第23話 ごっくん担当幼女。

 午前中は約束の時間まで買い物をして一人で過ごし、翌日の午後になり、ルルちゃんの住む豪邸に招かれた私は、想像していた以上の待遇を受けていた。



「あ、あの……こんなに良くしてもらっていいの?」


「はい! お姉ちゃんは家族ですからっ!」



 そう言われて私は、目の前の机に置かれているものに目を映す。



(なんだか高級そうな香りが漂っている紅茶に、なんだかロイヤルな雰囲気が漂っているショートケーキ。というか、乗せられてる机まで高級そうだ……最初に家に入った地点で大量のメイドさんにお出迎えされた地点で気づいたけど、やっぱりお金持ちだったんだな)



 視覚と嗅覚から脳に向けて、なんだかいい感じの波動みたいなものが入ってきてる気がする。


 なんか、私の肺が豪華になりそうだ。


 これがいわゆる『勝者の世界』なのか……しゅごい。


 なんて思ってたら、ルルちゃんが何故かソワソワとし始めた。



「ルルちゃん、なんかソワソワしてる……どうかしたの?」


「あ、あの……えっと、実は、その、お姉ちゃんにお願いしたいことがあって……」


「お願い? 私にできることだったらなんでもするよ、なんでも言って?」


「で、では……私、お姉ちゃんに『あーん』ってされたいですっ!」



 そう言うとルルちゃんは顔を赤くしながら、目を泳がせ始めた。


 かわいい。



(可愛すぎて一瞬、心臓止まっちゃうかと思った。なんなら止まった可能性もある)



 もちろん、回答としては大歓迎一択だ。むしろ幼女にあーんしてあげられる体験会なんて、こちらから希望して体験させていただきたいまである。



「勿論いいよ。はい、あーん」


「あ、あーん……」



 そうして、私がフォークを使ってショートケーキの一部をすくいとり、ルルちゃんお口にめがけて差し出すと、彼女はその小さなお口を開けて私のケーキを受け入れてくれた。


 なんだか、雛に餌付けをしている親鳥みたいだ。



(……これ、めちゃくちゃムラムラするな。もしかしてスズメの親とかも雛に餌あげる時にムラムラしてるのかな? 今度、奈良咲さんにもやってもらお……委員長はまあ、いいか)



 そうしてルルちゃんは、私が差し出した白いモノを口の中でモキュモキュとさせて、彼女の唾液と絡ませた後に、それをごっくんしてくれた。


 ……ふう。


 さて、次は私もやってもらおうかな。



「次は、私にもして欲しいな?」


「ふぇっ! は、はひ……じゃ、じゃあ、その、あーん……」



 そうして私が口を開けると、緊張しているのか、ルルちゃんの手が若干震えているのが分かった。


 やはり、幼女はいいな……!



(あぁ……幸せすぎて頭がバカになりゅ……)



 そうして私が、ケーキと幼女のあーんを味わいながらトリップしかけているとき、ふと昨日から持ち続けている疑問が思い浮かんできた。



「……? お姉ちゃん、何か気になる事でもありましたか?」


「えっと、昨日、奈良咲さんがダンジョンから出る時に落ち着いたら連絡くれるって言ってたんだけど、まだ連絡がないんだよね」


「……それは確かに、気掛かりですね」



 もう既に一日経ってるし、流石に連絡があってもいい頃だろう。



「奈良咲さんってギャルだけど約束を破るような人じゃないし、なにかトラブルに巻き込まれてないといいけど……」


「では、探してみましょうか?」


「え、できるの? 奈良咲さんの家とか分からないよ?」


「問題ありません! 奈良咲さんが通っている学校周辺から探して徐々に範囲を広げていけば、足跡くらいはすぐに見つかるはずです」


「あれ? 奈良咲さんが通ってる学校知ってるんだ、ルルちゃんに話した事あったっけ?」


「いえ、お姉ちゃんの家を探した際に偶然見つけました」



 そういえばこの子、初めてダンジョンで出会った当日に私の家を見つけ出したんだっけ。


 ルルちゃんの探索力があれば、何かヒントが得られるかもしれない。



「それじゃあ、お願いしてもいいかな?」


「はいっ! お任せ下さい!」



 そう言ったルルちゃんが手元にあったハンドベルを鳴らすと、メイド服ではなく執事服のような服をピシッと着こなしている優しそうなおばあちゃんの執事さんが扉をあけて、一歩分だけ部屋に入ってきた。



(この人、多分お手伝いさんの中でも偉い人だ、背筋も綺麗だし)



 そうしてルルちゃんは、その人の前にとてとてと向かった後、何かを話していた。


 そして、二人の会話の一部が少しだけ、私の元へと聞こえてきた。



「なるほど……人探しでございますね。すぐに指示いたしましょう」


「はい、千人くらい動かしていただければ充分です。よろしくお願いします」



 ……え? 千人? ルルちゃんの家ってもしかして、軍隊とか所有してる?


 なんて思ってたら、ルルちゃんはこちらに返ってきて、おばあちゃん執事さんは扉を閉めて姿を消していた。



「それでは、少々お待ちくださいね」


「う、うん」



 そうして、一時間ほどルルちゃんと楽しくお喋りをして過ごしていた頃、コンコンと扉がノックされた。


 そして、ルルちゃんが扉を開けると、先ほど顔を見せたおばあちゃん紳士が再度現れて、ルルちゃんに何かを伝えた。


 すると、ルルちゃんの表情は明確に驚いているものに変わって、すぐに彼女は私の元へと報告に来てくれた。



「申し訳ありません、残念ながら見つからなかったそうです」


「いやいや、謝らないで! まだ一時間くらいしか経ってないし、そんなに気にすることじゃないよ。というかむしろ、探してくれてありがとうだよ」


「そう言っていただけるのは嬉しいです……ですが、本来ならこれはありえない事なんです」


「……えっと、どういう事?」


「我が一族の影響力は国内中に及ぶほどに強力なものです。ですから本来なら、これだけ時間をかけても一般市民の一人も見つけられないなんて事は絶対にあり得ません」



 ……なんか、恐ろしい事を言ってるな?



「そして、今回動員したのは百戦錬磨のエリート達です。そんな彼らが居ないと言うのなら、この地上にはまず居ません」



 そう断言するルルちゃん。


 そして、その報告を受けて私は、一つの結論にたどり着いた。



「という事は、奈良咲さんはダンジョンの中に居る……!」



 その瞬間、なんだか嫌な予感がした私はスマホを取り出して、奈良咲さんのチャンネルを確認した。



(やっぱり配信はしてないよね……)



 これでダンジョン配信をしているなら分かるけど、配信はしていないみたいだし、何かをダンジョンで探してるのかな……?



(それでも余程のことがない限り、一人でダンジョンに行くメリットはないはず。何かおかしいぞ)



 そうして私は、荷物を持ちながら椅子から立ち上がって、ルルちゃんに向き直る。



「私、今から奈良咲さんを迎えに行ってくるね。せっかく今日は誘ってもらえたのに、ごめんね」


「いえ、気にしないで下さい! それよりも、私も一緒に行きます!」


「ううん、気持ちは嬉しいけど、奈良咲さんと入れ違いになる可能性もあるから、ルルちゃんには引き続きダンジョンの外を探してもらえると嬉しいな」


「わ、分かりました。では、見つけ次第連絡します! お気をつけてっ!」





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 読んでいただきありがとうございます!


 最終回まで、あと二話です。是非、最後までお付き合いください!


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