陰キャ女子高生が脱ボッチ目指して人気ダンジョン配信者になろうと思ってたら人気になる前に強くなっちゃったし、クラスのギャルを助けたら何故かカップルチャンネルをやりながらダンジョン配信する事になりました
第17話 腕なんて多ければ多いほど良いですからね
第17話 腕なんて多ければ多いほど良いですからね
「ワカナさんっ! 危ない!」
タコの墨が拡散して、墨が飛んできたのを私が認識してしたのと同じくして、委員長が私を庇うためにこちらに飛び込んできた。
どうやら委員長は、墨から私を守ってくれようとしているらしい。
しかし、守られる当の本人であるはずだった私は、委員長がこちらに向かってくると同時に回避行動に移っていた。
「えっ! あっ、避けちゃった……」
その結果、私がいた場所には代わりに委員長が立つことになる。
そうなると当然、委員長に大量の墨が塗りたくられる事になってしまう。
「あぶぶぶぶぶぶ」
「委員長さん!!」
そうして、私にかかるはずだった大量の墨は全て委員長にぶっかけられた。
そして、全身が真っ黒になった彼女に、私は問いかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ありません。それよりもワカナさん、ちょうど都合のいい事に足元は海ですから、水をすくって私にかけて貰えませんか?」
「い、良いですけど……普通に洗った方が墨も落ちやすいんじゃないでしょうか……?」
「いえ、遠慮なく、できる限り全力でお願いします」
本当に良いのかな……?
(でも、本人がやってくれって言うんだから、良いんだよね)
なんて風に自分を納得させて、私は足元の水をできるだけ多めに手ですくって、委員長に全力でかけた。
「えいっ!」
「あぶぶぶぶぶぶ」
そうして、墨まみれ状態から水まみれ状態になった委員長に、私は声をかける。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「さ、最高です……! ワカナさんが浸かった海水なだけあって、なんだか甘い気がしますね! ワカナさんの皮膚を経口接種できて幸せです!」
「ひぃ……」
「それに、こんな風に水をかけるのって、なんだか恋人みたいでいいですよね!」
「そ、そうですか……そんな事考えてたんですね……?」
「ワカナさん? なぜ私と距離をとるのです……?」
そして、委員長との会話に、先ほど襲ってきた巨大イカよりも強い恐怖を覚えた私は、すぐさま彼女から逃げる事にした。
「……あ、タコのドロップ品が見つかってるかもしれませんね! 私、先に行ってますね!」
「ワカナさん……ワカナさん! せめて一緒に行きましょうよ! ワカナさん!」
そうして私は、海に両手と膝をつけ落ち込んでいる人のポーズをとりながら私の名前を連呼し続ける委員長をスルーして、できる限り他人のふりをしながら、既に合流していた奈良咲さんとルルちゃんの方へと向かう。
そして、二人の元へと着いた頃、奈良咲さんが声をかけてきた。
「あ、ワカナちゃん! いいんちょーと話してたけどもう良いの……ってか、あれ、いいんちょーは?」
「えっと、気にしなくて良いと思います」
「……? まぁ、ワカナちゃんが良いって言うならいっか! それよりこれ見て!」
「これは……鉄でできた腕? もしかして、タコのドロップ品ですか?」
「うん! あたしずっと、腕もう二本くらい欲しいなーって思ってたんだよね! めっちゃラッキーじゃない?」
「えっと……どういう事ですか?」
私がそう問いかけると、奈良咲さんは説明を始めてくれた。
「まだワカナちゃんと会う前の話なんだけど、リスナーに強くなる方法を聞いたら『アスカはかぎ爪を使ってるんだから、腕を増やしちゃえばいい』って言われて、確かに、って思ったんだよねー」
……そうかな?
(確かに腕が増えたら便利だろうけど、普通の腕すら使いこなせない状況で腕だけ増やしても使いこなすのは難しそうだけどな)
まあでも、奈良咲さんが納得してるんだからいいか。
「……ま、まぁ、一理あるかもしれないですね?」
「でしょ? だからこれ、最初にあたしが試してみてもいいかな!」
そうして奈良咲さんは、期待に満ちた目で私に問いかけてきた。
もちろん、私からすればなんの問題はない。
でも、ルルちゃんも仲間なのだから、彼女にも奈良咲さんを優先していいか聞く必要があるだろう。
「えっと、私は問題ないけど、ルルちゃんは大丈夫?」
「は、はいっ! 私は大丈夫です! 気を遣っていただきありがとうございます!」
「そっか、分かった……では奈良咲さん、装備してもらえますか?」
そうして、ルルちゃんの意思を聞き、奈良咲さんの提案を受け入れたタイミングで、宙に浮くコメント欄と綺麗になったカメラをひっさげた委員長が戻ってきた。
「ワカナさん、私には聞いてくださらないんですね……?」
「委員長さん復活したんですね……あ、カメラ拭いてくれたんですね。ありがとうございます」
「いえ、協力するのは当たり前ですよ! なにせ私たちは『仲間』ですからね! ね!」
「そ、そうですね……あはは……」
もしかして置いて行っちゃった事、意外と気にしてるのかな?
(流石に可哀想だったかな……でも、油断したらお尻とか触ってきそうだし……仕方ないよね)
と、そんな風に思ってた頃、奈良咲さんは既にルルちゃんに手伝って貰いながら肩に二本の腕を装着し、装備していた。
「なんかこれ、いい感じかもー!」
そして、気分の良さそうな奈良咲さんに、私は腕を見てふと思いついた感想を伝えてみる。
「……これ、なんだか拳が飛んでいきそうなデザインしてますね?」
「そう言われれば確かにー! へへ、ロケットパーンチ、なーんて……」
そうして、奈良咲さんが嬉しそうにしながら新しく追加した両拳を前に突き出した時、その拳は唐突に火を噴き出して、そのまま勢いよく飛んで行った。
それを見た奈良咲さんは、慌てた様子で飛んでいく拳に語りかける。
「えっ、あっ! 待って行かないで、あたしの両手!」
「……飛んで行ってしまいましたね」
そうして、タコからドロップした鉄の両拳は、はるか地平線のかなたへと飛んで行ってしまった。
しかし、両手が視界の外へと飛んで行ったのをただ眺めることしかできない私たちとは裏腹に、コメント欄は活気付いていた。
:さようなら……
:最強のギャルは儚い夢であったな
:腕の形した鳥さんかな?
:お腹がすいたら帰ってくるさ
こうしてコメント欄が盛り上がるのは、配信者的には美味しいものだ。
しかし、奈良咲さんはそれどころではないようで、結構しっかりと落ち込んでいた。
「そんなぁ……せっかくこれでワカナちゃんの力になれると思ってたのに。これじゃあ足手まといのままじゃんか……」
そうして、気を落とす奈良咲さんを見て、当然私は『足手まといなんて思ってない』と伝えようとした。
しかし、私が声をかけるその前に、委員長が奈良咲さんに語りかけ始めた。
「それは聞き捨てなりませんね、アスカさん」
「……いいんちょー、励ましてくれるの?」
「いいえ、むしろ怒っています。ワカナさんは他人に対して『足手まとい』などと思う人ではありません。落ち込んでいるのは分かりますが、訂正して下さい」
「……確かに、いいんちょーの言う通りだ。ワカナちゃんはそんな事を思う人じゃないね、気づかせてくれてありがと」
そんな風に、私が思っていた事を委員長が言ってくれた。
……そう思ってくれるのは嬉しいんだけど、心の中で同じこと思ってた分、なんかこう……むず痒いな。
「まあ、なによりもワカナさんには私がいますからね、貴女は戦力外のままで大丈夫ですよ」
「ホントにぜんぜん励ましてないっ!」
そうして、二人の会話を聞いて『なんだかんだいつも通りの二人だな……』なんて思いながらも、なんだか照れ臭くて何を言って良いか分からなくなった私は、一旦この場から離れる事にした。
「そ、そういえば、イカのドロップアイテムも拾わないといけないですよね! 私、拾ってきます!」
「ああ、それなら先ほど拾っておきましたよ、こちらをどうぞ」
うっ……離脱をブロックされてしまった。
もちろん、委員長に悪意がない事は分かってるし、アイテムを拾ってくれたこと自体はとても助かる。
だからこそ私は、なんだかくすぐったくなりながらも、彼女の手から赤い小さな石を受け取る。
「こ、これ……!」
「おや、ワカナさんはこれが何か知っているのですか? 私には綺麗なだけの、赤い石に見えますけど」
「これは『セーブストーン』っていう、セーブポイントを作れるアイテムです! すごいレアアイテムですよっ!」
そうして、委員長から渡されたそれは、めちゃくちゃなレアアイテムであった。
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