012

「やっほー!ウィン、久しぶりだね」

「お、おう…ミカ、無事だったか」


 こいつ、さらっと現れたな。

 それよりも、服装が問題なんだが…。


「…いや、なんで女の格好なの?」


 男だよな?

 男、だよな??


 白いワンピースに帽子、あざとすぎない?


「だって、ボク美人だし、可愛いでしょ?」

「それはそう」


 かわいい、あざとい、男なのに、目覚めそう。


「あはは!やっぱりウィンは面白いね!」

「あー、立ち話も何だから、どっかで話さないか?」

「じゃ、お洒落な喫茶店知ってるから、そこに行こ?」

「デートじゃん」


 うーん、調子狂うな。

 まあ、話したい事もあるし、行くか。



 ◇◆◇



「何たのもっか?」

「イチゴケーキ&ミルクセット」

「案外ファンシーなの好きなんだね…じゃあボクもそれで」


 美味しいじゃん、イチゴ。

 本当、召喚勇者は良いものを残してくれたな。


「んー、甘いっ」

「ホントだ、美味しいね」


 さて、どうやって話を切り出そうかな?

 まあ、俺に腹芸は無理だからなぁ…。


 うん、普通に聞くか。


「なあなあ、聞きたいんだけど」

「んー、なぁに?ウィンになら何でも答えちゃうよ」

「お前さ、ドルバッグやった?」

「うん、やったよ?」



 ◇◆◇



「はー、美味しかったね」

「うん、また来たいな」


 今度、マリーと輝夜も連れてこよう。

 雷牙は、ケーキ食えるのかな?


「あ、ここはボクが払うね、口止め料!」

「別に喋らないよ、まあ金ないし、奢られるけど」

「キミ、素直すぎだね」


 遠慮とか知らん。


「でも、何でやったとか色々聞かないんだね、て言うか普通聞くものじゃない?」

「ん、話したきゃ聞くけどな、気にはなってるし…つか、お前も割と堂々と会いにくるよな?」

「別にバレても問題無いからね、ボク強いから」


 そりゃそうだろうな、何だよあのダイヤの像は。

 アレ見ただけで、勝てる気がしない。

 まあ、色々聞かないのは、そういう事では無いけど。


「何ていうか俺ら、『友達』じゃん?何か突っ込んで聴いて、嫌われたくないし」

「…へ?そんな理由??

 …ふっ、あは、あははははは!!

 そっか、『友達』か、良いね!」


 まあ、うっかりおちんキッスしちゃった仲だしな…。

 そうだ、こいつ男だった…忘れてた。


「流石にあの状況だと怪しすぎるよね、ほらボク美人過ぎるし」

「美人は関係なく無い?」


 自己肯定感が高すぎる。


「それに、俺達が拉致られてた屋敷の端っこで、砕かれたダイヤみたいな死体が見つかったからな」


 つまり、あの場にドルバッグをダイヤにした奴が居たって事だ。

 で、ミカ以外は全員、所在が割れてる。

 その上、ミカを売りに来た奴隷商人は、らしい。

 まあ、これだけ怪しければ誰でも疑う。


 そうそう、ミカに会ったら言いたいって思ってた事あったんだ。


「あのさ…助けようとしてくれて、ありがとうな」

「…え?何でそうなるの?」

「だって、アレって俺とメリンダに就いてた用心棒だろ?」

「そうだけどさ、それでこの状況でお礼って、キミ本当に考えが分からないね?」


 うるせ、ほっとけ。


「うん、キミが居た部屋まで行ったんだけど、ものすごく怖そうな魔女が来たから、バレないように逃げたんだ」

「…なるほど、あの人か」


 そんなに怖いか?むしろ可愛いが。


「それでも確証は無かったけどさ、もしミカだったらお礼を言いたかったんだ、ありがとう」

「…ぷっ、ふふ、あははははは!!キミ面白いを通り越してるよ!!」


 笑いすぎじゃないかな?


 ん、何だ顔を近づけて、ナイショ話?


「…一応言うけど、ボク犯罪者だよ?」

「わっ!ば、バカ耳元で囁くな、くすぐったいだろ」

「…何でラブコメ見たいな反応してるのかな、ホントに面白いなぁ、キミは」


 闇ギルドとかより、美少女(男)が接近してくる方が緊張するだろうがっ。

 それに犯罪なんて、王国だったら貴族の匙加減だけで決められるものだし。

 法に引っかかってないクズなんて、ごまんと居る。


「あの爺さんに関しては『ざまぁみろ』としか思ってない」

「正直すぎるねキミ、でも実際そうだから、んだけどね」


 美少年を、とか、吐き気がする。

 俺は正義じゃ無いしな、悪党に復讐したい奴が居るなら、させてスッキリした方がいいんじゃないか?


「へぇ、よかったらウチから仕事、紹介する?」

「それは遠慮しとく、俺は自分の事で手一杯だし」

「本当に、普通に接してくれるね、キミって」


 まあ、俺の思想は悪役寄りなのかもな。

 だから上目遣いでみんな、うっかり惚れそうだけどコイツ男だし。

 多分、あと一〇秒見つめられたら『別に男でもいいのでは?』とか思ってしまうかもしれん。

 ん、良いのか?良いのかも。


 なんて考えてると、ミカの表情が変わった。

 なんか真面目な…それでいて、しっとり重い視線だ。


 …コイツ真面目な顔してても女の子にしか見えないな、可愛い。

 とか思いながら見てたら、半目のまま口を開けて笑った。

 ひっ!何か背中がゾクゾクして寒い!!

 顔が嗤いながら近づいてくる!


「ねぇ、ウィン」

「お、おう…何だよ」

「ボク、キミの事好きになっちゃった」

「…え??」

「…ちゅっ」


 ん??あれ??

 今、キスされた???


「あはは!じゃあまた逢おうね!!」

「な?!お、おま!待てお前は!!」


 なんてことしてくれたんだ!!

 甘酸っぱいだろうが!!

 もう数日早かったら、危うくファーストキスになる所だっただろうがっ!!


「ボクの仕事にならないよう気を付けてね!ばいばーい!」

「お、おう、分かった、気を付ける」


 悪い事しないように気を付けよう、元々する気も無いが。


 つか、又会う気なのかな?

 闇ギルド大丈夫?バレて粛清とかされない??


 はぁ…色々有りすぎて疲れた。


 …しかし、今思えば…アレだよな…。


「…闇ギルド『浄罪』、か」


 死んで逃げる事を許さず、犯した罪の罰を、生かしたまま与え続ける。

 償いを強制する、傲慢な犯罪組織。




 ”レックスは、全身の皮膚が硬くなって、まともに動けやしねえ”


 ”そのまま固着化して、全身に焼かれた傷跡が残っちまったんだ”


 ”普通まともな回復術士なら、真っ先に習うものだがな”


 ”運良く死ねるまで、あのままだ…”




「まさか、な」


 あれは事故だ、うん。


 余計な事は考えない様にしよう、怖いし。




 ◇◆◇




 報酬と言う名の迷惑料が入ったりして、懐に余裕が出来た。


「坊ちゃま!このイチゴショート美味しいです!!」


 そうだろう、そうだろう。

 いい店を教えて貰ったな、ありがとうミカ。


 しかし、あれからマリーは特に変化がない。

 俺に、キスしたのに。


 まあ、その後ミカにもキスされて、俺の頭はフットー沸騰しそうになったがな。

 お陰で、俺の中でちょっと有耶無耶になりつつある。


 まあでも、こうやってマリーが美味しいものを頬張ってるのを見るのは、幸せだな。

 王都の安宿の時に比べたら、大分甲斐性がついてきたかな。


「んー!この『もんぶらんけーき』も美味しいのじゃ!」


 うん、輝夜もいるんだよな。

 どうも師匠は、これから俺に魔術を伝授するとかで、パーティーにくっついてくる気らしい。

 賑やかになるなぁ、既になってるか。


「アニキ!オレぁこの『フルーツショートケーキ』が好きだな!」


 いや、お前ケーキ食うんかいって最初は思ったさ。

 まあ、仲間はずれは良くないから、雷牙も一応誘ったんだが。


 アゴの下の毛に白いクリームが付いて、ヒゲみたいになってやがる。


「それで、お主らは暫く此処を拠点にするのじゃな」

「色々あったけど、この街は稼ぎやすいんだよな」


 雷牙のアゴの下を拭いてやりながら答えた、ゴロゴロ喉を鳴らすな。


「移動するにしても、Cランクに上げてからが良いと思います!」

「それもそうだな」


 Cランクからは、護衛依頼とかも受けれるからな。

 商隊の護衛しながら、他の街に行くのも有りだ。


「その前にDランク試験の勉強、しなきゃなぁ…」

「オレは次は受かると思うぜ!」


 うっそだろ、え、マリーが大丈夫だって言った?

 雷牙、俺より頭良いのかな。

 ショックだ…。


「なんじゃ弟子よ、筆記で躓いとるなら、妾に教えを請わんか」

「え、輝夜師匠は冒険者の試験とか分かるの?」

「Dらんくの資格じゃと、『野外危険活動 乙種三類』じゃろ?」

「そんな名前の試験なのか…」


 一と二も有るのか。

 誰が考えたんだ…勇者だったな、そういや。


「合格すると、ギルドカードに小さく『野乙三』って記載されるんですよ!」

「うわ本当だ…」


 マリーのカードには書いてある…。

『Dランク』の下に、ちょこっと。


「夕餉の後にでも教えるかの」

「そうだな、よろしくな師匠」


 早くマリーに追いつかないとな。




 ◇◆◇




「やっべ!ちょっと遅れた!」


 マリーの耳かきが気持ち良すぎて、少し寝落ちしてた。

 合間で時々、フッて息吹きかけると、ぞわぞわってするのが良い…じゃなくて。


「輝夜師匠怒ってるかな…ん?」


 輝夜が泊まってる部屋まで来たけど、何か物音と話し声がするな??


 俺が遅くなったから、誰か先客でも来たのかな?

 うーん、入って良いものか…中で何話してるんだ?

 ちょっと行儀が悪いが、聞き耳をっと…。



 ――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…


 ――『駄目なのじゃ!駄目なの!弟子のが付いた手で!こんな事してたらっ!に、にんしんっしてしまうかもしれ――』


 …。

 …。

 …。


 んー。


 ゴンゴンゴン!!


「すいませーん!師匠遅れましたぁ!!」


 思いっきりノックした。

 何故かは分からないが、黙って入ってはいけない気がしたので。


 ――『うひゃあ!!ち、ちょっと待つのじゃ!!』


 中でドッタンバッタン音がするな、余程慌ててるのか…何でだろうね?


「よ、よし!入ってよいぞっ!」

「あ、はい失礼します」


 中に入ると、ややスカートが乱れた様子の輝夜師匠が、ベッドの上に座ってた。

 何故か顔を上気させて、太腿をキュッと内股にに力いれて、女の子座りしてる。


「ち、ちょっとお主が遅いから、その…用事を済ませておったのじゃ!」

「あー、ごめんちょっと疲れて寝てた」

「そ、そうか…疲れておったのなら仕方ないの!」


 …何時もなら、文句の一つも言うのに、今日はやけに物わかりが良いな。

 しかし、この部屋暑いな…何かこう、湿気がむぁっとする。


 まあ、機嫌が悪くないのは良かった。

 何故か、顔が赤い気がするが…後、媚びた嗤いをこっちに向けてる。


 ん?あれは…。


「これ、露店で売ってた『こけし』じゃん」


 こんなの買うやつ居るのかと思ったけど、何で此処に?買ったの??


「あわわ、そ、それは…」

「…何か濡れてる気が…ん?スイッチが有る??」


 カチッ、ヴヴヴヴヴヴ――


「うお?!何だコイツ動くぞ!!」

「きゃー!か、勝手に弄るでない!!」


 床に落ちた『こけし』が、振動で暴れ回ってる。

 あ、輝夜が回収した。


「びっくりした…なあ輝夜、それ何に使うの?」

「ほぇ?!こ、これはな…そう、まっさーじ!こうやって、肩凝りをほぐす魔道具なのじゃ!」


 なるほどなぁ、そんな機能が有ったのか。

 ただの、おかしな顔が描かれた工芸品じゃなかったのか。

 …ちょっと濡れてたのは、何だったんだろ、汗かな?マッサージ器具だし。


「面白そうだな、ちょっと俺もやってみたい」

「ふぇ?!そ、そうか…では、せ、背中を向けるがよい」


 え、自分でやりたかったんだけど…まあいいか。


 カチッ、ヴヴヴヴヴヴ――


「お、中々気持ちいいかも」

「そ、そうじゃろう?」


 少し、こそばゆい気もするけどな。


 …気の所為かな、後ろから、しっとり重い視線を感じるんだが。

 あと、輝夜の息が荒い。


「な、なあ、そろそろ良いかな…?」

「まあまあ、妾に任せい…」


 …何で後ろから、肩とか腕とか触ってくるのかな?


「な、なあ師匠…?」

「…。」


 …何か熱心にマッサージしてるな。


「あ、後はこの丹田の辺りも、解すと良いのじゃ」

「あ!ちょっと待て、そこはくすぐったいっ!ぶぁははは!!」

「あ…これ!暴れるでない!!」


 ぶあはははは!ぶはははははは!!

 いやもうスイッチ切ってくれ!!

 …あ、切れたか。


「笑い過ぎで腹筋が痛い…って輝夜?」

「…んー?」


 大丈夫か?何か目の焦点が合ってないけど。

 ほげー…と言うか、とろんっとしたカワ顔になってる。

 そして、輝夜師匠、馬乗りになってるんだよな、ベッドの上で。


「はー…んっ」

「え、ん、ン!?」


 何で俺、輝夜にキスされてんの??

 あれ?最近こう言うの、多くない??


「すまぬ、手が滑ったのじゃ」

「いや、手って言うか顔じゃ?!」


 手が滑って唇は来ないだろ?!


「何、師弟にとっては挨拶みたいなものじゃ、皆やっとる、問題無い」

「え、それ男の師匠だと困るだろ?!」


 絶対嘘だろ?!


「…メイドともしたんじゃろし、妾だって――」

「ん、何ぶつぶつ言ってんだ??」

「何でもないわ!!」

「何でも無いって…ん?何だこれ、布??」


 左手に何か触ったから掴んでみたんだが、布だな。

 何か見覚えある布だな。

 あ、知ってるこれ、下着だ。

 下着って言うか、パンツだ。


「何でこんな所にパンツが――」

「きゃあぁぁぁ!!寄越すのじゃあああ!!!」


 ぶん取られた。


 あれ、待てよ。

 凄いことに気が付いたんだが。


「師匠、今ノーパンで俺に乗っかってる?」

「…。」


 輝夜が、そっと降りて床に立った。

 何かゴソゴソしてるが、俺は後ろを向いて見ない様にしてるので、何をしてるかは分からない。


 …まあ、穿いてるんだろうな。


「も、もうよいぞ!」

「お、おう!!」


 …気不味い。

 そりゃもう色々。


「…あー、弟子よ、試験勉強するかの?」

「…今日は疲れたから、明日にしない?」

「そ、そうよの!明日から頑張るのじゃ!」


 おやすみと互いに挨拶してから、俺は部屋に戻った。

 マリーが、起きてた。


「…盛ったメスの匂いがしますね」


 やめて、俺は何もしてない!!


 部屋、個室にしようかな…。




 ◇◆◇



 こんばんは、ミミです。

 隣の王国から、こっちに拠点を変えて、大分経ちました。


「あーもう今日も凄くえっちですいけませんこんなの!!!」


 何故!んっ!毎回この人達の!隣の部屋になるんでしょう!!

 本・当・に!!!困ったものですね!!!んっ!!!





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