第4話 みんな大好き温泉回!!!

 温泉を見つけた私達。


 そして、入ろうとする奈良咲さんの発言に、コメント欄が湧き立った。



 :ヒューッ!

 :やっぱ最高だよアスカはよぉ!

 :●REC



 そして、そんなコメント欄に奈良咲さんは返答する。



「あ、カメラは一旦切るから、皆んなは待っててねー」



 :殺生な!

 :カメラしっかり切るあたり防御力高いな、ギャルなのに

 :どうか、せめて音声だけでも……なにとぞ……



「ざーんねんでしたー、あたしの裸はワカナちゃん専用でーす。じゃ、切るねー!」



 そう言うと奈良咲さんは配信画面を閉じて、私の方に向き直った。



「よし……配信切れた! ささ、脱いで脱いで!」


「で、でも、モンスターとかきたら危ないですし……」


「大丈夫、あたしコレ持ってるから!」



 そう言いながら奈良咲さんが小さなカバンから取り出したのは、手のひらサイズの小さな壺だった。



「これ、『魔物封じの壺』……ですか? 床に置いておくとモンスターが寄ってこなくなるやつですよね?」


「そう! 他のダンジョン配信者さんが使ってたの見て便利そーって思って、ダンジョン探したら宝箱の中にあったんだよね!」


「これなら確かにモンスター対策は大丈夫ですけど、その、他の配信者さんとか来たら……その、困りますよね?」


「そりゃー困るけど、あたし、昨日の子供以外で他の人とダンジョンで会った事一回もないよ? ワカナちゃんはある?」


「な、無いですけど……」


「じゃ、へーきでしょ! どうせ誰も来ないなら入んない方が勿体ないし! さ、準備しよっ!」



 確かに奈良咲さんの言うとおりダンジョンとは不思議なもので、これだけ多くの人が潜っているにも関わらず意図的に合流しようとしない限りほとんど他人と出会う事はない。


 かくいう私も半年近くダンジョン配信者をやっているけど、ダンジョン内で人と出会ったのは彼女が初めてだった。



「うぅ……」



 家族以外と殆ど人と話さないから反論の仕方が分からない……本当に脱ぐの……?


 って、奈良咲さんもう脱いでる……さっと入ってすぐに出れば大丈夫だよね……ええい!



「お、準備できたね!」


「は、はい……」



 そうして、服に手をかけた後できるだけ綺麗に畳んで端っこの方に置いた頃、彼女に話しかけられた。



(手どこにやっていいか分かんないよ……これ、隠す方が恥ずかしいのか……そもそもなんで奈良咲さんはこんな堂々とできるの……? ギャル強いよ……)



 なんて私が思ってたら、奈良咲さんが口を開いた。



「いやー……しかし、ただ立ってるだけだとふつーに恥ずいね! 今のあたしたち、他人から見たら完全に痴女じゃん!」


「は、早く入りましょう!」



 そうして、二人一緒に温泉に入った。


 というか、陽キャのギャルでも恥ずかしいとか思うんだ、ちょっと親近感かも……?



「お、ちゃんとあったかいねー! キングオークに追われてめっちゃ冷や汗かいたし、汗流せるのマジで助かるー!」


「そ、そうですね……」


「てかずっと思ってたけどワカナちゃん肌白ーい! どんなメンテしてるの?」


「わ、私、休みの日も外に出ないので……ダンジョンも基本的に洞窟ですし、そのせいだと思います」


「え? 休みなのに外出ないの? 家にいても暇じゃない? 何してるの?」



 うっ……やっぱり陽キャって休日に外出るんだ……勝手に親近感覚えてごめんなさい……


 というかこれ、ゲームやってるとかアニメ見てるって言ったらきっと引かれるよね……ギャルだし……


 なんか探さないと……何かオタク要素ない事で休日にやってる事……!



「ね、寝てます」


「一日中?」


「は、はい……一日中、です」



 いや、確かにオタク要素除くと睡眠くらいしかしてないけど流石に一日中は寝てないよ! なんなら深夜にもゲームしてたりするよ!


 嘘つき! この嘘つき陰キャ! なんで出るのがこれなの私……!



「あー、寝る子は育つって言うもんねー。だからワカナちゃん、そんなに強いのかぁ」


「そ、そうかもしれません……ね?」



 とりあえず、今週の土曜日は多めに睡眠を取ることにしよう。


 そしたら嘘ついた事にはならないよね……?



「てか、こんなに人と出会えないダンジョンで偶然出会ったとか、マジで運命って感じするよね!」


「そ、そうですね……不思議ですよね」



 でも、今日は意図的に合流したから分かるけど、昨日偶然出会った事に関しては結構な大ごとな気がするし、そんなに軽く考えていいのかな……?


 なんて思ってたらふと奈良咲さんが脱いで綺麗に畳んだ衣服が視界に入り、ギャルなのに服畳むんだ……なんかいいな、なんて思ったと同時に、私の頭にふと疑問が浮かんだ。



「そういえば……奈良咲さんは制服で配信してるんですね……?」


「そりゃ女子高生なんだからふつー制服着るっしょ! ワカナちゃんは全身真っ黒だけど、制服着ないの?」


「制服、というかスカートだと戦いづらい気がして……」



 あと『陰キャの制服なんて年増のコスプレ以下、お前はジャージでも着てろよ』とか言われたら絶対心折れるし……



「んー、なら中に体操服とか履いたら? シルエット崩れるからあんましたくないけど、あたしも普段はそうしてるし」


「学校ではそうしてるんですけど、配信だとなんか体操服着ちゃうんですよね……黒いマント羽織ってるので見えませんけど」


「へー。若菜ちゃん、結構恥ずかしがり屋だったりする?」


「ど、どうなんでしょうね……へへ」



 そんな話をして、私も女子高生らしく制服を着て世間に出る勇気が欲しかった……なんて一人で考えてたら奈良咲さんは急に黙ってしまい、何故だか静かな時間が広がった。


 そして、彼女は自由に伸ばしていた足を畳んで小さくまとまりながら首元まで体を温泉に沈めると、口を開いた。



「そっか、ふつーはスカートで動くのとか気にするもんね……あたしも普段はそうだし……」


「な、奈良咲さん……? どうしたんですか……?」


「なんか勢いで脱いじゃったけど、改めて冷静になるとなんか急に恥ずかしくなってきたわ……今あたし裸じゃんかぁ……てか、スカート気にするくせに人と風呂入んの変じゃない?」


「い、今更言わないでくださいよ……! 私なんてずっと恥ずかしいんですから……!」


「あはは、なんか顔熱くなってきた、これヤバいね……こんなの初体験だ」


「で、出ましょう……! のぼせる前に!」



 そうして私が立ち上がると、奈良咲さんも同じ様に立ち上がる。


 すると、それと同時に這いずる様な音が聞こえてきて、そちらを振り返ると小さな蛇のモンスターである『琥珀蛇こはくへび』が一匹でこちらを睨んでいた。


 そして、それを見た奈良咲さんが驚きの声を上げた。



「モンスター!? なんで!?」



 確かに魔物封じの壺を置いてるのにモンスターが出たのは謎だけど、今は倒す方が優先。


 韋駄天の靴がなくても琥珀蛇くらいならなんとかなる……はず!



「と、とにかく戦わないと! なんとか隙を見てナイフを取ります、それまで奈良咲さんは回避に専念して下さい!」


「そ、それならモンスターはあたしが引きつけるよ! 大丈夫、逃げ足だけは自信あるんだから!」


「……分かりました、お願いします」



 そうして奈良咲さんは、陽動の為に走り出した。


 しかし次の瞬間、そんな彼女を追う様に這いずり出した琥珀蛇の背後から突然黒い影が現れて、蛇の首を手に持った赤黒く染まったチェーンソーで切断した。


 そして、その武器の持ち主をよく見ると見覚えのある人物だった。



「い、委員長……さん?」



 なんとそこに居たのは、黒ベースの可愛らしいゴスロリ服を身に纏いながら巨大なチェーンソーを両手で持ち上げている、レア度SSR覇権キャラこと委員長であった。



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