第20話 ぬれぬれーっ!
ルルちゃんのお姉ちゃんになった後、特にモンスターも出てこない平穏な道を進むと、大きな泉がある綺麗な場所へと辿り着いた。
そうして、私とルルちゃんは無事、配信カメラを起動している状態の奈良咲さんと委員長さん、両名との合流に成功した。
そして、すぐに奈良咲さんは私の胸元に抱きついてきて、見上げるような体勢のまま半泣きで呟いてきた。
「あたし、処女……守り切ったよ……!」
「しょっ!? な、何があったんですか!?」
……まあ、よく分からないけど、とにかく良かったのだろう。
というか、奈良咲さんって経験ないんだ……へぇ。
そっか、ないんだ……へへ。
(私と同じだ……ちょっと安心かも……)
そうして、このまま頭を撫で初めていいか分からなかったので、なんとなく余った両手で奈良咲さんの背中をさすっていると、彼女は私に抱きついたまま顔を上げて、声をかけてきた。
「ワカナちゃん、頭なでて……」
「わ、分かりました」
そうして、奈良咲さんのリクエストに答えると、私の鼻先になにやらふわっとしたいい匂いが香ってきて、なんだか幸せな気持ちになった。
(ギャルっていい匂いするんだ……! 新発見だ……!)
そして、私が新たに知った世界の真実に感動していると、奈良咲さんが言葉を続けた。
「ところで、ワカナちゃんとルルちゃんは大丈夫だった?」
「はい、詳細は言えませんが……ルルちゃんのお姉ちゃんになりました」
「ワカナちゃんこそ何があったの!?」
ルルちゃんは説明して欲しくなさそうだったので、彼女の願望に関しては当然、誰にも言うことはないし、今も説明する事はできない。
だからこそ、この後どうするかについて話を移す必要がある。
(とりあえず、あまり消耗していないから先に進みましょう……って返すのが自然かな?)
なんて思ってた時、知らない女の人の声が聞こえてきた。
「よくここ来ましたね、少女達よ」
そして、その声と同時に水色のロングヘアを携えた女神みたいな見た目の人が泉の真ん中からにゅるっと出てきて、こちらに近づいてきた。
びっちゃびちゃだ……
「だ、だれ?」
そうして、ぬれぬれのその人に奈良咲さんが問いかけると、彼女は返信を返してくる。
「私は、ダンジョンの女神です。ここがダンジョンの最奥になります。ここまでこれたあなた方を祝福して『聖杯』をお渡しします。さあ、こちらにどうぞ」
そう言った彼女は、まるで聖母のように両手を広げて、自らの元へと近づくように導いてくる。
「わ、ワカナちゃん、どーする?」
「……とりあえず、行ってみましょうか」
そうして私が、奈良咲さんの問いに答えた後で、その自称女神に近づこうと一歩を踏み出すと、みんなもそれに着いてきてくれた。
しかし、その時。
「ひゃあっ!」
「ルルちゃん!」
自称女神の口の中から大量の触手が出てきて、そのままルルちゃんが拘束されてしまった。
そして、ルルちゃんを拘束した自称女神は、ルルちゃんを自らの元へ引き寄せた後、彼女の喉元に触手を巻きつけながら、こちらに笑顔を向けてきた。
「ひゃははっ、騙されたな小娘どもがっ! このガキを殺されたくなければ私の言う事を聞け……」
そうして、それを見た私は自称女神が言葉を言い切る前に加速し、そのままナイフで彼女の喉を切り裂くと同時に、そのままルルちゃんを救い上げた。
そして、すぐに仲間の元へと戻った私は、ルルちゃんの無事を確認しながら、彼女を地面にゆっくりと下ろす。
「ルルちゃん! 怪我してない!?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
そうして、目標の撃破を確認した後、念のために周囲を見渡してみると、コメント欄が大量のコメントによって高速で流れていることに気がついた。
:あまりにも容赦なくて草
:人質が成立してない
:
:全く見えなかったからもう一回頼む
そして、追撃や増援は来ない事を確認した私がナイフをしまった頃、首の大部分が裂けている自称女神が声を振り絞るようにして、私に話しかけてきた。
「……はは、いやに反応が早いな。私が偽物の女神だと分かっていたのか?」
「いえ、警戒はしていましたが偽者だと確信していたわけではありません。ですが、貴女が私の仲間を攻撃した事は事実です、だから攻撃しました。本物か偽者かなんて、そんな事はどうでもいいんです」
「どうでもいい……? 仮に私が本物だったら、貴様らの望む『聖杯』が手に入らなくなるかもしれないのだぞ? お前はそれで良くても、仲間は違うかもしれないとは考えないのか?」
「はい。自分が願いを叶える為なら誰かが傷ついてもいい、なんて考える人は私達の中には居ないって事くらい分かってますから」
「そうか……素晴らしいな」
そう言った後、自称女神の肉体はすぐに消滅して、跡形も無くなった。
それと同時に、私はふと気がついた。
(消える瞬間、笑ってた……? いや、気のせいだよね)
そうして私は、次に向かう道を探すべく、改めて周囲を見渡す。
すると、さっきの自称女神とそっくりな見た目の女の人がオドオドしながらも泉を突っ切りながら、こちらにゆっくりと近づいてくるのに気づいた。
それに対して私は当然、彼女に自分の意思を投げかける。
「……! 何故生きてるのかは聞きません。ですが、まだ戦うと言うのなら容赦はしません!」
すると、彼女から帰ってきた返事は意外なものだった。
「あ、あのぅ、違うんです……私が本物なんですぅ……」
「……? とりあえず、詳しく話を聞かせてもらえますか?」
「は、はいぃ……」
そうして事情を聞くと、どうやら彼女は先程倒した偽物の女神に負けた結果、住んでいた泉を追い出されてしまった、本物のダンジョンの女神様らしい。
そして、彼女の話を聞き終えた後、委員長が私に話しかけてきた。
「ワカナさん、彼女が本物だと言い切れる根拠はありません。あまり信用しない方が良いのでは?」
「だ、大丈夫だと思います……多分ですけど」
そうして私は、彼女を観察していて気づいた事を委員長に共有する。
「この人、さっきの偽物と違って、泉に入っているにも関わらずまったく濡れてないです。水中に住むモンスターが水に耐性を持っているのと同じで、泉に住む女神様は濡れないのだと思います」
そして、そんな私の分析を聞いた自称本物の女神は、話にのってきた。
「あ、正解ですー。いちいち濡れていたら仕事になりませんからね……風邪ひいちゃいますし……へへ、ワカナさん、名推理ですねぇ」
「……なぜ私の名前を知ってるんですか?」
「これでもダンジョンの女神ですからねー。ダンジョンに入ってきた人間の事はお見通しですよぉ」
「……それを最初から言ってたら説得力もあったのでは?」
「な、なるほどぉ……ワカナさんは実力だけじゃなくて、頭もいいんですねぇ」
……なんだかこの女神様、雰囲気がフワフワしていて、ちょっと油断すると会話が緩くなりそうになるな。
それでも、今の私には、彼女にしっかりと聞かねばならない事がある。
「それで、何故私たちの前に姿を現したんですか?」
「そ、そうでしたぁ。お礼をしに来たんです。私はあのモンスターにやられて、ここを追いやられていたので……ようやくこれでお家に帰れますぅ」
そう言った彼女は、これこそまさに『聖杯』といった見た目の、豪華な装飾がほどこされた金色の器を懐から取り出して、私たちに差し出してきた。
「なのでお礼として、この聖杯の力を使って一つだけ、なんでも願いを叶えてあげますねぇ」
……え? 本当に聖杯くれるの?
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