第19話 どちらの『穴』に挿れられたのです?

 ルルちゃんの『姉が欲しい』宣言に対して、私は問う。



「えっと、お姉ちゃんが欲しいって、どう言う事?」


「そ、そのままの意味です、私は、姉が欲しいのです」



 そんなルルちゃんの発言に私が首を傾げていると、彼女は補足をしてくれた。



「幼き頃に姉妹愛を題材にした童話を読み聞かせてもらった際に、とても感銘を受けたのです。それからというもの、私は姉という存在に憧れているのです」


「ええと、ルルちゃんは兄弟はいないの?」


「はい、一人っ子です。兄弟に関しては、かつて母に『姉が欲しい』とお願いした所、とても複雑そうな顔をされてしまいました」



 まあ、そりゃそうだよね、物理的に無理だし。


 ルルちゃんお金持ちのお嬢様っぽいけど、お金で姉は作れないしなぁ。


 なんて思いながらも、私は彼女の話を聞き続ける。



「そして、姉を諦めかけていたある日、ダンジョンの奥には願いを叶える『聖杯』があると言う噂を聞いたのです。その時私は思ったのです、聖杯を見つければ私にも姉ができるのではないかと」


「な、なるほど……えっと、ルルちゃんは、どんなお姉ちゃんが欲しいの?」


「そうですね……やはりあの童話のように、少しオドオドする事がありながらも私を守ってくれるような……王子様のような姉が良いんです」



 まあ、アニメを見たり漫画を読んだりして日常生活を過ごしている私からすると、気持ちは分かる。


 私は妹派だけど、かっこいいお姉さんも好きだよ。



(でも、難しいよね。そんな創作みたいなお姉さんなんて現実には居ないし……)



 なんて思ってたら、ルルちゃんの話は予想外の方へと向かった。



「そんな時、見つけてしまったのです……ワカナさん、貴女を」


「……へ?」


「出会った際に助けていただいた時、ワカナさんに爆弾を投げた私を許していただいた時、そして昨日、私の気持ちを察して海に留まってくれた時。これまでの短い時間の中で、ワカナさんは私の喜ぶ事ばかりしてくださいました。だからこそ気づいたのです、ワカナさんこそが私の求める姉だったのだと」



 ……ちょっと大袈裟な気がするな?


 なんて思ってたら、ルルちゃんはわざわざ頭を下げてきた。



「ですからどうか、私の姉になってくださいっ!」


「わ、私でいいの?」


「もちろんです……いえ、むしろ、ワカナさんがいいんです!」



 私、絶対に王子様じゃないと思うんだけど……


 ルルちゃんの話を聞いてそんな事を思っていると、頭を上げた彼女は語りかけてくる。



「お、お姉ちゃんっ……な、なんて、えへへ……」



 お姉ちゃんっ……! ルルちゃんに、お姉ちゃんって言われた……!!


 ルルちゃんに、お姉ちゃんの事、大好きって言われた!!!


 それって私と家族になりたい、つまり、私と結婚したいって事だよね!? だ、だめだよ、私には奈良咲さんがいるのに……!


 これはお姉ちゃん……じゃなくて年上として、しっかりと家族にはなれないって言わなきゃ。



「うん、お姉ちゃんだよ!!!」



 しかし、私の心は正直だった。



(決めた、私が聖杯を見つけたら、この世界を多重結婚と同性婚が当たり前かつ、十二歳から結婚できる世界に作り変えよう。それなら全部解決だよね!)



 そして、二人と結婚した私は、奈良咲さんとルルちゃんと三人で、いつまでも幸せに暮らすんだ……!


 ……あれ、一人少ない気がするな? まあ、いいか!



「それじゃあ改めて、これからよろしくね、ルルちゃん!」


「は、はい! ワカナさん……ではなく、お姉ちゃんっ!」



 そうして私とルルちゃんは、奈良咲さんと委員長の元へと合流すべく、道を進んだ。





 ━━アスカ視点(ワカナ、ルルと別れた地点)━━



 ワカナちゃんと分断されてすぐに周囲が暗くなって、あたしといいんちょーはモンスターに襲われた。



「なんか暗くなってきた……ひゃああっ、なになにっ! なんか服の中に入ってきたんだけどぉっ!」



 そしてすぐに、あたしのスカートの中に急に何かが入ってきて、足を拘束されてしまった。


 しかも、足元に必死に爪を振り回すが、当たる気配がない。


 そして、あたしの声を聞いたいいんちょーが声を上げた。



「ああもう! またお色気回してるんですか貴女は! 一旦配信を切りますから、なんとか耐えてください!」



 そ、そんな事言われてもぉ……!



「で、できるだけ早くしてっ……んぁっ! あっ、やっ! 挿っちゃう、挿っちゃうからっ!」



 まずいまずい! これ以上は本当にまずいよっ!



(あたしの『初めて』はワカナちゃんのものだからっ……!)



 なんて、ワカナちゃんのことを想いながら必死に抵抗していると、なにかがかぎ爪の先に当たった。


 そして、急に辺りが明るくなって、あたしは解放された。



「あ、あれ? 足が動く……いいんちょー、あたしの攻撃って当たった?」


「ええ、当たってましたよ、致命傷を与えたのは私の攻撃でしたけどね」



 もうモンスターの体は消滅していて分からないけど、どうやら辺りを暗くする能力をもつモンスターだったらしい。


 そうして、目の前が明るくなって敵がいなくなった事を把握できたあたしは、チェーンソーを停止したいいんちょーにお礼を言う。



「た、助かったぁ、ありがとー……けど、なんで真っ暗なのにモンスターの位置が分かったの?」


「勘です」


「えぇ……いいんちょー怖……」


「なぜ貴女を助けた私が引かれなくてはいけないのですか。まあ、それはいいとして……どうやら、追加のモンスターが来たようですよ」



 いいんちょーがそう言うと、ぴちゃぴちゃと水音を響かせながら、岩陰から何かが出てきた。



「よし、今度こそっ! あたしも戦えるって、ワカナちゃんに示さなきゃね!」



 そして、いつまでもえっち担当では居られないと思ったあたしは、かぎ爪を構える。


 そうして出てきたのは、その緑色の皮膚で水を弾いて床を濡らしている状態の、ヌメヌメとした巨大なカエルのようなモンスターだった。


 ……それも、一匹ではなく、数十匹の群れで。



「いやぁぁっ! カエルは無理ぃっ! いいんちょー助けてー!」



 そうしてあたしは、いいんちょーの背中に逃げた。


 そして、それと同時にいいんちょーは叫ぶ。



「キヒヒッッ! 死にたいやつから殺してやるよッ、死にたくなくても殺すけどなァ!」



 そうして、いいんちょーがチェーンソーを起動し一歩を踏み出した……途端、カエル達は一目散に逃げ出して、辺りは急に静かになった。


 そして、彼女はチェーンソーを停止して一言。



「……あら、逃げましたね。では、急いでワカナさんと合流しましょうか」


「いいんちょー、やっぱ怖ぁ……二重人格?」


「物事には優先順位がありますから。今は楽しい時間を過ごすよりも、ワカナさんとルルさんに合流する方が優先です」



……いいんちょー、モンスターを切り刻む時間を楽しい時間だと思ってるんだ、やっぱ怖ぁ。


 てか、そういえばいいんちょーと始めて会った時、モンスターが出てこなくなる壺を置いてたのに琥珀蛇が襲ってきたけど、もしかしたらアレ、いいんちょーから逃げてきた蛇だったのかも……?



(ふつーに壺よりいいんちょーの方が怖いもんね、わかる)



 なんて思ってたら、いいんちょーは何かを思い出したみたいに、あたしに話しかけてきた。



「そういえば、先ほど暗闇で襲われた際に、一瞬の出来事だったせいでよく見えなかったのですが、その……どちらの穴に挿れられたのですか?」


「挿れられてないよっ! どっちにもっ!!」



 ……正直、どっちも結構ギリギリだったけど。


 同じような事が起こらないように強くならなきゃ。


 ワカナちゃんの彼女として……



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