009
「今回の件は、本当にすまなかった」
筋肉モリモリのマッチョマンで、ツルツルにハゲたオッサンが頭を下げてる。
この人が、ギルドマスターのマックスさんだ。
凄い、見た目が完全に、ザ・ギルマスって感じ。
「レックス達の不正は、調査中だったんだ」
どうも、あのブレイズなんちゃらとか言う連中は、前の街でも不正で目を付けられていたらしい。
だが、レックスを贔屓にしているメリンダとか言うオバサンが、親のコネで告発など全て揉み消してたと。
ギルドは、中々尻尾を掴めずにいた。
そうこうしてたら、今度はメリンダが副ギルド長に、なんて話に。
推薦していたのは、皆メリンダの商会から賄賂を受け取ってた連中。
最終的には、ギルドマスターどころか、ギルド本部の幹部まで狙ってたらしい。
「俺が奴を調べてる間、『銀閃』の連中にレックスの近辺を洗って貰ってたんだが…まさか、他所から来て3日も経たずにやらかすとは」
レックス達は、かなり希少な魔道具を複数所持していたらしい。
その中に、周囲の景色と同化し、気配まで隠蔽する魔道具があった。
そいつは、優秀な『銀閃』の斥候まで欺いたのだ。
リヨン君達が、レックスを見失った理由もこれだ。
「レックス達は、君たちがオークを倒す様子も、隠れて見ていたらしい」
「マジかよ、オレの鼻にも引っ掛からなかったぜ…」
「マリーも、気が付きませんでした…」
二人共落ち込むな、ベテランの『銀閃』でも逃げられた位だからな、仕方ない。
余程レアな魔道具だったんだろうな。
「その魔道具の数々も、レックスが他の冒険者からだまし取ったり、メリンダが実家のコネで手に入れた物だ。
身の丈に合わない道具と、メリンダの内部不正で、レックス達『ブレイズオブグローリー』は、Bランクになっていた」
今回の騒ぎで、色々と明るみになったらしい。
「だが、俺の動きが遅かったせいで、若い冒険者が犠牲になってしまった…。
お前達にも、迷惑を掛けた。
本当に申し訳なかった」
「いえ、俺たちはいいんで。
それで、アニー達は、どうなりますか?」
仲間が死んで、逆上してしまった彼女。
罪は罪だか…出来れば、罰は軽くして欲しい。
「アニーの件だが、今回レックスに魔術を使ったのは犯罪だ。
だが、彼女が大怪我を負い、精神的に不安定だった事や、ギルドの落ち度だ。
それに、レックスの負傷が、火傷よりもお前との決闘で負った傷が酷かったから、問題ない…というか決闘の件で誤魔化した」
はっきり誤魔化したって言ったな…。
「肝心の、アニーの魔術は、実は大したダメージは与えてなかったって事になった訳だ。
そんな訳で、今回は孤児院で奉仕活動一週間と、罰金で終わりだ」
罰金も、迷惑料でギルドがアニー達に払った金額で間に合うらしい。
まあ、そう計算したんだろうけど。
「それで、まずメリンダは横領やら何やらで、労役二十年だ」
まあ、妥当な処分かな。
「レックスの取り巻きの女達は、加入して二週間位でな。
不正については何も知らなかったらしい。
魔物の擦り付け行為も、魔道具がレックスしか使えない様に管理されてて、奴が主導したのがハッキリしてるから、お咎めなしだ」
うーん、腑に落ちないけど、証拠が無いしな。
それに、二週間じゃ本当に何もやってないかも。
しかし、レックスの奴…そんなに短期間で、女性を取っ替え引っ替えしてたのか、腹立つ。
「それでだ、肝心のレックスだが…実は、再起不能でな」
「…え?回復受けてませんでした?」
ケントさん、大丈夫って言ってたよ?
「まあ、新人だと知らんか…。
簡単に言えば、未熟な回復魔術や安物のポーション使ったのが原因だ」
は?回復で駄目になるの??
「坊ちゃま、初級の回復魔術やポーションは、止血程度の効果しか出ませんので、酷い怪我には使えません」
「メイドの嬢ちゃんの言う通りだ。
今回は、ウィンが風魔術で全身傷だらけにした後に、アニーが炎魔術で、傷を焼いて固めちまっただろ。
そこに、未熟な回復魔術とポーションを、考え無しに使いまくった。
結果、そのまま表面が固着化して、全身に焼かれた傷跡が残っちまったんだ」
「うわぁ…」
怖っ!えぐっ!回復魔術ってこわっ!
え、そんな感じになるの?!
回復ポーションって、最低品質でも結構な値段するのに。
「普通まともな回復術士なら、真っ先に習うものだがな…まあ、気が動転してたのかもな」
命が掛かってれば、そう言うことも有る…のか?
「レックスは、全身の皮膚が硬くなって、まともに動けやしねえ。
歩けてもノロノロだし、見た目もアレだからゾンビにしか見えん。
あんなの鉱山にぶち込んだら、アンデッドと間違えて討伐されちまうからな」
「いっそ、討伐させればいいと思います!」
マリーきっつい事言うな、気持ちは分かるが。
「まあ俺もそのほうが、仕事が楽なんだがな。
…とにかく、あれを回復させるには、最高クラスの神聖魔術や、エリクサーでも使わなきゃ無理だろう。
だから、取り敢えず魔道具含めた全財産の没収後、魔術の検体として、どっかの研究所に送られる事になる。
運良く死ねるまで、あのままだ…」
自分の女のうっかりで、二度とまともな生活出来なくなったのか…。
同情する気は、全く起きないが。
そして、効果のはっきりしない魔術の実験や、怪しいポーション延々と飲まされると。
ま、巡り巡って人の役に立つなら、しぶとく生き残った意味もあったんじゃないか?
◇◆◇
ギルド長と話し合いを終え、数日後。
実は、これでレックスの件は終わり…と言う訳には行かなかった。
「オークの巣、か」
どうも、レックス達はオークの巣を発見してたらしい。
だが、何かヘマをして見つかってしまい、十匹くらいに追われる羽目に。
大部分は巻いたが、三匹程振りきれなかった。
次第に体力も尽きて来て、隠蔽の魔道具で姿を隠すにも、一度オークの意識をそらさないといけなかった。
そこで偶然リヨン達を見つけたので、そいつらにオークを押し付けて、自分達は隠れたそうだ。
「とんでもねぇ奴らだったな、アニキ」
その場で言わなかったのは、巣の事を報告したら、新人に擦り付けてたのがバレるかもしれないから。
ほとぼりが冷めてから、何食わぬ顔で報告するつもりだったんだろうな。
しかし、それで間引きが遅れてたら、最悪スタンピートだ。
「と言っても、俺たちはやる事無いんだがな」
「Eランクですからね!」
「おう、暴れたかったぜ」
参加出来るのは、ランクDからだと。
まあ、巣だと何匹いるか分からんしな、仕方ないね。
ただ、高ランクがみんなオーク狩りに出掛けてしまうので、それ以外の冒険者は、出来るだけ近場に居て欲しいと要請があった。
なので、居残り組は大体は簡単な依頼をしたり、休暇を取るパーティーも居る。
俺達は、何時もより大分静かなギルドで、依頼に行くでもなく、適当に過ごしている。
「それで、何でケントさんは居残りなんですか?」
あんた『銀閃』だろ、異名持ちなんだろ。
「ギルマスが参加してるからな、あの人が居りゃ過剰戦力だし、俺は代わりに留守番だ」
「何でギルマスが行っちゃったの?」
「色々あったかんな、名誉挽回と…八つ当たりだよ」
八つ当たりで、オークをサンドバッグしに行くなよ。
「今回は、若いのが死んじまったからな、余計に荒れてやがる」
「…そうですか」
こんな仕事だから、人の死にもドライだとおもってたけど、そうでも無いんだな…。
まあ、それでも、切り替えて行くしか無いけど。
あ、そうそう、ケントさんに聞きたい事があったんだ。
「あのさ、ケントさんのパーティー名って『銀閃の槍』だよね?」
「おう、俺がリーダーだからな、分かりやすいだろ?」
ケントさんの異名が『銀閃』らしいな、無駄にかっこいい。
「いや、よくそんな普通のパーティー名付けれたなって不思議だったんだけど?」
「おう、その事か」
そう、レックスのクズも、わりとマトモなパーティー名だったじゃん?
「あのな、メンバー全員がBランクのパーティーになると、名前の付け直しが出来んだよ」
「なまえの、つけ直し?」
「そう、それでだ。
Bからはな、名前の使用文字規制が、緩くなるんだぜ」
「…なん、だと?!」
え、何それズルい!!
「Bランクからは、貴族やらお偉いさん方の依頼も舞い込んでくるからな、変な名前だと嫌がる貴族も多い。
ある程度配慮されるわけだ、Bランクはいいぞー」
おいおい、いいなぁそれ!!
うん、考えてみると、貴族やら大商会の依頼を受けるパーティーの名前が、『爪楊枝しか装備出来ないオレが実は最強!美少女奴隷を集めてハーレム作っちゃいます』とかだったら、嫌だもんな。
「ケントさん、俺もBランク目指して頑張るよ」
「おう、やる気有るな、『メイドさんチーム』」
「姐さんのチームみてぇな名前だな」
「メイドは正義なので問題無しです!」
うん、なんだっけパーティー名…本当になんてったっけ、忘れたわ。
リーダー俺なのに、メイド一味とか呼ばれるし。
やっぱ、マリーのメイド服が個性マシ増しすぎる。
「そんなにBランク目指してんならよ、俺がちょっと、稽古つけてやるか?」
おお、渡りに船って奴だ!
是非お願いします!
◇◆◇
「ウィン、お前は魔術の発動が、ワンテンポ遅い」
「…はい」
「そんでな、後衛が殴り掛かって来るんじゃねえよ、アホか」
「えー」
バーサーカーか、とか言われた。
一応、最初に剣の素振りも見せたんだけど、模擬刀が一振り目ですっぽ抜けて壁に刺さってから、剣を持つのを禁止された、悲しい。
「雷牙は、ちと奇襲に頼りすぎだな。
飛び技は派手で威力も乗るが、空中じゃ回避できねぇだろ」
「うっす、すまねぇ…」
借りてきた猫みたいになってる雷牙は、ジャンプした所を槍で叩き落とされた。
あ、ヘコんでると、尻尾と髭が垂れ下がるんだ。
うーん、茶トラが座り込んでる様にしか見えない。
「んで、メイドの嬢ちゃんは…戦闘に関しては言うこと無い、メイド服を替えれば合格だ」
「ありがとうございます!」
うーん、実質マリー以外は落第か。
あとメイド服は脱がないと思う。
ガンガン打ち合ってからな、すげーのホントに。
まあケントさんには勝てなかったけど。
突きが見えないんだぜ?あれが『銀閃』か…。
「しかし、双剣か…嬢ちゃんの剣は、誰に教えてもらったんだ?」
「乙女の秘密です!」
「そ、そうか…まあ冒険者だから、詮索はしねぇよ」
親父の剣技だからな、他国の貴族の名前出すの面倒だし。
「Bランクは遠いな…」
「魔術師なら『
戦闘系なら、『武技』を使えないと、成れねぇぞ?」
「ぶぎ?…聞いたことあるけど、なんだっけ?」
「近接戦闘職の、魔術みたいなもんだ。
魔力を使って、技の威力を高めたり、色々出来る」
…たまに親父がやってた、アレかな?
武技って言うのか、いいなぁ格好良い。
「まあ、お前等にはまだ早ぇがな」
うん、知ってた。
「気になるって言えばよ、ウィンの師匠も気になるけどな」
「え、ナンデ?」
取り立てておかしな事は、してないと思うんだけど。
「お前の魔術の、使い方やクセっつーか、この辺じゃ珍しいんだ、極東の連中と同じだ」
「んー、俺も師匠の素性については、よく知らないんで」
極東か、この大陸の東端から、海を渡った先の地域だな。
師匠は、その辺の国出身なのかも。
普通に東へ向かっても会えないな、こりゃ。
「まあ、とにかくこれで訓練は終わりだ。
まとめると、まずウィンは魔術の発動時間を早くするか、発動まで時間を稼げる様にする。
雷牙は、地に足を付けて戦い、身体能力に頼り過ぎるな。
マリーの嬢ちゃんは、メイド服を売れ」
「押忍!ありがとあっした!」
「頑張るぜ!ありがとなケントさん!」
「メイド服は売りません!!」
うん、マリー以外はケントさんの教えを噛み締めてるな。
「替えろよ、メイド服」
「絶対に嫌です!!」
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