第18話 需要と供給。つまり、姉と妹。

 巨大イカとタコを倒し、レアアイテムである『セーブストーン』を入手した後、キリが良いと言う事で一旦解散となって、翌日。


 作成したセーブポイントから探索を再開した私達が到着したのは、昨日の浜辺ではなく、大きな扉の前だった。



「前回は浜辺でセーブストーンを使いましたけど、今回のスタートは浜辺ではないんですね」



 私がそう言うと、委員長が返答してくれた。



「もしかしたら、私の『ワカナさんの水着姿が見たい』という願いが叶ったように、ダンジョン探索を進めたいという願いが叶ったのかもしれませんね」



 そう言われて私は、ルルちゃんが家に来た時のことを思い出した。



(ルルちゃんがダンジョンの奥に進みたいって言ってたし、その願いが叶ったのかな?)



 そんな事を思いながらも私は、目の前の扉を改めて見てみる。


 すると、だいぶ重大な問題が発生している事に気がついた。



「この扉、押して開けるタイプのようですけど、どう見ても押して開くような重さではないですよね……」



 改めてその扉を見ると、開け口になりそうなものがどこにも付いていなかった。


 しかも、その扉はどう見ても開けられる重さではない事が一目で分かる程に重厚感のあるもので、開く方法なんて存在していなさそうにも見える。


 そして、配信を見てくれているコメント欄の人々も同じような感想を抱いたらしく、早くも諦めムードが漂っていた。



 :どう見ても動くようなサイズじゃないね

 :今日は雑談配信かな

 :ダンジョンなんだし、どっかにブルドーザーとか落ちてないん?

 :お前はダンジョンをなんだと思ってるんだ



 しかし、奈良咲さんはその空気感に怯まず、扉に手をあてて力いっぱい押していた。


 そして、彼女はこちらを振り返って一言。



「うーん、無理だね! びくともしないって感じ! あと、めっちゃ分厚そうだからルルちゃんの爆弾でも壊れないと思う!」



 と、言いながらも奈良咲さんは、開かない扉を前にしてなお、その弾けるような笑顔をキープしていた。


 この、取り敢えずやってみる行動力とメンタルはさすがギャルといった所だろうし、私も奈良咲さんのそういうところは素敵だと思う。


 でも、だからと言ってこのまま四人で棒立しながら女子会を始める訳にはいかない。



「とりあえず、四人で一斉に押してみましょうか」



 そうして私は、扉の右側からルルちゃん、私、奈良咲さん、委員長の順で並んでもらって、四人で一斉に手を当てた後、思いっきり扉を押し込んでみることにした。


 すると、先ほどまでは全く動く気配がないほどに重かったはずの扉は、信じられないくらいに簡単に開いた。



「うわあっ!」


 

 その開きっぷりは私の想定していた以上で、つい声を上げてしまった。


 しかも、精一杯に力をこめていた私達は全員、前のめりに倒れ込みながら扉を通過する事になったうえに、新たな問題が発生してしまった。



「扉が勝手に閉じてる……! って、それよりも、皆さん大丈夫ですか……って、ルルちゃんしかいない? ルルちゃん、怪我してない?」


「は、はいっ、大丈夫です」



 そうして、辺りを見渡すと、そこにいたのは私の隣で扉を押していたルルちゃん一人で、配信カメラやマイクも近くになく、奈良咲さんと委員長も視界の中には居なかった。


 どうやら、開けた扉の奥は二股に別れていたようで、分断されてしまったようだ。



「奈良咲さん、委員長さん! 近くにいますかー!」



 それを受けて私は、できる限り大きな声で二人に呼びかけてみた。


 すると、壁のすぐ向こう側から、もはや聞き慣れた奈良咲さんの声が聞こえてきた。



「ワカナちゃーん、ルルちゃーん! 聞こえるー?」


「き、聞こえます! そちらは無事ですか!?」


「うん! あたしは大丈夫だし、いいんちょーもこっちに居るよー! あと、配信機材も無事だよー!」



 そうして、奈良咲さんと配信機材の無事を確認できた後、すぐに委員長の声も聞こえてきた。



「どうやら、分断されたみたいですね。ワカナさん、リーダーとして指示をお願いします」



 ……リーダーと言われるのは今だに慣れないけど、委員長の言う通り今後を考える必要はあるだろう。


 そうして私は、一度周りを冷静に見渡してみる。



(通路が狭い……ルルちゃんの爆弾で壁を吹き飛ばして合流しようとしたら、私たちも吹き飛ぶことになるよね……)



 ましてや爆発の衝撃で天井が崩れてくる可能性もあるし、このまま進んで合流を目指すのが無難だろう。



「このまま進みましょう! それと、何かあったときの為に、帰還の指輪を常に装備しておいて下さい!」



 そう伝えると、奈良咲さんが返答を返してくれる。



「わ、分かった! 声かけながら行こうね!」



 そうして数分間、私達はあまり変わり映えのない景色である洞窟の通路を歩き、それを報告しながら進む。


 すると突然、奈良咲さんが大きな声を挙げた。



「なんか暗くなってきた……ひゃああっ、なになにっ! なんか服の中に入ってきたんだけどぉっ!」



 そして、それに続いて委員長も声を上げる。



「ああもう! またお色気回してるんですか貴女は! 一旦配信を切りますから、なんとか耐えてください!」


「で、できるだけ早くしてっ……んぁっ! あっ、やっ! 挿っちゃう、挿っちゃうからっ!」



 か、壁の向こうで何が起きてるんだろ……! 気になりすぎる……!


 できればどうなってるのかこの目で見たい……わけではなく、純粋に助けたい。が、今の私が奈良咲さんを助けることは難しいだろう。


 でも、奈良咲さんの為にできることはある。そう、彼女と共にいる委員長のモチベーションを上げることだ。



「委員長さん、奈良咲さんをお願いします! 今は委員長さんだけが頼りです!」


「わ、私だけが頼り……! ええ、分かりました! ワカナさんの期待に答える為、必ずやこの畜生共を殲滅してみせます! お任せください!」



 そうして、委員長の返事が聞こえてくると同時に、チェーンソーの爆音が響いてくる。


 そして、通路が狭いからなのか、いつもよりも空間に音が響いて、あちらの声が聞こえなくなった。


 それを受けて私は、ルルちゃんに語りかける。



「……とりあえず進もうか」


「は、はいっ!」



 そして私達は、中々に狭めの一本道を慎重に進む。


 すると、唯一聞こえていたチェーンソーの音すらもどんどん遠のいて、いずれ聞こえなくなった。


 そうして空間が静かになった頃、私はふと気になった事をルルちゃんに聞いてみた。



「あ、あの、なんでルルちゃんはダンジョンの奥に行きたいの?」


「そ、その……誰にも、言いませんか?」


「うん、ルルちゃんが言ってほしくないなら言わないよ。というか、言うのが辛かったら無理しないでいいよ?」


「……いえ、ワカナさんにはいずれお伝えするべきだと思っていたので、二人きりになった今、お話しします」



 そうして、ルルちゃんはなにやら決心をしたような表情をした、とても可愛らしいお顔を上げて、一言。



「私、姉が欲しいんです」



 と言った……って、どういう事?


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