第30話 ダンジョン2日目
翌朝、11階から先へと進んでいく。少しずつ、敵が強くなるはずが、レベルが上がっている結果、全く相手にならない。
アルスが一撃で倒し終えたところで、レウスが声をかけた。
「何ていうか、アルス強くなり過ぎじゃない?」
「え? そう?」
「なんか、グラノスさんに迫るくらいに強くなってない?」
「……いや……それは、どうだ?」
アルスは強くなっている。
ここまできて、一撃でダンジョンの魔物を突き殺している。実力が上がっているのはもちろんだが、一撃というところにグラノスの彷彿としているらしい。
だが、決定的な違いがある。
刀でないと実力が出せないグラノスと、武器が槍でも剣でも倒せるアルス。
「あの、だいぶレベル差があるからだと思う。僕のユニークのせいじゃないかな」
「あ~そういえば、ちゃんと聞いてないかも」
「えっと……恥ずかしいんだけど、その」
「……ああ」
ちらっちらっと俺の方を見てくる。俺もきちんと話してはいなかったな。
言いづらい内容なのか……俺のような、ユニークスキルを取っているのかもしれない。
「……俺は、〈竜殺し〉。倒した竜の魂と力を吸収するらしい。……魂が俺の体にある。俺を操っていた奴も、倒されたヒュドールオピスもいる」
「え? 同居してんの?」
「……ああ」
俺の中にいることは間違いがない。ただ、前のように無理やり体を奪おうとはしていない。その二匹のおかげで強化されている部分もあり、文句は言いにくい。
「……中二病と言われるのが嫌だったから、ちゃんと共有しなかった……すまない」
「ナーガ。その、中二病については、竜な時点で逃れられなくない? 俺も竜人、かっけぇ! で選んでる」
「あの、僕も……」
アルスも似たよう理由で言いたくなかったらしい。
その能力を取った理由がバレると恥ずかしいという気持ちはあったらしい。
「〈一騎当千〉っていう、その……自分より弱い相手には能力が上がるバフ効果があるみたい」
「へ~。便利じゃん? でも、自分が弱い時には使えないってこと」
「うん。ここの魔物に対してはバフが入るから一発で倒せるんだけど……スタンピードの時は、ユニコキュプリーノスには発動したけど、ヒュドールオピスにはしなかったよ」
「俺も強さを求めるべきだったかな。なんか、俺だけ弱い気がする」
「……あんたはあんただろ」
レウスが弱いとは思わない。
ただ、役割に当てはめると、素早さが高く、敵を翻弄することになるので、グラノスとポジションが被っている。あいつが弱点を見極め、クリティカル・貫通攻撃という桁違いの攻撃力を出してるのがおかしい。刀の極みがやばい。あっさりと、貫通とクリティカルがほぼ併用されていると聞いたとき、唖然とした。
「僕とレウス君はそんなに差はないと思うけどね」
「……むしろ、ドロップ上がる方が役に立てそうだがな」
強さについては、ある程度あればいい。むしろ、ここで重大なのは貴重な素材を入手しやすいレウスの能力だろう。
実際、このダンジョンでアルスが一撃で倒せる。だが、シマオウ達に乗っているから倒す必要もない。
「……ボスには?」
「効果ないね」
「ビミョー? 効果ないんだ。雑魚狩り専門スキルかな」
「うっ……で、でも」
「まあ、俺より強いけど」
「……」
はっきりと言われたアルスが少し凹んでいる。俺も思ったが、頷かなくてよかった。アルスが少しジト目でレウスを見ている。
「……ユニークスキルの恩恵は、実は、能力よりもステータスアップだとクレインが言っていた。俺らはその分、この世界の住人より強い」
「ちなみに、クレインの能力ってなに?」
俺が言ってもいいのか? 少し悩んだが、まあ、言っておいた方があいつの指示に従うのを戸惑わないだろう。
「……〈直感〉」
「あ、納得」
「うん、もう、わかりやすいね。納得かも。グラノスさんは?」
「……〈刀の極み〉。よくよく観察すると刀以外装備していると普通よりちょっと強いくらいだぞ」
「あ~でも、弱点にしっかり当ててるよね?」
「……目がいいからな」
あいつはただ視力の良さを活かして、動きを見て、弱点見つけているだけだろう。クレインの勘で当てるのもどうかと思うが。
いや、弱点看破のアビリティ覚えたとか言っていたか? とにかく、クレインが弱点を当てるから、そこを一緒に狙うこともある……。あいつらが、そもそもおかしい。
弱点を狙って攻撃出来る時点で、あいつらは器用だと思う。
前は俺が出来ないことに劣等感があったが、レウスやアルスを見ていると別にそれが普通だとわかってきた。
「……俺は、今後はクレインの素材調達をメインに行動する。お前らは?」
「俺も同じ。クレインに助けてもらったからね。役に立てるように頑張るつもり!」
「僕も、かな。クレインさんというよりは、グラノスさんのためだけど。グラノスさん本人に返すより、クレインさんの役に立った方が喜びそうだよね」
「……あいつに拘る理由がわからん」
「俺も不思議~。まあ、クレインと関わりなかったから当然かもしれないけど」
アルスがしっかりと目線を合わせて会話が出来るのは、グラノスと俺とレウス。どうしても、他のメンバーには目線が合わなかったり、どもったりしている。
いや、俺らの時にも言葉が出ないような様子のときはある。
「う~ん。僕、グラノスさんが連れ出してくれなければ、リディと死んでたと思う。あの子に操られてたのか、魅了されてたのか……ただ、自分で考えずについていったのがいけないかもしれないけど。道を示してくれた、そんな感じかな? 二人がクレインさんに救われたなら、僕はグラノスさんに救われたんだよ」
「……あの状況でよくそんな風に受け取れるな?」
「なに、なに? どんな状況だったの?」
「……グラノスを怒らせた女につくか、俺らにつくか、即座に決めろ。女につけば殺してやる。3分間待ってやる。そんな感じだ」
「うわ~、でも、なんかやりそう」
レウスもよくわかっている。グラノスは、敵対すれば容赦なく殺せる。甘いのはクレインだけだと、その言動で理解している。
だが、そのグラノスに心酔できるアルスはわからない。生きるか、死ぬかの二択で生きるを選んだことは、不思議じゃなかった。
俺達についてきてでも、生きたいと望んだ。それでよかった。だが、その後の方が驚きだった。ティガが取り込もうとしたのかもしれないが、俺らと行動する中でもティガに懐く様子はなかった。
そのくせ、「グラノスさんはどうかな?」など、あいつに沿うように動こうとしていた。
「だって、その後のことも隠さないで教えてくれたから。聞かなければ、僕が傷つくだろうから教えない。聞いたら、それで僕がグラノスさんを恨んでもいいって。僕のこと受け止めてくれるんだなって」
「……そうか」
信用しないとか、あの場でも言われていたんだが……それでも揺るがないらしい。
そういう受け取り方をしたのであれば、俺がとやかく言うことでもない。
「大人たちが忙しそうだしね。俺はやりたいことと一致してるから問題なし」
「僕も強くなりたいし、問題ないよ」
「……ああ」
順調に、11階、12階とクリアしていき、20階までの道中も余裕だった。
途中での鉱脈での採掘や、岩についた光り苔の採取などをしつつも、余裕がある時間帯で到着した。
20階のボスは、岩型の蛇と聞いていた。蛇と言っても、退化していて毒はなく、岩のように固い鱗。いや、鱗が岩だという。体が重く、攻撃が通りにくい以外は戦いやすい相手と聞いている。
そして、ボス部屋に入った感想は、なんか見たことある。
「うん、なんていうか……見たことあるね」
「ポケ〇ンのイワーク?」
「……だな」
ずるずるっと体をくねらせて近づいてくる巨体。体が重そうで、素早くないのは一目でわかった。だが、刃が通るような体ではない。
こちらが槍や大剣で攻撃すると刃が欠ける。武器を壊したくない場合、鈍器推奨。もしくは、タンクが止めている間に魔法でがんがん削る。
「……相性、悪いな」
「あいつ、オリーブに似てるよね。角とか」
「え? あ、でも大きいオリーブなら角があるし、似てる? でも、けっこうずんぐりしてるよ?」
「シャー!」
レウスの似ているという発言に、聞き捨てならないとばかりにオリーブが威嚇している。俺の首元から降りて、地面に降りる。
オリーブはきれいな蛇だと思う。黒く光る鱗もだが、目の上にある宝石が埋め込まれていて、神秘的な美しさがある。
岩をまとったずんぐりして短く、不細工な蛇と一緒にすると怒るのはもっともだ。
「あ、でかくなった」
「ほんとだ。やっぱり蛇の姿は仮の姿なんだね」
「……戦闘中だぞ」
一人くらい大人が必要かもしれない。緊張感が足りていない。
オリーブが元の姿、ヒュドールオピス・ケラスに戻るのを見学している。敵が目の前なんだが……。
「オリーブ? 戦うのか?」
俺らとボスの岩蛇との間に入ったオリーブは、いきなり水を口から噴射する。岩蛇が怯むくらいの大量の水圧による攻撃。蛇の周りには水たまりが出来た。
「あれ? 雨?」
「本当だ。雨だね」
「……ああ」
いつの間にか、あたりには雨雲が出来ていて、雨がざぁざぁと振っている。
オリーブのステータスを確認すると〈雨乞い〉発動中という表示があった。これはオリーブが雨を降らせているらしい。
さらに追撃で、水魔法が発動しているのもオリーブだろう。
「ぷ~!」
ピカッと空が光ると同時にドーンという大きな音が鳴り、岩蛇に雷が落ちた。
ロットの攻撃なのか、自然発生の雷なのか……わからない。岩蛇の周囲にある水たまりが広がってきたので、後ろに下がって様子を見る。
その間にも何度か雷が落ちている。すでに、岩蛇は反撃もできない。
「俺らが戦う前に、もう瀕死じゃない?」
「うん。出番なかったね」
岩蛇が絶命するのを確認すると、雨と雷が止み、晴れ間が出てきた。
蛇の姿に戻ったオリーブが泥だらけだったので、布で体を拭いてやり、首元に戻す。「よくやった」と撫でると嬉しそうに返事をした。
だが、濡れてオリーブの体が冷えているので、首に触れて、ぞくっとしてしまった。すぐに温まらないと風邪をひきそうだ。
「……風邪をひく前に、脱いで、乾かそう」
「うん。ちょっと、防具脱いでから行くから先行っててくれる?」
「俺も、ちょっと整えてから行く!」
アルスとレウスが、濡れて重くなった防具をしまい始めたので、先に出口の方へ向かう。俺はテントを立ててからでいい。
焚火を作り、お湯を沸かして、温かい飲み物も用意しよう。
出口に向かって、歩き始めると後ろから、シマオウとキャロ、ロットもついてくる。
オリーブのおかげで、こちらは被害なしの状態で完封できた。30階のボスよりも、こちらの方が苦戦する可能性があると考えていたので無事に終わってよかった。
「ナーガってさ、クレインやグラノスさんの実力見て、勝てないって言ってるけど。『一人で』ってだけだよね」
「うん。テイムしてる魔物を戦力にいれれば、一番強いと思う。魔物使いって打たれ弱いとか聞くけど、ナーガ君は固いから……魔物が庇ったりもないし、暴走することもなく蹂躙できる」
「クレインも自分は弱いって思い込んでるとこあるけど、ナーガもだよね。実は似た者同士」
「わかる。頼りになるよね」
「俺も頑張ろうっと。ユニークが戦闘系でなくても、他で強くなればいいよね」
「うん。僕も頑張るよ」
アルス達が追い付いてきて、テントに入り着替える。
クレインの魔法があればすぐに乾かせるのだが、濡れた服を外に干して焚火で温まりながら、話しているうちに俺とレウスは寝てしまった。
セーフティーエリアで魔物はない。他の冒険者もいない。
アルスが一人で見張りをしていてくれたおかげで、ゆっくり休めた。朝方、「僕は寝なくても平気」というアルスを無理やり寝かせ、出発は遅めの時間になった。
それでも、シマオウ達に乗っていけば十分に30階まで行ける時間帯だ。頑張っていこう。
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