第2話 異動

長く続く廊下に半長靴の音が響く、空軍第105航空師団基地の本館の廊下を自分の様な一兵卒が歩くことなどあまりない。普段自分たちは、宿舎と格納庫を行ったりきたりして訓練をするか寝ているかという日々を送っている。空軍と名がついてはいるが、島国であるこの国では戦闘機で飛ぶ機会など特になく、救難ヘリの部隊だけが、大忙しで動き回っている。自分も戦闘機のパイロットとして所属してはいるが、飛ぶのは訓練のためか、たまにあるパレードの時だけになる。

 そうこう考えている間に目的の部屋に着く。

 「師団長室」と書かれた部屋の扉を叩き声をかける。

「レオン・ドラグランジュはいります」

 なれないため合っているかはわからないが、名前は言っておこう。すると、中から返事が返ってきた。

「はいりたまえ」

「失礼します」

 初めて入る師団長室は一言で表せば校長室のようだった。手前には応接席があり奥にはいかにも高そうな机が置かれていた。そして、その机の奥にはこれまたいかにも偉そうな老人がいた。

「君がレオン君かね?」

「はい!3番隊所属レオン・ドラグランジュであります!」

「うむ、、、君を呼んだのは、少々特別な理由があってだね、、、」

 特別な理由というのに見当が付かないが、師団長はそう切り出した。

「君は第315局地航空師団を知っているかね?」

 第315局地航空師団、、、、空軍に所属している者なら知らない奴はいない、通称315部隊、航空学校首席クラス、エースパイロットと言われるバケモノたちによって編成されているアグレッサー部隊が置かれている師団だ。

「ここからの話は軍事機密あつかいのため他言無用でお願いする、、、その第315局地航空師団は知っての通りエリート部隊としての名が有名だが、今回315師団のメイン部隊であるアグレッサー部隊を分解し再編成するらしい、目的はダダリアによる脅威に対抗するためというのが主な理由だが、表向きにはアグレッサー部隊兼広報部隊結成のための再編成ということにするそうだ。それに際してスタインウェイ国内12の師団から数名ずつパイロットの転属の要請がきた。それに第105航空師団からは、君を推薦しておいたよ。ちなみに、これは決定事項だ。」

師団長から軍事機密と異動の話をされた自分はついていけずにいた。

「自分が315部隊に異動ですか?」

「そうだね、異動というよりは、栄転かな」

師団長は冗談まじりに言うが自分にはどうしても気になることがあった。

「どうして自分なのですか?実力でしたらメッサー中尉など自分よりも適任な気がしますが、、、」

 これがただの異動であったならきにはならないが、315部隊ともなればべつだ、確かに自分は、同期の中ではずば抜けてスコアも良い。しかし、メッサー中尉や他の隊の隊長などに比べればまだまだだ。

「確かに実力などで言えば他にも適任がいるだろう。しかし、今回君が選ばれたのは、君の耐G訓練の成績で選んだためだ、、、315部隊は、再編成にあたって新型戦闘機を導入するみたいだ。マッハ5での超音速飛行を目的とした機体らしい。通常機での時速は現在うちの隊に配備されているので最高マッハ3だ。2倍近く早くなると言うことはその分負荷も上がる。マッハ5の機体などに乗ったら普通のものなら心臓が負荷に耐えられん、だが、お前の成績ならその負荷に耐えられるだろうと言うことで選ばれた。いざ実戦になるとそのアドバンテージはすごいぞ、例えるならすずめと鷹が戦うようなモノだ。だが、優秀なものは人を選ぶ、今回はきみがその適任だったということだ。」

 マッハ5、、、、自分たちのようなパイロットは航空学校で9以上のGは危険だとおそわってきた。Gが12になると後遺症が残るレベルだろう。それがマッハ5ときたおそらくGは余裕で12を超えるだろう。12という負荷に耐えるというのは、いくら人よりも耐性がある自分とて耐えれる気がしない。

「自分はマッハ5の重力に耐えれるでしょうか、、、、」

聞いたところで特に変わらないだろうが、一応聞いてみる。

「今回の新型機開発に合わせてパイロットスーツも新調するそうだ。そのため、今までよりは多少対G性能もあがるらしい、、、まあ、とくに問題はないだろう。」

 新型のパイロットスーツまであるのか、たしかにパイロットスーツの性能次第で多少は耐性がつくだろう。しかし専用のスーツまでつくるとは、今回の再編成、軍の上層部はかなり力を入れているんだな。

「了解しました。移動の時期は何時ごろになるのでしょうか。」

「うむ、少し急だが、明日の夜には向こうから迎えの輸送機が来るそうだ。隊のモノたちと話したいことなどあるかもしれんが、なるべくはやく済ませときなさい。」

「明日夜ですか!?かなり早いですね、、、」

「まあ、しょうがない。今回の再編成は軍部というよりも国としての問題もかかわることだからな。」

「国ですか、、、」

「ああ、、、、くれぐれも、内密にな、、、、」

 『国の問題』自分にはスケールの大きい話のようでピンとこないが、これから色々とめんどくさそうになることだけ

はわかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る