第14話 水着回だ! やったぜ!

 私が配信スタートのボタンを押すと、すぐにそれを嗅ぎつけて集まってくれたリスナー達によってコメント欄が流れ出した。



 :きた

 :今日はカメラ壊されないといいな

 :おいロリが居るぞ! 囲え囲え!

 :ワカナがまた新しい女連れてきてら



 そして私は、そんな沸き立つリスナー達に向けて軽く挨拶をすませた後、どうしていいのか分からない様子でキョロキョロしている様子のルルちゃんを近くに呼んで、彼女をリスナーに紹介することにした。



「えっと、配信始まってますよね……? こ、こんにちは、ワカナです。もうコメントでも触れられてますけど、今回は新しい仲間を紹介します……えっと、ルルちゃん、来てくれる?」


「は、はいっ!」



 そうして私がルルちゃんを呼ぶと、彼女は私のすぐ隣に移動してくれた。


 そして、カメラに映っている事を確認した後、自己紹介として名乗りつつ深々とお辞儀をした。



「も、百々瀬ももせルルと申します! どうか、よろしくお願いいたしますっ!」



 そして、数秒間経って頭を上げた後、照れた様子でこちらに振り返ってはにかんできた。


 そんな彼女の様子を見た私とコメント欄の民の心は、共に沸き立つ。



 :天使……?

 :とりあえずチャンネル登録した

 :俺にもはにかんでくれ〜



 彼女は持ち前の愛嬌もあってか、すぐに受け入れてもらえた。


 そして、ルルちゃんを受け入れてもらえる事が分かった私達は早速、次の目標であるダンジョンの奥を目指して進む。


 そうして深くまで潜っていくと、私の身長よりも遥かに高い大きな扉を見つけた。



「随分と大きな扉ですね……何があるんでしょうか?」



 そして、私がそう言うと、それを聞いた奈良咲さんはなんの迷いもなさそうに返答をしてくれた。



「ま、開けてみるのが一番っしょ!」



 彼女はそう言うと同時、扉に手を当てて一気に押し込んだ。


 すると、扉の奥から強烈な光が放たれて、私達はそれに包まれた。


 そして、数秒たって光が落ち着いた頃に目を開けると、周囲の景色は一変していた。



「ここは……海、というか浜辺ですね……」



 扉の先にあった景色は、まるでリゾート地のように見える、美しい浜辺であった。


 そして、景色が変化している事に気づいた私が振り返ると、いつの間にか扉は消失していて、白く輝く綺麗な砂浜に四人だけが取り残されている。


 そうして私が辺りの様子を確認していた頃、一番近くにいた奈良咲さんに声をかけられた。



「ねえねえワカナちゃん、なんであたし達海に来てんの? ここ洞窟の中なのに」


「そうですね……ダンジョンは『願いが叶う場所』って言われたりしてますし、誰かの願望が反映されたのかもしれません。誰か海に行きたいと考えていた人とかいますか?」



 そんな私のさんの問いに、委員長が答えた。



「もしかしたら、私かもしれません」



 そして私は彼女に、その言葉の真意を問う。



「かもしれない、というと?」


「ワカナさんの水着姿が見たいな、と日々思っていたものですから……まあ、とりあえず着てみれば分かりますよね」


「で、でも、水着なんて持ってませんし……」


「それなら心配ご無用です、私が持ってますから」



 委員長はそういうと収納用ワームホールに手を入れ、中から水着を引っ張り出してきた。



「もちろん、ルルさんの分も含めて全員分ありますよ。収納用ワームホールがパンパンになるまで入れてますから種類も豊富ですし、念の為に色んなサイズを用意していますから、安心して選んで下さいね」


「そんなに水着ばっかり入れてたら、レアアイテムを拾っても入らないのでは……?」


「ワカナさんの水着姿以上のレアアイテムなんかこの世に存在してませんよ」


「怖いぃ……」



 そして、そんな会話をしながら委員長の存在に戦慄していた頃、ふとコメント欄が視界に入ってきた。



 :水着!?

 :ウミダー!

 :俺は幼女だから海が嬉しいんだ



 どうやらカメラとマイクは生きていたらしい。



(ただでさえ私のカメラはゴーレム戦でルルちゃんの爆弾によって塵になっていて、しかも奈良咲さんのカメラもドリアード戦で委員長に両断されて壊れてるんだから、委員長のまで壊れたら全滅だ)



 なんて私が思っていたら、中々に際どい面積の黒ビキニを持った委員長がこちらに迫ってきた。



「さあ、さあ! こちらをどうぞ! お似合いになりますよ!」


「い、いえ、流石に探索が先です! ここがどこかも分かりませんし……!」


「確かにそうかもしれませんが、少しくらいなら……あ、開けた場所での着替えが不安なのでしたら心配無用です! 着替えに使う長いタオルも用意していますから!」


「すごい徹底してますね……」


「長いタオルにくるまってモゾモゾと着替えるワカナさんもいじらしくて可愛いだろうなぁと、常日頃から思っていましたから!」


「気持ち悪……じゃなくて、怖いです」



 そうして食いついてくる委員長から目を逸らすと、ずっと静かにしていたルルちゃんが視界に入ってきたので、委員長の追撃を回避するのも兼ねて話かける事にした。



「えっと、ルルちゃん、どうかした?」


「あ、いえ、あの……海がすごく綺麗でびっくりしていたといいますか……その、感動、していました」


「……じゃあ、少し遊んでく?」


「い、いえっ。ワカナさんがおっしゃってたように、探索を優先させるのが正しい判断だと思いますので……」



 そう言いながらも、チラチラと光に照らされて輝く海辺を眺めるルルちゃん。


 そんな彼女を前にした私の心には、探索を優先するなどという愚かな選択肢はもはや存在していなかった。


 そうして私はみんなの方を振り返って、高らかに宣言する。



「ただいまより、第一回、水着お楽しみ会を開催します!」



 そして、私の発した宣言に応じるように、コメント欄が活気ずいた。



 :よく言った!

 :幼女第一主義者の鑑

 :素敵な世界

 :やっぱワカナって俺たち側だよな



 そうして、リスナーたちが喜んでいる最中、一見先程の水着と同じものに見えるもののよく見てみると若干面積の小さくなっている別の水着を手に持った委員長は、すかさず言葉を差し込んできた。



「では、こちらの水着をどうぞ」


「あ、それはチェンジでお願いします」


「そんな……」



 そして、水着を手にしたまま落ち込んでいるような様子を見せる委員長には誰も触れないまま、奈良咲さんがリスナー達に声をかけた。



「ま、ワカナちゃんが良いって言うなら遊ぶかー! じゃ、あたし達は着替えてくるからリスナーは待っててねー」



 奈良咲さんはそう言うと私の方に目を向けて、キメ顔でウインクをしてきた。


 浜辺の光に照らされたギャルのキメ顔はものすごく映える景色ではあるが、この流れの場合は私を撮ってくれという意味ではなく、カメラを切ってくれと言う合図だろう。



(タオルでモゾモゾと着替える奈良咲さんとルルちゃんは可愛いだろうなぁ……ふへへぇ)



 なんて思いながら、奈良咲さんの合図に応えるようにカメラの電源を落として、着替える事にした。



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