第3話 業界初の百合カップルチャンネル、始動。
放課後。
奈良咲さんと共にダンジョンに入った私は、配信の準備を終えた彼女と喋っていた。
「それじゃ、配信始めるけど、若菜ちゃん準備できてる?」
「は、ははは、はいっ! だ、大丈、大丈夫ですっ!」
「全然大丈夫じゃ無さそうだよ!? 一回息吸いな!?」
そうして私は一度大きく深呼吸をした後、彼女の方へ向き直した。
「はい……今度こそ大丈夫です!」
「よし! それじゃ、配信スタート!」
そうして奈良咲さんがカメラを起動した瞬間、同時にコメント欄が宙に浮かび上がった。
そしてすぐに、コメントが流れ始めた。
:きた
:始まったな
:昨日のやべー奴いんじゃん
:キングオーク素手で千切った女だ
あ、早速特定されてる。というか変な尾ひれも付いてるな……
千切らない……というか千切れないよ。これ訂正しないと今後、ダンジョン陰キャ指先メスゴリラとか呼ばれるようになるのかな……
でも奈良咲さんが進行してくれそうだし……ここで人様のコメント欄にツッコミを入れる勇気はないや……
なんて思っていたけど、奈良咲さんは配信を進めてくれる。
「よし、機材問題なし! えー、今日は見てくれてるみんなにお知らせがあるんだよねー、聞いてくれる?」
:きかせて
:なんだなんだ
:これで彼氏できたとか言われたら死ぬ
「では早速……私達、カップルチャンネルを始める事にしましたー! で、お相手は昨日、命をかけて私を助けてくれたこの人です! 自己紹介どうぞ!」
あっ、奈良咲さんが私に話を振ってくれてる!
な、なんか言わないと……!
「あ、ダンジョンの配信やってます、ワカナです……よ、よろしくお願いします……へへ」
一応挨拶したけど、何言われるんだろ……
:よし百合か、通れ
:アスカ、俺じゃダメなのかよ……
:ギャルなのに彼氏居ないの変だと思ってたけど女色の民であったか
あ、なんか思ったより受け入れられてそう……?
奈良咲さん、この反応も想定してたのかな……なんて反応するんだろ……?
「別に彼氏居ないギャルも居るでしょ! てかあたしの場合そもそもギャルっぽい服が好きなだけだし、みんなが勝手にギャルって言ってるだけだよ!」
そうなんだ……陰の者からすれば陽の女子は全員ギャルにしか見えないけど……
というか今のところ、全部奈良咲さんが進行してくれてる……でも彼女のチャンネルで配信してるんだから任せて良いよね、良いよ。
「それで、昨日の配信見てくれてた人は知ってると思うけど、キングオークに襲われてた時ワカナちゃんに助けてもらったの! で、その時に一目惚れしちゃったんだよね! んで告ったらオッケー貰えたって感じ!」
……というかこれ今更だけど、奈良咲さん自身がバズりそうだからやるって言ってたし一種のやらせみたいなものだよね? 陽キャのギャルが本当に私の事なんて好きになるはずないし。
(これ、なんだかリスナーさんを騙してるみたいで気が引けるな……奈良咲さんってその辺割り切ってるのかな。コメント欄の反応は……?)
:運命の出会いじゃん
:大胆な告白はギャルの特権
:それで真っ先にカップルチャンネル始めるの行動力の鬼
:それでこそアスカ
どうやらリスナーさんたち、奈良咲さんの行動力自体に慣れてるっぽいな……
(これ、もしかして着いていけてないの私だけなのかな……? 世界って私が思ってるより陽キャなの……? この世の全てが怖い……)
なんて思いながらも、私は奈良咲さんの言葉を聞き続ける。
「さて! 今日のお知らせはコレで終わり! 早速ダンジョン潜ってこー! ワカナちゃん、準備いーい?」
「は、はいっ、大丈夫です! 頑張ります!」
:ワカナ、見た目は文学少女っぽさあるよな、キングオーク引きちぎるけど
:なんか挙動不審だし、陰の匂いがしないか?
:文学少女or俺ら、どっちだ?
:陰キャor陰キャの二択やんけ
私、文学少女じゃないよ……文学少女はもっとなんかこう、良い匂いするでしょ……?
雰囲気は私よりも委員長さんとかの方がそれに近い気がする……文学少女にしては強そう、というかしっかりしてそうだったけど。
……いや、一応カップルチャンネルなんだから、配信中に他の女の子の事考えるのは良くないか。余計な事は考えずに、奈良咲さんとダンジョンの奥へと向かおう。
「ワカナちゃん、それじゃあ早速行こっか……あ、せっかくカップルなんだし、手とか繋いじゃ……」
「……!! 伏せて下さい!」
そうして挨拶を終えた後、奈良咲さんが歩き出そうとした瞬間、死角から大きな岩が飛んできた。
そして私が彼女の頭を庇いながら岩が飛んできた方へと視界を向けると、そこに居たのはまたしてもキングオークであった。
「またキングオークだ、なんでこんな低層に……?」
「ひぃ! 助かった、ありがと! でも、今日は子供も居ないしあたしも戦うよ! ほら、コレ持ってるし!」
「それ鉤爪……ですか? 近接武器を使うんですね」
近接武器の場合は武器の性能にもよるけど、遠距離攻撃できる武器と比べて戦闘そのもののリスクが高い。
私の場合は加速ができる『韋駄天の靴』をダンジョンで拾えたからナイフでも充分に戦えるけど、奈良咲さんは今までどうしてきたんだろ……?
なんて思ってたら気づいたら鉤爪を装備していた彼女は、そのままキングオークへと突っ込んで行き、その腕をキングオークの足に向かって振るっていた。
「くらえっ……あれ?」
しかし、キングオークの分厚い皮膚と筋肉には全く鉤爪が通らず、そこには静かなる『無』が生まれた。
そしてそこには、全く攻撃が通じずに目を丸くする奈良咲さんと、そのあまりにも少ないダメージ量からそもそもこれが攻撃であるかどうかの判断に困ってそうなキングオークがいた。
「やっぱ無理ー! 助けてー!」
そして、そう叫びながら奈良咲さんはすぐにこちらを向き直すと、念のために彼女を撃退する事にしたらしいキングオークに追いかけられながら涙目になりながら走ってきた。
「す、すぐ行きます!」
そう言って私は奈良咲さんとすれ違う様にキングオークへと走り込むと、勢いをそのままにその太い足を切り裂いた。
そして、キングオークが体制を崩した瞬間、すぐに頭を切り裂いてトドメを刺した。
「よし、もう大丈夫です……!」
「ありがどー!
そうして、私がキングオークを倒してすぐに、奈良咲さんは半泣きになりながら全力でハグをしてきた。
……その時、何がとは言わないけど私とは違って胸部に『ある』人のそれが押し付けられて、初めての体験に心がざわめいた。
(というか、手を握るだけじゃなくてハグまでしてくるなんて流石に距離が近過ぎない……?)
しかも好きって言ってるし、なんかくっついたらダメな部分もくっついてるし、これ本当にやらせとかじゃなくて、もしかして……
「アスカさんって、私の事好きなんですか……!?」
「今更!?」
:これ、片思い説あるな
:カップルチャンネルとは
:泣き顔助かるけど化粧落ちるぞ
そうして、キングオークがこんな所にいる疑問を一旦頭の片隅に置いておきながら、立て直した奈良咲さんと共に奥へと歩き出した。
そして数分後、大きな湖のようなものを見つけた。
「湖……? いや、この水あったかいです……温泉、ですかね?」
「温泉かー! すごー! ダンジョンの中ってこんなのもあるんだね!」
「で、ですね……私も初めて見ました」
アニメとかでも、温泉会は定番だよね。私は好きだよ、美少女達の温泉回。
まあ、今は配信中だから入れない……というか、そもそもダンジョンで裸になるなんて自殺行為だし、何より私の温泉回は全然心が滾らないからスルーだけど……なんて思ってたら、なんだか嬉しそうな様子の奈良咲さんが口を開いた。
「じゃ、入ろっか!」
「……へっ!?」
嘘でしょ……!?
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