第21話 聖杯みーつけた!

「それで、どなたの願いを叶えますかぁ……?」



 そう言いながら聖杯を差し出してきた女神様に、私は問う。



「あの、叶えられる願いは一つだけなんですか?」


「はいぃ、申し訳ありません……聖杯一つにつき、一つの叶えるのが限界なのです」



 そうして、私がどうするべきかを悩んでいた頃、それとは反対にコメント欄は過去に類を見ない程に盛り上がっていた。



 :聖杯ってマジで実在してたんだな、すげぇ

 :なに願うんだろ、お腹いっぱい寿司食べたいとかかな?

 :てか人類初のダンジョン攻略者がカップルチャンネルなのおもろ

 :実質ワカナのハーレムチャンネルと化してるけどな



 ……ちょっとツッコミどころが多いな。


 とにかく、一度冷静になる必要があるし、とりあえず全員で話し合おう。


 というか、それならまずは私から意思を伝えるべきだよね。



「えっと、ひとまず全員でそれぞれの願いを確認しませんか? 私は友達欲しさにダンジョン配信を始めたので、既に願いは叶っています。ですから、今回は譲ります」



 そうして私は、皆んなに心からの本音を伝えた。


 私の事を好きだと言ってくれる奈良咲さんに、私を姉と慕ってくれるルルちゃん……ついでに委員長さんも。私には既に大切な人が沢山いる。


 つまり私は、聖杯に頼る前に願いを叶えてしまっているのだ。



「わ、私も、既に願いが叶っているので……お姉ちゃんと一緒ですっ!」



 そうして、私の言葉にルルちゃんも続いてくれた。


 しかもその後、彼女はとても可愛らしい天使の笑顔をこちらに向けてきてくれた。



(かわいい、膝に乗せてナデナデしたいな……あ、願い事できちゃった)



 そんな風にして、私とルルちゃんが聖杯を譲るという意思を表明した時、委員長がおもむろに口を開いた。



「私の願いは、ワカナさんとそこの女狐を別れさせる事ですね」


「……えっと、ではアスカさんはどうですか?」


「あっあっ、ワカナさんが私の存在を認めてくれない、脳が壊れりゅ……でも、これはこれで、いい……」



 そして私は、何故か一人で楽しそうにしている委員長は放っておいて、奈良咲さんに声をかける。


 すると、彼女からは意外な返事が返ってきた。



「……私は、どんな病気でも治せる薬が欲しい! どうしても必要なの! お願いします、譲って下さい!」



 薬……? 奈良咲さん、なにかの病気でも持ってるのかな……?



(まあ、詳しい事情はあとで聞けばいいし、委員長の願いは気にしなくていいから、今回は奈良咲さんに願いを叶えてもらうのがいいよね)



 そうして、私が奈良咲さんに聖杯を使ってもらおうと提案しようとしたその時、委員長が話に入ってきた。



「ダメです。貴女にはここでワカナさんと別れてもらいます。そして、ワカナさんの彼女の枠は私がもらいます」



 そして委員長は、女神から聖杯を受け取ろうとするべく、泉の方へ歩き出した。


 それに対して私は咄嗟の判断で加速を使用し、委員長に後ろから抱きついた。



「わ、ワカナさん、どうしてこのタイミングでバックハグを!? と言いますか、ワカナさんのお胸が当たってますけども、こんなご褒美をいただいても良いんですか!?」



 ……確かに若干私も気になるけど、今はそんな事を気にしている場合じゃない!



「アスカさん! 委員長は抑えておきますから、早く願いを叶えてもらって下さい!」


「い、いいの!? まだ理由とか説明してないよ!?」


「そんな事をしている時間はありません! このケダモノが暴れ出す前に、急いで下さいっ!」


「わ、分かった! ありがとう!」



 そうして、私が奈良咲さんの背中を押すと、彼女は女神様の元へ走り出した。


 そして、それと同時に委員長が私に声をかけてきた。



「止めないで下さい! ワカナさんと付き合う事は私の夢だったんです! 何に変えても、私はこの願いを叶えたいのです!」


「で、でも、委員長は私の水着姿も……は、裸も見たじゃないですか! それなら、ある程度願いは叶ってますよね! メンバーの中でまだ願いを叶えていないのはアスカさんだけですから、譲ってあげて下さい!」


「そ、それを言われると、確かに私は既に願いを叶えていますけど……くっ」



 そうして、私が委員長を拘束していると、すぐに奈良咲さんは女神様の元へとたどり着いた。



「め、女神様! なんでも治せる薬を下さいっ!」


「はあい、では聖杯の力を使いますねぇ」



 そうして、女神様がそう言った瞬間、聖杯が光を放ち始めた。


 そして、その光が落ち着き始めて完全に消失した時、聖杯は既にボロボロに崩れ去っていて、女神様の手には代わりに小さな小瓶が握られていた。



「あ、小瓶ですねぇ。中に入ってる透明な液体が薬だと思うので、割らないように気をつけてくださいねぇ」


「あ、ありがとうございますっ!」



 そうして、女神様から手渡された小瓶を奈良咲さんは、大切そうにしながらもしっかりと受け取った。


 そして、それと同時に委員長は咽び泣く。



「ああああああっ! 私の夢がああああっ!! うおおおおおんっ!!!」



 そんなふうに叫ぶ委員長は、現役女子高生の声とはとても思えないくらいに下品な声をあげながら、悔し涙のようなものを流していた。


 しかし私は、そんな彼女は一旦置いておくことにして、真面目な顔をしながら小瓶を眺める奈良咲さんに声をかける。



「あ、あの。アスカさん、なんだか難しい顔をしていますけど、どうかしましたか……?」


「えっ!? あ、いや! なんでもないよ……ってか、真面目な顔なんか見ないでよー! 全然可愛くないじゃんかー!」



 いや、奈良咲さんはいつも可愛いと思うけど……


 って、そうじゃなくて、奈良咲さんが難しい顔してるのは事実だし、まずはその理由を聞かなくちゃ。



(さっき薬が欲しいって言ってたよね……なんで薬なんだろ?)



 なんて思った私は、疑問をそのまま奈良咲さんに問う。



「なんで薬をお願いしたんですか?」



 すると、彼女から言葉が返ってきた。



「……あたし、病気の妹がいるんだ。しかも、今は完全に治す方法がないみたいで、ずっと何とかしてあげたかったんだ」



 ……病気の妹?


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