第8話 お姉ちゃんと『なかよし』しようねぇ……
「あの、委員長は何故ここに居るんですか……?」
そう聞いた私に委員長が返してきた言葉は、ある意味想定通りのものだった。
「勿論ワカナさんを助ける為よ! ワカナさんがこの女狐とダンジョンに潜るのが見えたから着いてきたんです! ほら、推しが危険を犯すんだから、ファン一号の私もワカナさんと共にリスクを背負う義務があるじゃないですか?」
「な、ないと思いますけど……」
「あら、遠慮はいらないですよ! ワカナさんの様子からして何か探してるっぽかったので『導きの羅針盤』を持ってきたんです! これを使えばどんなアイテムでも見つける事ができますから、女狐と一緒に居る時間をこれ以上増やさずに済みますよ! さあ、使って下さい! 今すぐに!」
「あの、そのアイテムはありがたいんですけど……もしかして、学校からずっと見てたんですか?」
「勿論です! ファン一号として、見守るのは当然ですからね! まぁ、先生に委員長としての仕事を任せられたせいで数秒間目を離す時間が発生していたのは反省点でしたし、そのせいでワカナさんが女狐に連れて行かれるのをただひたすら指を咥えて眺めることしかできなかったのはなおさら屈辱でしたけどね……」
ひぃ……ずっと圧が強い……委員長の目、ずっとキマってるよ……
(というかやっぱり偶然出会ったって嘘じゃん! 正直そうだろうなとは思ってたけど……どうしよ)
なんて私が思っていると、委員長が問いかけてきた。
「それで、今回は何をお探しなんですか? 協力しますよ」
「あ、えっと……アスカさんの提案で『頭が良くなるアイテム』を探しに来たんです」
私がそう言うと、委員長は数秒考えた後、今度は奈良咲さんに向かって喋り出した。
「なるほど。つまり、アスカさん貴女……赤点を取って補習が確定したから勉強しなければいけないけど一人ではどうして良いか分からないからワカナさんに泣きついたけど、それでもなお勉強は面倒くさいからダンジョンでアイテムを探し出して全て解決してしまおう。と考えてワカナさんを巻き込んだ、という事ですね」
「いいんちょーヤバ! 流石に察し良すぎない!?」
「貴女の思考パターンくらい分かります、敵のことはよく調べる主義ですから」
「敵!?」
そして、その頃コメント欄では。
:よく分かんないけど、百合ハーレム開始って事でいい?
:オタクに優しいギャルだけじゃ飽き足らず、他の女にまで手を出すとは……
:百合の花壇じゃん、最高かよ
:アスカさんとは遊びだったんですか!!
と、なぜか私がハーレムクイーンにされていた。
そうして、二人の話に区切りがついた頃、委員長は改めて私の方に振り返って喋り出した。
「……まあ、一旦私怨は置いておくことにします。テスト対策でしたら『知恵の実』なんてどうでしょうか?」
「知識の実……そのままの名前ですね。食べたら頭が良くなるんですか?」
「ええ、確か、食べるとなんでも覚えられるようになる魔法の木の実だそうです。暗記するにはちょうど良いと思いますよ?」
そうして、思わぬ人物から思わぬタイミングで情報を貰い方針が決まったと同時に、奈良咲さんが委員長に話しかけた。
「てか、いいんちょー助けてくれるんだ! 敵とか言ってたのに案外優しいんだ!」
「勘違いしないで下さい。あくまでワカナさんの手を煩わせないようにする為に手伝うんです。あと、先生から補習授業の手伝いをしてくれと言われているので、そこで貴女の面倒を見るのが嫌という面もあります」
「いやー、なんも言えないね! でも手伝ってくれてありがとう!」
「メンタルだけは本当に強そうですね……厄介な」
そうして私は、二人の会話を聞き遂げた後に導きの羅針盤を起動した。
その瞬間、沢山の光の粒が現れてダンジョンの奥へと移動し始めた。
「あっ、羅針盤から光が飛んで行きましたね……」
「あれを追っていけば良いんだよね、よし! 行こっか!」
そうして歩き出してから数分後、ダンジョンの地面にぐちゃぐちゃになった金色の果実が落ちている場所に辿り着いた。
そして、光が霧散したのを見て委員長は、奈良咲さんに語りかけた。
「ああ、どうやらこの床にへばり付いているゲル状のものが知恵の実だそうですね。さ、アスカさん、さっさと這いつくばって食べてください」
「いくらあたしでもこれは食べないよ!? 地面に直置きだしぐちゃぐちゃだし、てか腐ってるし! やっぱりあたしのこと嫌い!?」
「いえ、私は心の底から貴女に補習を乗り越えて欲しいと思っているからこそ厳しい事を言っているのです。ですから貴女はこれを食べた後すぐに帰って勉強して下さい、私はその後にワカナさんとコラボ配信しますから」
「絶対それが狙いだよね! で、でも、これを食べれば勉強しなくてすむのかぁ……」
「……言い出した私が言う事じゃないけど貴女、本当に食べるつもりじゃないでしょうね?」
「う、上の方だけ舐める感じでいけばワンチャンあるかも……!」
「ないわよ! 変な事言った私が悪かったからやめなさい!」
そして、そんな二人のやり取りにコメント欄は。
:アスカ、勉強嫌いにも程があるだろ
:モンスター切り刻んでない時の黒姫って案外普通の人間だな
:というか、この面子に挟まれてるワカナは何者なのよ
と、各々の想いを語っていた。
そして、このやりとりを聞いていた私はふと思いついた事を奈良咲さんに伝えてみた。
「あ、あの。腐った知恵の実が落ちてるんだったら、すぐ近くに実がなる木があるんじゃないですか? それを探せば綺麗な実が探せるかも……?」
「そっか確かに! ワカナちゃん天才! 流石あたしの彼女!」
「あ、あはは……力になれたようでなによりです……」
そうして、私の提案を聞いた奈良咲さんは、キラキラして目で見つめながら私の手を握って、ぶんぶんと上下に振っていた。
(可愛いし気持ちはすごく嬉しいけど、視界の端に映る委員長がすごい悔しそうに歯を食いしばってるからやめてあげて……委員長の歯が擦り切れて無くなっちゃうよ……)
なんて思いながら、私達は木を見つける為に歩みを進めた。
そして、やがて見えてきた小道に入ると、金色の実が沢山付いている木が何本も生えている大きな空間についた。
「これ全部知恵の実……? すごい数……」
そうして、私が目の前の美しい景色に感動し声をこぼした時、視界の奥の方から幼女の匂いを感じるような声が聞こえてきた。
「おねぇちゃんたち……だぁれ?」
そして、私がそこに目を向けるとそこには、白いワンピース姿で緑色の髪に頭に触覚のようなものを生やしたとても可愛いらしい幼女が、大きな花の上に座っていた。
その後、そんな美幼女の可愛いおめめと私の目がばっちりとあった後、彼女は小さな首をちょこんと傾げながら話しかけてきた。
「おねえちゃんは、わたしとなかよくしてくれる?」
そして、なんだか心の奥から気持ちの悪い自分が出てくるような魅惑の幼女のボイスに、つい私は返答していた。
「ふ、ふへっ。か、可愛いねお嬢ちゃん……ふひひ、お姉ちゃんと『なかよし』しようねぇ……」
金髪ギャルと黒髪ロングに挟まれといてなんだけど、私はこういう純朴そうな幼女が大好きなんだ……!
(こんなダンジョンの奥に触角の生えた女の子が一人で居るの変かもだけど、幼女が仲良くしたがってるんだから近づいて良いよね! 良いよ!)
さあ行こう! 幼女の小ちゃくてツルツルのお膝の元へ……!
━━━━━━━━━━━━━━━
読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
「キャラクターが好き!」
と思っていただけたら是非、作品フォローや★レビューを押していただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。