第7話 服だけ溶かすスライム……?

 『頭が良くなるアイテム(仮称)』を求めてダンジョンに向かった私と奈良咲さん。

 

 そしてダンジョンに到着すると、奈良咲さんは鞄の中から配信用の小型機材を取り出して、それを一つ一つ確認しながら準備をし始めた。



「カメラとマイク、あとコメント欄も表示して……準備よし! 配信始めていーい?」


「は、はい、大丈夫です……けど、やっぱりささっとアイテムだけ探すんじゃなくて、配信もするんですね」


「うん! リスナーって他の配信者さんのやつも見てるだろうし、なんか情報知ってそうじゃん?」


「そ、それもそうですね……」



 私、リスナーも友達も居たことないから人に聞くっていう発想なかったな……

 

 ま、まあ、バズった今なら一人で配信してもコメントつくと思うけどねっ……え? つくよね?



(……今度一人でも配信しよ。今ならきっとリスナーさん来てくれるよね)



 そして、私がそんな事を考えていた頃、奈良咲さんは配信を開始して、その後すぐにコメント欄に話しかけた。



「みんな見えてるー?」



 :見えてるよ

 :結局配信するんかい

 :勉強しろ赤(点)の女王



「聞いてよみんな! あたし勉強しなくて良い方法思いついたんだよね……って、あたしのあだ名ってカラコンじゃなくて赤点からきてたの!?」


「あ、えっと……こ、これから頑張れば良いわけですから! というか、その件に関する説明を今からしたいんですよね……?」


「おっと、そうだった! そのテストの件なんだけどねー……」



 そして、そんな風に話しが進んで奈良咲さんがリスナーに流れを説明していた頃、私の心は歓喜で跳ね回っていた。



(おおお……! 今の私、配信の進行ができてたよね! えらい!)



 そんな風に、コミュ強である奈良咲さんの影響からか自らの見えないステータスがアップしていた事に喜んでいると、説明を終えた彼女が声を上げた。



「それじゃ、早速行こっか!」


「は、はいっ!」



 そうして私達は、探索と配信を開始した。


 そして、近づいてくるモンスターをさくさくと倒しながら進むと、比較的強力なモンスターに出会った。



「あ! 遠くにいるあれモンスターじゃん! あたし知ってる!『服だけ溶かすスライム』ってやつでしょ! こっち来てるし、配信中に溶かされたら放送事故になっちゃうよ、どうしよう!」



 そして、奈良咲さんのそんな発言に、コメント欄が沸き立つ。



 :最高かよ!

 :サービス回だ!

 :我が神よ、感謝します



 しかし、沸き立つリスナー達とは反対にモンスターを冷静に観察していた私は、徐々に近づいてくるスライムが通常のスライムとは違うことに気がつくことができた。



「いえ、あれは……通常種よりも少し大きめで濃い青色なので……おそらくは変異種の『服以外も全部溶かすスライム』だと思います!」


「それじゃ、もっとヤバいじゃん! 触ったら死んじゃうってことでしょ!?」


「だ、大丈夫です! 確かに性能は凶悪ですけど意識とかは知能はほぼ無いので、ちゃんと対策すれば問題ありません!」



 確かに奈良咲さんの言う通り、あんなのと正面から戦ったら『あられも無い姿』を通り越して『無い姿』になってしまう。


 でも、特に問題はない。


 なぜならダンジョンを(仲間が居なかったから)一人で生き抜いてきた私は既に、対策法を知っているからだ。



「わ、私がダンジョンで拾って保存してた『爆弾石』があります。これをスライムの中に投げ入れるだけで内部から爆破できますから怖がる必要はありませんよ……あ、でも一応、遠くに離れておいてください、爆発の際に飛び散ったら危険なので……」



「わ、分かった! お任せします!」



 そう言って、奈良咲さんが離れたのを確認した私は、爆弾石が地面との衝突で爆発しないようにゆっくりと慎重に、スライムに向けてコロコロと転がした。


 そして、こちらに向かってくるスライムは私の狙い通り爆弾石を飲み込むようにしながらこちらに向かってきた為、その液状の体は即座に爆散した。


 しかし、そこで一つ誤算があった。



「うわぁっ!」



 スライムの液体ボディは、私の想定していたよりも派手に飛び散ったのだ。


 そして、それを反射的に靴の機能で加速して回避した時、それを見た奈良咲さんが駆け寄ってきて声をかけてきた。



「だ、大丈夫!? 服とか体とか溶けちゃってない!?」


「は、はい……大丈夫です。アスカさんは大丈夫ですか……?」


「う、うん! ワカナちゃんの言う通り、ちゃんと離れてたからへーきだったよ! ありがとね!」



 そんな会話をしながらも心配そうな表情を浮かべている彼女は私の手を握りながら、私の指先が溶けていないかを確認していた。


 一方、その様子を見ていた私は……



(奈良咲さんの不安そうな表情……可愛いな。もっとギリギリで避けてたらこれ以上に可愛い顔を見せてくれてたのかな……?)



 なんて事を思っていた。


 そうして奈良咲さんの新たな可能性を味わっていた頃、先ほど私が立っていた場所あたりから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「な、なんですかこれは! あっ、やっ! もう……ちょっと服溶けちゃった……」



 そして、その声の方向から出てきたのは、飛び散ったスライムが当たったと思われる、ゴスロリ服が半分程溶けて若干センシティブな姿になった委員長であった。


 その後、すぐに目が合った彼女はそのあられもない姿のまま、私に声をかけてきた。



「ぐっ、偶然ね! こんな所で! 仁ど……じゃなくて、ワカナさんは何をしていたのかしら……!?」


「な、なんか聞き覚えがあるセリフですね……?」



 あれ、なんで委員長の体溶けてないの……? この感じ、多分スライムに触れてるよね……?



(というか、これ以上近づかれると委員長がカメラに写っちゃう!)



 委員長、明らかに溶けたゴスロリの奥からレース付きのピンクの布が見えちゃってるし、こっちに来る前に止めなきゃ、彼女の尊厳の為にも!



「あっ! ちょっ、ちょっと待ってください委員長さん! これ以上近づかないで下さい!」


「な、なんで……? もう私とは会話もしたくないのかしら……? ごめんなさい……何かしたのなら謝るから……私を嫌わないで……」


「あっあっ、ち、違くてっ! 今配信してるんです! このまま近づかれると、委員長さんの黒歴史になっちゃうんです!」


「な、なるほどね、つまり服を戻せば良いのねっ! 予備があるから着替えてくるわ……!」」



 そうして、委員長が私達から見れば陰になる場所にさっと移動し、もう一度出てきた頃、彼女は元の可愛らしい装いを取り戻していた。



「さぁ、これで近づいても平気よね!」



 その後、そう言いながら彼女がこちらに近づいてきてカメラに映り込んだ時、コメント欄が反応した。



 :声似てると思ってたけどやっぱ虐殺の黒姫だ

 :あの黒姫がダメージ受けてたっぽいのマジ?

 :というか、あのスライムを知ったうえで生きてるって事は、ワカナは服を溶かされた経験があるのか?

 :ワカナの過去配信漁ってこよ



 なんか余計なこと考えてる人居るな。


 あくまで他の配信者を見て知識を得ただけだから、そんなアーカイブはどこにも存在してないし、探し始める前に教えてあげた方が良いのかな……?


 ……まあ、いいか。それよりも、なんで委員長がここにいるんだろ……?



 ━━━━━━━━━━━━━━━


 読んでいただきありがとうございます!


「面白かった!」


「続きが読みたい!」


「キャラクターが好き!」


 と思っていただけたら是非、作品フォローや★レビューを押していただけると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る