第11話 ふとももふっと……
知恵の実を獲得して数日が経過し、小テストで赤点を取った人への補習日となった今日この頃、私は一人でダンジョンに入り配信をしていた。
そして私は、流れるコメント欄に声をかける。
「き、聞こえてますかー?」
そして、バズ前の私には想像もできなかった数である千人を超えるコメント欄の民は、私の緊張で若干うわずった声に返答してくれた。
:聞こえてるよー
:ASMRみたいな導入たすかる
:今回は珍しくソロ配信か
:さて、今日はどんなキングオークを引きちぎってくれるのでしょうか
私が一人で配信をしている理由は二つある。
一つ目は、奈良咲さんを助けてバズった後に一人で配信をしていなかった為、私を知ってくれたリスナーに改めて挨拶したかったから。
そして二つ目は、奈良咲さんが補習でも見事に赤点を獲得し再テストとなってしまい、新たに仲間になった委員長も補習の手伝いに駆り出されている為である。
(結局、奈良咲さんは夕食後のデザートとして知恵の実を食べたら、お腹いっぱいになって気づいたら寝ちゃってたから勉強できなかったらしいけど……これはリスナーには言わない方が良いよね、奈良咲さんの名誉の為にも)
という事で私は、一人で配信している理由に関しては触れず、今回の目標をリスナーに伝えた。
「えっと、今回は、アスカさんの誕生日が近いという事で、ダンジョンで誕生日プレゼントを探そうと思います。それで、一番の狙い目は『七色のダイヤモンド』です」
そうして、それをリスナーに伝えると様々な反応が帰ってきた。
:ダンジョン配信者って感じもするし、カップルチャンネルって感じもする企画だ
:そういやアスカ誕生日近かったね
:七色のダイヤモンドって発見報告少なくない?
:一回の配信で見つかるんか?
そして、それを見た私は返答する。
「た、多分大丈夫です。少ないのは入手報告で、発見報告そのものは結構ありますから」
コメント欄が多少ざわつくのも仕方ない。
というのも、今日私が探す予定の『七色のダイヤモンド』は、見つける難易度はさほど高くない代わりに必ず番人が待ち構えている為、それが原因となって入手難易度が高いものになっているのだ。
しかし、私には戦闘において最強クラスの能力である『加速』がある。
よって、どんな番人と出会うか分からないけど、運悪くめちゃくちゃ硬いモンスターとかを引かなければなんとかなる……と思う。
「そ、それでは開始します!」
そうして私は、ダンジョン探索を開始した。
そして、リスナーと会話しながら二十分ほど探すと広い空間に辿り着き、それと同時に番人らしきモンスターを発見した……だが。
「いかにも番人っぽい見た目してるモンスター見つけましたけど……あれ、クリスタルゴーレムですよね」
そうして私が見つけたのは、私の五倍くらいの体格をもつ、全身がクリスタルでできた巨大なゴーレムであった。
そして、その光景がカメラに映ると同時に、コメント欄の流れが早くなる。
:でっか
:足だけでワカナと同じくらいあるぞ
:いかにも硬そうな見た目してる
:ふっといフットやな
そして、勢いよく流れるコメント欄に向けて、私は宣言する。
「では、今から倒します!」
そうして私は、靴の加速を使用しクリスタルゴーレムへと高速で突っ込み、ナイフによって攻撃を加える。
しかし、その体は想定以上の硬さを持っていて、振りかざしたナイフは通らなかった。
「思ってた倍硬いっ……!」
ナイフが殆ど通っていないのを見るに、このまま特攻するのは得策じゃない。
そう思って距離を取ろうと一旦下がった時、私が移動しようとした箇所に向けて、ゴーレムの巨大な右腕が振り下された。
そして、それに気づいた私は咄嗟に着地する位置をずらし回避する。
「回避位置を予測したカウンター……! これ、もしかして防御に特化してる番人を引いちゃった……?」
そうして私は今の攻防から、手数重視の私とこのモンスターはとても相性が悪いという事を理解した。
このまま削ろうとすれば消耗戦になるだろう。
ならば次の手を使うまで!
「飛んでけ爆弾石!」
そうして私は鞄に手を入れて『服以外も全部溶かすスライム』を爆殺する為に使ったものの余りを取り出してクリスタルゴーレムに投げつけた。
しかし、爆弾石が直撃したはずの門番は爆煙を薙ぎ払うように腕を払い、何事も無かったかのようにこちらに体を向け続けている。
「これでも崩れない……なら仕方ない、地味だけど確実に……!」
そうして私は、クリスタルゴーレムの左足のみに集中攻撃し、着実に削っていく。
そして、数回攻防を繰り返した頃、私は気づいた。
(相性悪いと思ってたけど、意外といけるじゃん……!)
そうして私は、攻撃、攻撃、攻撃、攻撃、攻撃、攻撃、回避、くらいのペースで攻防を繰り返す。
確かに硬いけど表面を削る事くらいはできるし、カウンターを合わせてくると分かっていれば回避位置の調整もできる。
そして私が攻略法を理解して、攻防も戦い始めよりも一方的になってきた頃、コメント欄も盛り上がっていた。
:早すぎて影しか見えねぇ
:左足から削れたクリスタルがめっちゃ飛び散ってるのだけは分かる
:切られる側も一撃でやられた方がまだ楽そう
:今ダンジョン配信者と戦ってるけど、やたらと左足だけ削られて痛いクリねぇ……
:クリスタルゴーレムもよう見とるわ
どうやら、案外みんな楽しんでくれているらしい。
そうして、私がコメント欄を見て安心していた頃、ようやくダイヤモンドゴーレムの左足が崩壊して、それによりダイヤモンドゴーレムの体勢が崩れた。
そして、それを見た私は追撃をかける。
「よし、次は右足……! いや、とりあえず手足全部壊す!」
そして私は、左足を失った事により更に動きが鈍くなったダイヤモンドゴーレムの残った右足も切り落とし、そのまま右腕、左腕と破壊した。
「……よし! これで無力化完了です!」
そうして、四肢を破壊してダルマになり動けなくなった番人の姿を確認した時、倒したダイヤモンドゴーレムの体が光り出して、派手な光を放ちながら消滅した。
「あ、ゴーレムの体が消滅して……体の中からが何か出てきましたね。宝石……?」
:ゴーレムの中にあったのか
:止め刺したわけじゃないのに出てくるんだ
「予想ではありますが、ダイヤモンドゴーレムは野生のモンスターと違って固定で出現する番人なので、宝を手に入れるに相応しいだけの力を持っているということを証明できればそれでいいって事なんだと思います……たぶん」
:ダンジョンの意思って事か、もしくはダンジョンを作ったやつの意思の可能性もある
:ダンジョンって突然出てきたわけだし、なんかしらの陰謀があるのかも
:謎ということはつまり、謎ということだもんな……
「というか、これよく見たら宝石じゃなくて、宝石でできてる宝箱ですね……でも、鍵穴はありませんし、硬くて壊すのも無理そうです。しかも、あまりに重すぎてこれごと持ち帰るのは無理そうですし……どうしましょうかね?」
そうして、出現した宝箱を眺めていると、足元に何かが転がってきた。
そして、それをよく見ると。
「……爆弾!?」
そうして足元に転がってきた危険物から飛び退くと、爆発の衝撃で配信用のカメラとマイクが破壊されてしまった。
しかし、それと同時に開けられなかった宝箱も大爆発し、その中から虹色に輝く宝石が出てきた。
そして、爆弾が転がってきた方向を向き直ると、そこに居たのは……
「白髪ハーフアップフリフリドレス幼女っ……!?」
そして私が、突如現れた十二歳くらいに見えるまごう事なきロリに警戒二割、ムラムラ八割くらいの割合で観察していたころ、その子は私に語りかけてきた。
「貴女が番人……次は当てます!」
そうして、謎の美少女との戦いが始ま……っては困るので、まずはこちらからも話しかけてみる事にした。
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