『鎌鼬かまいたち』!!」


 最近覚えたこの魔術を、俺はまだ予備呪文無しでは使えない。


 地面スレスレを回転しながら、大きな風の刃が飛んでいく。

赤黒い大蛇の首にめり込んだ刃は、半ばまで首を断ち切るが、あの位だとまだ動くか。


「オラァ!止めだ!!」


雷牙の鉄爪が大蛇の首を吹き飛ばすと、暫くうねうねと動いていた本体も、やがて生命活動を終えた。


「…油断しました。マリーの不覚です」

「姐さん大丈夫かよ?!」

「だ、大丈夫かえ?マリーや大丈夫かえ??」

「落ち着けって、毒消しは効いてるから」


グランドヴァイパーの上位種、ブラッドバイパーだ。

通常種と戦ってる間に、上位種の発見が遅れた。

牙が掠ったのは、一番前に居たマリーだ、こいつは毒持ちだった。


「す、すまねぇ…索敵はオレの役目だったのによ…」

「蛇系の魔物は、感知が難しい故にな。

ましてや戦闘中では無理も無い、雷ちゃんの責任では無いのじゃ」

「ええ、マリーが油断していなければ…」

「…ごめん、俺の魔術が遅かったから」


予備呪文を使わなければ、間に合ってたかも知れない。

ただ、これは全員が悪い訳ではないな、と思った。


「…ちょっと考えてたんだが、最近マリーと雷牙の負担が大きい気がするんだ」


特にマリーは、真っ先に的に突っ込む役が多い。

…俺が攫われた一件以来、少し無茶してる気もするし。


ちょっと、戦力を補強しないといけないか?

いやまあ、ぶっちゃけ輝夜師匠だけで、この辺の魔物は殲滅出来るんだが。

この人にやらせると、敵は倒せるが金にならないからな、全部消し飛ばすので。


それに、甘えていたら俺達の成長にも繋がらない。

だから、居ないものとして考えないといけない。


「一人、パーティー増やすか?」

「そうだなアニキ、前衛か回復役が良いんじゃねぇか?」

「これ以上前衛を入れると雷牙が前に出れませんから、マリーは治癒術師が良いと思います」

「…お主ら、妾を頭数に入れておらんな?」

「輝夜は保護者枠だから、な?」


だから仕方ないだろ?実力が違い過ぎるんだから。

輝夜師匠はパーティーの査定外だからな、ギルマスも言ってただろ。


「じゃあ、ちょっとメンバー募集してみるか」

「賛成だぜ!」

「良いと思います!」

「むう…今度『創造の魔女』にでも教えを請うかのぅ」


みんな賛成だな、うんうん。

あと、物騒な二つ名のお友達は呼ぶな、そいつ絶対普通の治癒魔術使わないだろ。




◇◆◇




「あ、お帰りなさい『メイドさんチーム』。

一泊すると聞いてましたが、何か問題がありましたか?」

「ブラッドバイパーに噛まれてさ、毒消しポーション使っちゃったから帰ってきた」

「ブラッドバイパーですか…最近、少し森の魔物が活発に動いてますね、皆さん気を付けて下さい」


まあ、スタンピードって訳じゃ無さそうだけどな。


「それでハルカさん、討伐依頼の処理と、同ランクで治癒術師を一人募集したいんだけど」

「そうですね、皆さんCランクを目指すのでしたら、三人では厳しくなる頃でしょう」


ハルカさんも、ナチュラルにうちの師匠を頭数から外すよな、まあ仕方ないんだけど。

マリーが何やら募集要項を紙に書いて。それをハルカさんが確認してる。

あの二人に任せておけば、大丈夫だろう。


「では、この条件で募集を掛けます、お疲れ様でした」

「はい!よろしくおねがいします!」


新しいメンバーか、こうやって普通に募集するの初めてだし、楽しみだな。

どんな人がくるかな、つか誰か来てくれるか?


ま、気長に待とう。



◇◆◇




翌日から三日は、休日にした。

マリーの受けた毒は大した影響は残ってないが、大事を取った。

雷牙も、グランドヴァイパーを見逃したのは、疲労が溜まってるからだと思うし。


なので、新メンバー募集を口実にして、ちょっと休暇だ。


そんな理由で、俺は今人気のない森で、輝夜師匠と二人っきりで居る。


「魔術とは、世界を己の思うがままに改変する行為じゃ。

言葉や文字に魔力を乗せ、呪文や魔法陣にする。

それは、これから己が事象を書き換えると、『世界を好きに変える』と、この世に堂々と宣言し、認めさせる行為なのじゃ」


なるほど、難しい…。


「ほれ、もう一度じゃ」

「はあ…!『韋駄天』!!」


全力で走る!そしてコケる!!


「おおお!痛ってぇ!!」

「駄目じゃのう、ほーれじゃぶじゃぶ」


雑に回復ポーションを掛けるなよ、染みる。


「ほれ、次じゃ」

「はぁ…!『縮地』!!」


今度は大丈夫…眼の前に木の枝が!!


「は、鼻血が…」

「ほーれ、じゃぶじゃぶ」


ポーションじゃぶじゃぶやめろ、目に染みるだろ。


「発動が遅い、制御が甘い、駄目駄目じゃの」


そんな事言われてもなぁ。

『韋駄天』は自分の周りの時間を加速して、速く移動する魔術。

『縮地』は、その効果を一瞬に凝縮した、疑似瞬間移動だ。


つまり、『時間を操る魔術』の…初歩を教えて貰ってる。

でも、半端なく難しい。


「難しいのは当たり前であろう、世界で妾しか使えぬ根源魔術オリジンじゃ。

これは、師弟契約魔術を使った弟子にか教えられん決まり。

そして、根源魔導師が取れる弟子は、生涯ただ一人。

故に、教えるのも初めてじゃからの、余り根を詰めんで良い」


…重いよなぁ、責任が。

そんなルール知ってたら、弟子にならなかったよ。

俺、才能ないし。


「お主の、魔素を吸収して自分の物にする体質は、唯一無二じゃと言うただろう。

どんなに優秀な者よりも、妾はお主を弟子に選んでおったわ」

「…そんな買いかぶられてもなぁ」

「それにじゃ…あ、あんな、あんな…えっちな事しておいて!今更弟子が嫌だと言うでない!もう!!」

「それについては誠に申し訳無い」


色々あったもんなぁ…。

あれ、俺どっちかと言うと、された側じゃ?

…まあ言わないでおこう、逆ギレされるし。


「でもなぁ、速く動けても頭が追いつかないんだよ」

「思考まで加速出来ておらんからじゃ、だから制御が甘いと言うておる」

「難しい…」

「むしろ簡単に習得されては、妾の立つ瀬がない。

この程度は想定内じゃ、とにかく焦らぬことよ」


ま、それもそうか。

地道に頑張ろう、うん。




◇◆◇




翌日、早くもギルドに応募が来たと言う事で、午後に面会の時間を設けてもらった。

いや、マジ早くない?張り出して初日に来たって事だろ?


なんでも、昨日街に来たばかりで、丁度パーティーを探してたらしいが。


で、今その人が目の前に居る訳だ。


ウィンプルから覗くプラチナ色の髪。

白いシスター服を着てる、汚れ目立ちそう。

俺達より歳上かな?大人の女性だが、無表情で死んだ魚みたいな瞳をしてる、大丈夫?


いや、一番の特徴は…。


「治癒師、セラフィ、独身。

二十三歳、人族、女。

冒険者ランクはB、神聖魔術使い、宜しく」


…おっばいデッカ!!!!!

え、何なの?!スイカでも入ってんじゃないか?!

は?!デッカ?!?!?!


いやまて、それも驚きだけど、Bランク?!

何でDランクパーティーに?まずそれを確認しないと。


「おっぱいでっか」

「坊ちゃま、お気を確かに」


…はっ?!いっけね、ついうっかり!!


「のう、妾この女は止めたほうが良いと思うのじゃ…ぬぬぬ」


あ、師匠が自分のとスイカを交互に見比べてる。

それと競うな、相手が悪い。

輝夜だって、そんなに無いわけじゃないぞ、マリーよりは小さいが。


「あの、すいませんセラフィさん」

「ん、何?」

「何故、Bランクなのに、うちに?」

「入りたかったから」

「いや、だからその…理由を…」


…何となく分かってたけど、不思議ちゃんだなこの人!


「いや、もっとこう…具体的な動機とか?」

「どうき?」


いや、首を傾げられても。


「…申し訳ありませんが、マリーはちょっと信用出来かねます」

「ん、何でだ?確かにちょっと面白い人だけど」

「勘ですけど、何か隠してる気がします」


うーん、マリーの勘は当たるからな…。


「…分かった、ちゃんと言う」


本当に隠し事後有ったのか…。

さすがマリー、略してさすマリ。


「ウィン君が、似てるから」

「…へ、俺が?何に?る」


え、何?

何に似てるってる?


「うん、弟」

「…弟???」


流れが読めないぞ??

どういこと??

弟に似てる??


「えっと、その弟さんは?」

「死んだ」

「あ…ごめん」

「ん、気にしない、結構前」


なんとか話が掴めてきたな。


「つまり坊ちゃまが、セラフィさんの亡くなった弟に似ていたので、気になって近づく為に、勧誘に応募したのですか?」

「おおむね、そう」


まとめ助かるマリー。


コクリ、と頷くセラフィさん。

表情筋が動かないな、この人。


しかし、待てよ…何か、もの凄く嫌な予感してきたんだが…。


…。


やばいな、確認しないと。


「弟さんて、どんな人だった?」

「ん、髪色以外は、あなたとそっくり。

母親は同じ、私の父は死んだ。

弟の父は違う人、行きずりの男」


…やばい、逃げたくなってきた。


「…その父親、どんな奴か分かるか?」

「ん、イケメンでチャラい、強い剣士、腰に二本の剣、女友達いっぱい」


…うわぁ。

…これ以上聞きたく無いな、でもなあ。


…やっぱ確認しないとな。


「どんな性格だった?」

「いつも、お母さん口説いてた」

「…どんな感じで?」

「ん、『君という風が吹くから、俺の翼は高く舞い上がれる』とかキザな――」

「親父だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


あー!!チクショウ!!!

あの色ボケクソ親父!!!

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