第3話 異動〜2〜
異動の話をされてから翌日の夜まではあっという間だった。同期やお世話になった先輩などに軽く挨拶へいったり、荷物をまとめたりなどやることが多かったからだ。いざ振り返ってみると2年ほどいたこの基地の思い出というのはたくさんあったのだと実感する。しかし、いまは昔を振り返っている場合ではない。視界の先にある大きな影、夜の静まり返った飛行場に遠くからプロペラの駆動音が響く。『ER15』スタインウェイの軍に一般的に配備されている大型輸送機だ。空挺部隊の輸送や車両の空輸を目的としたその機体は自分一人を積むには少し大きすぎる気がするが、、、。
視界の端にいた機影はすでに着陸の準備をしていた。機体の下部から伸びる車輪は自分の腰よりもでかいだろうか。巨大なゴムの塊が滑走路と擦れ煙を上げる。でかい図体からは想像もできないほどきれいな着陸を終えた機体から数名降りてきた。
「第315局地航空師団第1輸送大隊所属スタークレイ空士長レオン1等空曹のお迎えにあがりました。」
「ご苦労様です。」
「いえいえとんでもございません。これが仕事ですので。」
スタークレイと名乗る男はそういい荷物を運び込み始めた。
「レオン空曹!そういえば紹介する人がいるんです。」
スタークレイは突然思い出したかのように叫んだ。するとそれに合わせたように機体内から男が出てきた。
「こちらシュタインバーグ社よりデータ集計や整備監督としてこられたテオドールさんです。」
「シュタインバーグ社より新型機のテストデータ集計および機体整備の任を受け同行しました。テオドールと申します。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします、、、しかし、どうしてシュタインバーグ社の方が同じ輸送機に乗っているのですか?わざわざ一緒に行かなくても直接向こうへ行ったほうがらくなのでは、、、」
「そうですね、、、しかし、今回あなたを輸送機で迎えにきたのにはもう一つ理由がありまして。こちらへどうぞ。」
そう言いテオドールは機体の後方から中へと入っていった。それに続いて中に入るとそこには、見たことのない戦闘機が積めるようにバラされた状態で置かれていた。
「こちらが新型機S-E25です。エンゲルハルのシュタインバーグ本社地下の格納庫から空輸してきました。輸送機できたのはこのためです。」
「これは、、、もしかして自分の機体ですか?」
「そうですよ、あなた専用のプログラミングがされた機体です。通常機の1.7倍同型機の1.3倍スピード制限を多少緩く設定された機動力特化型次世代ステルス戦闘機です。搭乗員1名、自社製最新エンジン2発、一回の給油で2時間の飛行が可能、最高到達高度22000m、25mmバルカン砲1基に、ミサイル類は10発ほど搭載できます。
間違いなく今この国にある戦闘機の中で一番の性能です。」
一番の性能、、、それはそうだろう、今までの機体とは比べ物にならないほどの性能だ。最高到達高度など6000mほど高い。いったいこの性能は何のためにあるのだろうか。あまりの機体性能に恐怖を覚える。
「こちらの機体を向こうで組み立て塗装をします。一応アグレッサー部隊とのことなので、デジタル迷彩で行きます。レオン空曹は近いうちにパーソナルマークと識別名を考えておいてください。」
「自分で考えるんですか?なんだか恥ずかしいですね。」
「でしたらだれかに頼まれては?向こうではバディで活動するようですしバディの方などに決めてもらいましょう。」
「そうします、、、」
テオドールにそう返しもう一度自分の機体を見る。今までの機体と違いこの機体はかなり薄い。空気抵抗を減らすためだろうか、後ろの垂直尾翼も通常とは違う。可動式のようで水平尾翼とぴったり重なっている。
新しい機体を眺めていると後ろから声がかかる。
「レオン空曹!荷物を積み終えたので離陸します。」
「了解です」
どうやらテオドールと話しているうちにスタークレイが出発の準備をしていたらしい。
「おふたがた、離陸するので席にお願いします。」
スタークレイに促され席へと着く。すると機体のプロペラ音が次第に大きくなる。
コックピットでは彼が管制室に離陸許可を求めているようだ。
「では離陸します。」
許可が出たらしく機体が徐々に速度を上げ始める。よくこんな大きな機体を動かすことができるなと、プロペラを眺めているとフッと体が浮く感覚が伝わってきた。機体が地を離れたのだろう。はたして次にこの基地に足をつくのはいつだろうと思いながら前を見る、、、
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