第22話 ばぶーっ! ママーっ!!
そういえば、ルルちゃんを紹介した時に『あたしにも妹がいるけど、同じくらい可愛い』って言ってたっけ。
病気だったんだ、知らなかったな。
「妹さんが不治の病に……なるほど、だから薬なんですね」
「うん。ちなみに、あたしがダンジョンに潜り始めたのも、願いを叶えてくれるっていう聖杯があるらしいって聞いたからなんだよね。もしかしたら薬が手に入るかもって」
そういえば、奈良咲さんがダンジョン配信してる理由って聞いた事なかったな。
そんな重荷を背負ってたんだ……聖杯を譲って良かった。
……なんて私が思っていたら、奈良咲さんは言葉を続けた。
「でさ、妹の入院費とかはあたしが配信で稼いでたから何とかなってたけど、お金じゃ病気は治せなかったんだよね。だから、ずっと聖杯を探してたんだ」
「……ずっと、頑張ってたんですね」
「あはは、確かに頑張ってたよ? でも、結局あたしだけじゃ聖杯を見つけられなかったんだよね。でも、ワカナちゃんのお陰でこうして薬が手に入ったし、これでやっと妹を助けられるんだ」
そんな風に、しっとりとしながらも嬉しそうに語る奈良咲さんは、決して実力的に強い人ではない。
しかし、それでも聖杯探しを諦めなかった彼女は、本当に勇気のある人なんだと思う。
(……私も、奈良咲さんの力になれたことが嬉しいな)
そして、そう思ったからには、彼女を一刻も早く妹さんに合わせてあげなければならない。
「なら、今すぐ妹さんのところに行ってあげて下さい。配信はこちらで終わらせておきますから」
「い、いいの……? でも、ワカナちゃん、そういうの苦手じゃない?」
「だ、大丈夫です。聖杯は見つけましたし、あとは終わりの挨拶をするだけですから、任せてください」
「……分かった、ありがとう! 薬渡したら連絡するからっ!」
そう言って彼女は、帰還の指輪を起動して、地上へと帰っていった。
そうして、奈良咲さんの背中を見送っていると、ふと大切な事を思いだした。
(……あ、そういえば、七色のダイヤモンドせっかく取ったのに、奈良咲さんに渡し忘れてたな)
本来なら昨日渡す予定だったけど、配信スタートの合図を噛んで頭が真っ白になったせいで、完全に忘れてた。
(あー……大切なとこで噛んだの今でも恥ずかしいな。って、そうじゃない、一人反省会は寝る前のベットでやろう。今は配信だ)
そうして私は、配信を切るべく終わりの挨拶をする為、委員長とルルちゃんの方を向き直る。
その後、私は配信を切るべく終わりの挨拶をする為、委員長とルルちゃんの方を向き直る。
するとそこには、打ちひしがれて地面に這いつくばりながらも泣き続けている委員長と、しゃがみ込みながらそれを見守っているルルちゃんがいた。
「うぇあああああああん!!! うぉおおおおんん!!!」
「すごい、無限に涙が出てきてますね……壊れたウォーターサーバーみたいです」
……まずは委員長を落ち着かせないとな。
そう考えた私は、彼女に近づいて、声をかける。
「お、落ち着いてください……ほら、ルルちゃんも女神様も見てますし、なんならリスナーも見てますから……」
「そんな事はもはや、今の私にとってはどうでもいいです! ワカナさんと付き合えない人生に価値はありません! 人生終了が確定した私なんてもう全部どうでもいいんです!」
そう言いながら彼女は、まるで子供のように床をジタバタし始めた。
(……最初に声をかけてくれた時の、かっこいい委員長はもう居ないんだなぁ)
というか、配信を切る為には早くなだめないと……
……仕方ない、奈良咲さんに配信は任せてくれと言ったのは私だから、解決のためにはやむを得ないか。
「では、交換条件でどうでしょう? 今すぐに落ち着いてくれたら、私が委員長さんのお願いを一つ聞いてあげます。それでどうですか?」
「……それは、なんでも良いんですか?」
「か、可能な限り答えます」
……な、何言われるんだろ。
わざわざ聞き返すくらいだし、すごい事求められるのかな……き、キス、とか?
なんて、強めに身構えていた私に向けて、委員長は口を開いた。
「私、ワカナさんの赤ちゃんになりたいです」
「……へ?」
「事情は分かりませんが、ワカナさんはルルさんの姉になったのでしょう? だったら、私のママも兼任してもいいと思いませんか?」
どうしよう、何言ってるのか全然分かんない……
コメント欄は何で言ってる……?
:知ってたけど、しっかりとヤバ女だ
:俺も俺もー、ばぶー!
:ワカナママ……素敵な響きだね
だめだぁ……みんな委員長の奇行に慣れてるから、全然普通に盛り上がってる。
奈良咲さん、ごめんね。すごい強引に終わらせます。
「ルルちゃん」
「はい、なんですか?」
「今日は配信閉じるから、一緒に終わりの挨拶しよっか」
「あの委員長さんは……いえ、お姉ちゃんがそうおっしゃるなら、私は着いていくまでですっ!」
そうして、私のすぐ近くにルルちゃんが近づいてきてくれたので、私はカメラに向かって一言。
「では、今日の配信はこれで終了です。チャンネル登録と高評価も是非よろしくお願いします。では、また次回」
と、一息で言い切り、可愛らしくおててを振ってくれているルルちゃんに癒されながら配信を閉じた。
そして、未だに地面に這いつくばっている委員長を置いて、私はルルちゃんに声をかける。
「ルルちゃん、帰ろっか」
「はいっ! ところで明日、お時間はありますか? よければ私のお家でお茶でもいかがでしょう?」
「いいの? それじゃあお邪魔しちゃおうかな?」
「えへへ……配信以外でもお姉ちゃんと一緒に居られて嬉しいです! 今から明日が楽しみです!」
(か、可愛い……これが妹……! ふへへ……やっぱりロリ美少女はいいね……!)
「じゃ、じゃあ明日、私も楽しみにしてるね」
「はいっ! あ、こちらから迎えに行きますね! 時間とかの詳しい事は追って連絡しますね、えへへ……」
そうして、ルルちゃんとお喋りしながら『ママーッ!!』と叫ぶ委員長を背に、指輪を使って帰宅した。
そして、その日の夜にルルちゃんと連絡をして、明日の午後には車で迎えに来てもらえることになった私は、ワクワクしたまま寝る事にした。
ああ、明日が楽しみだ……でも、それとは別に引っかかる事もある。
(結局、奈良咲さんから連絡来なかったな……でも、病室の事情とかもあるだろうし急かしても悪いから、向こうからの連絡を待った方がいいよね)
そうして私は、明日に備えて眠る事にした。
……あんな事になるとは知らずに。
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