第16話 たいへんなへんたいだー!

 巨大タコの方は委員長とルルちゃんに任せることにした私は奈良咲さんと共に、同じく巨大なイカと対峙して、戦闘を開始する。


 この戦闘にやることは単純で、相手の攻撃を加速で避けて、カウンターで切りつける動作を繰り返すだけだ。



「はあっ!」



 そうして私は、戦闘を開始してものの数秒で、イカの手を数本切り落とすことに成功した。


 図体が大きい分、攻撃も大振りで攻撃も予測しやすく回避も容易だ。


 そしてそれは、若干の不安材料であった奈良咲さんもまた、同じようだった。



「ひゃあっ……よっ、ほっ! ワカナちゃん、あたし避けれる、避けれるよ!」



 なんて、不思議な声をあげながら、奈良咲さんもかろうじて避ける事ができていた。



(そういえばだいぶ前だけど、逃げ足に自信があるって言ってたな……)



 もちろん、急に攻撃を避ける事ができるようになったのは私がイカの手を何本か切り落としたのも影響してるとは思うけど、それにしても見事な避けっぷりだ。


 これなら信用できる。



「奈良咲さん、そのまま引きつけて下さい! 私が回り込んで頭に飛び乗って、そのまま切り裂きます!」


「わ、分かった……っと、とっ! ひょおっ!」



 そうして、何だか可愛いくも思えてきた声を上げながらも私から離れる事によって攻撃を誘導してくれる奈良咲さん。


 このまま眺めているのも可愛いと思うけれど、放置していたらまた捕まってしまうかもしれない。


 奈良咲さんのスタミナが尽きる前に、早くイカにトドメを指す事にしよう。



「加速っ!」



 そうして私は、イカの背後に向けて一歩を踏み出して、即座に回り込む。


 そしてイカの意識がこちらに向かないうちに加速の勢いを使ってジャンプし、イカの頭へと飛び乗って、すぐにナイフを振り下ろそうとした。


 しかしその瞬間、嫌な予感が頭によぎった。



(イカの視線、私が頭に乗ったのに動いてない……? 普通は何かが頭に乗ってきたら普通は反応するはず……おかしい)



 そうして、咄嗟に攻撃を中止し体を横にずらすと、私がナイフを振り下ろす際にちょうど私の左胸が位置する事になる場所に、イカの触手が置かれている事に気がついた。



(私の心臓を狙ったカウンター……!? あのままナイフを振り下ろしてたら刺さってた! もしかして、私が来ることを予測していた……?)



 でも、それだけじゃない気がする……



(イカの視線、奈良咲さんを見てる……? 私の存在を認識してるはずなのに……なんで?)



 そんな風に思いながらも、イカの目元を観察していた私の頭に突然、過去の記憶がよぎった。



(私は、この視線に見覚えがある)



 ……そうだ、思い出した。これは委員長に初めてダンジョンで会った時、温泉に入っていた裸の私を見る委員長と同じ目だ。


 つまり、目玉の端っこ部分から性欲が滲み出ているような、スケベな目である。



(この言い分は流石に委員長に失礼かな……? でも、事実だしなぁ……)



 そうして、黒髪ロングの変態を思い出しながらも改めてイカをよく見てみると、新たな事実に気がついた。



(イカの目、奈良咲さんの動きから少し遅れて動いてる? もしかして、見てるのは奈良咲さん動きじゃなくて、揺れてる胸……?)



 そうして、よく分析してみるとイカ視線は、イカの頭の上から見ても明確に観測できるくらいに明確に『揺れている』奈良咲さんのそれに向けられている事に気がついた。



(じゃあ、さっきのは心臓狙いのカウンターじゃなくて、ただ私の胸を触りたかっただけ……ってこと!?)



 そういえばさっき、奈良咲さんは水着に触手を入れられていたし、もしや私の水着を剥ぎ取る事が目的だったのだろうか。


 もちろん、実際にこのイカが大変な変態であるかどうかは分からない。しかし、この情報からは重大な情報を読み取ることができる。



(このイカ、私の奈良咲さんの会話を理解してる……! そんなモンスターもいるんだ……!)



 こう考えれば、私が頭に乗ってくる事を予測することで、私の攻撃に対して視線を向けずにカウンターを合わせることができたのにも、辻褄が合う。


 しかし、それはつまり、こちらが言葉による騙し討ちを狙っても十分に通じる可能性があるという事のはずだ。


 そう考えた私は、こちらに向かってくる触手を切り落としながら、奈良咲さんに指示を飛ばした。



「奈良咲さん! 一度降りますから、挟み撃ちしましょう!」


「へ!? わ、分かった!」



 そう言って私は、加速を使用しつつ思いっきりジャンプした。


 しかし、着陸地点は奈良咲さんに伝えた地面ではなく、飛んだ地点と同じ場所。



(私の予想が当たっていれば……!)



 そして、イカの方に目を向けると、私が着地するであろう場所に触手が向けられているのが見えた。



(やっぱり、カウンターが地面に向けられてる! こっちにはきてない!)



 そうして予想通り、奈良咲さんの胸ばかり見ていたイカは私の攻撃を予測できなかったようで、私の振りかざしたナイフはあっさりとイカの頭部に刺さった。



「狙い通りっ!」



 そして私は、そのままナイフを掴んだまま一気にイカの体を滑り降りる事で、その巨体を一刀両断した。


 もちろん、高い場所から降りた分、着地時に若干足が痺れたけど、イカの体を伝いながら降りたおかげで怪我もなく、無事に着地することができた。



(よし、これで倒れる……よね?)



 そうして、絶命寸前で体が消滅しかけているイカの視線に目をやるとその視線は、飛び跳ねて喜んでいる奈良咲さんのもとに……いや、厳密にいえばその上下に揺れる胸に向けられていた。


 それを受けて私は、もう一発ナイフを刺して、トドメを刺す。



「その、いやらしい視線を隠せなかったのが、貴方の敗因ですっ!」



 そして、巨大イカの体が消滅するのを確認した時、ふとマイクが動いていた事を思い出した私は、コメント欄に目を向けた。



 :墨のせいで画面が真っ暗で音声しか聞こえないけど、ワカナが勝った事だけは分かる

 :いやらしい視線ってなんですか!?

 :みんなのいやらしい映像見せて!!!

 :分かんないけど、コメント見てる限り俺たちが怒られてる可能性があるな



 そうして、イカを倒した以上、カメラの墨を早く拭かねばならないと思いながらも、タコと戦っている二人の援護に向かう方が優先であると考えた私は、タコの元へ近づいた。


 そして、タコの元へと辿り着いたその瞬間、タコの体が大爆発を起こして、その体から放出された大量の墨がこちらに向かって飛んできた。


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