第29話 ダンジョン


 3度目のミリエラ鉱山ダンジョン。

 実力が足りていない訳ではないが、毎回、事情があって帰ることが続いている。


 今回こそ、踏破をする。

 決意をしつつ、ヤトノカミとの時間を過ごしたこともあり、予定より遅くなった。


「……どうする?」

「行けるとこまで行くでいいんじゃない? 別に戦闘してたわけじゃないし、疲れてないじゃん」

「う、うん。僕もいいと思う」


 もう少しすると日が沈み始める時間だが、そのままダンジョンに入ることになった。入口で手続きして、中に入る。


「……とりあえず、10階か」

「あ~、確かに。今から急いで10階にいかないとセーフティーゾーンで寝れない?」

「……そうなるな」

「でも、休むにしても、安全な方がいいかな」


 今までの2回も10階までスムーズに行っているので、一気に進んでも問題はないだろう。シマオウ、キャロ、ロットに各自が乗った状態で、さくさくと進んでいく。

 シマオウが先頭にいると、他の魔物たちも道を開けて逃げていく。


「人がいないね」

「……あの時がおかしかっただけだろう」


 このダンジョンは、人気があるのは事実。

 だが、新人でもない限り、低層にいることはない。毎度、メンバーが違うからショートカットできないだけで、メンバーが同じなら10階から、20階からスタートというショートカットが可能。あの時、人が多い方がおかしかった。


「でも、いいの? レウス君は採掘とか、探索したいんじゃ……」

「あ~、うん。まあ、したいけどさ。でも、10階まではもう2回も探索したじゃん? 毎回、中が変わってるけどさ。それに、まだ下の階にいる連中って、関わりたくない」


 関わり合いがある連中ではない。ただ、前の時にクレインを付け回した連中だったり、実力が足りてない連中が多い。


 逆に、俺らはだいぶ実力がついている。相手からこちらの事情を探られるのは面倒だった。


「……近いから、また来ればいい。今回はさっさと踏破」

「賛成! というか、また来るの?」

「……防具、しっかりと自分の体に合ったものを誂えるなら、鉄とかは自前で用意した方が安い」

「そっか。まだ使えるけど、しっかりした物を買うのもいいじゃん! でも、結構悩んでるんだよね」

「レウス君、グラノスさんみたいな軽めの方が良さそうだよね」

「……確かに」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねることの多いレウスなら、しっかりした装備よりもグラノスのような軽装備の方が合うだろう。

 ただ、あれも素材とかかなり高級なので、買うとなると高い気がする。



「なんか、めずらしい魔物の毛皮とかで装備作るとかもありじゃん? 一点もの! 金掛かるから、貯めておかないとだけど」

「……ヒュドールオピスなら、沢山あるんじゃないか?」

「え? でも、全部納品したんでしょ?」

「……ああ。だが、一部、装備品作りたいからと言えば……」


 予定の10倍以上の数を渡してあるのだから、貰えるだろう。多分。

 進化したばかりで、柔らかい鱗だとか、装備にするにはマイナス点はあるかもしれないが……。


「俺が倒してないから却下! 自分が倒したのがいいじゃん」

「珍しい魔物なんて、そうそういないと思うよ?」

「……いや。迷宮ダンジョンだと決まった魔物ばかりというだけだ。町から離れた森とかの魔物は、それこそ何がいるかわからない」

「う~ん。ヤトノカミじいちゃんみたいなのが沢山いるとは思わないけどさ。クレインと一緒なら、結構レアな魔物とか出てきそう」

「……」

「……うん、なんかわかる。レアボスの時も、クレインさんかなって思った」


 否定できる材料がないな。

 巻き込まれ体質……ヤトノカミに関しても、クレインが事前に調べていなければ、俺らが出会うことはなかった。


「なんだろう。悪運と幸運が一緒くたになって、纏わりついてるよね、クレインって」

「運がいいだけで終わらず、結果としていらない注目とか面倒事がついてきてる感じかな……大変そうだよね」

「……ああ」


 別にクレインが悪いとは誰も思ってない。

 だが、クレインが元凶というのは一致しているらしい。


 結局、1階から9階までは何事もなく進んだ。

 たまにロットが雷を体に纏わせて魔物に体当たりをしに行くことはあったが……概ね、何もなかった。

レウスとロットの組み合わせは、好奇心で魔物に突っ込んでいく。ロットは、自分が強くなったことを確認したいらしい。


「ごめんね、僕が乗ってるから……」

「ぷぷ~!」


 アルスは、キャロに乗りながらも「駄目だよ」と言って止める。キャロは戦いたい気持ちもあるようだが、「仕方ないな」という様子で戦うのは諦めている。

 進化したのが、ヒーラーよりというのもあるだろう。クレインが魔法攻撃をするとき、光魔法であることはあまりない。攻撃手段が限られているのだろう。

 

「……ボス戦だな」

「すぐに入れそうだけど、どうする?」


 10階に行くが、入口は空いていて、他に人もいない。すぐにボス戦に挑める状態だった。


「……役割の確認だ」

「はいはい。メインアタッカーはアルス、俺はサブでグラノスさんみたいに死角から攻撃」

「……ああ。俺が攻撃を止める。シマオウ、キャロ、ロットは無理のない範囲で援護してくれ」

「戦わせないの?」

「……毛が燃えたら大変だろう」


 コールクロコは石炭を纏っていて、火が燃え移る可能性がある。

 シマオウもだが、キャロとロットの毛触りのいい感触が無くなるのは勿体ない。


「えっと……耐火ポーション、一応、用意してくれてるよ?」

「使う? 使わなくてもなんとかなりそうな気はするけど。ポーション代とかケチるのは良くないとは聞いてるけどさ。あ、キャロ達に使っとく? つやつやの毛が燃えないように」

「……こら、やめろ」


 レウスに群がって、ポーションを奪おうとするキャロとロットを制しする。おらおらとお腹でレウスを押す姿が、どこのチンピラだと錯覚してしまう。


「なんだか、二匹とも気性が荒くなったというか……遠慮が無くなったよね」

「確かに! でも、俺らにも懐いてくれた感じする!」


 レウスは楽しそうだが、アルスは困惑気味だ。

 俺以外の仲間にポーションや薬を寄こせというのは駄目だと、しっかりと話をする。ちゃんと聞いているのか、ぷぅぷぅと抗議をしてくる。


「なんて言ってるの?」

「……わからん」

「う~ん。仲間だからいいじゃん、って主張したいのかな?」

「「ぷぷっ!」」


 それ! とばかりに、頷く二匹。確かに、仲間ではある。


 だが、レウスの持っている物はレウスに与えられた物だ。無料で渡されているが、今後はレウスがクレインから購入することになる可能性がある。今回だけではなく、きちんとダメだと教えておく必要がある。


「……お前たちは俺がテイムしている。必要なものを用意するのは俺だ。俺に言え、いいな?」

「ぷぷ~」

「……大丈夫だ。今回は間に合わなかったが、次からはちゃんとクレインにも言っておく」

「ぷぅぷぷぅ」


 クレインの名前を出したら、「わかった」とばかりに頷いた。だが、何か嫌な予感がする。

 

「……まて、クレインを潰していいとは言ってないからな」

「ぷ~?」

「なんだろ、幻聴かもしれないけど、何で~? みたいな抗議な感じがする」

「クレインさんは潰してもいいってことなのかな」

「ぷぅ!」

「うん、って聞こえるね」

「だね」


 もう一度、ちゃんと説明をするが、どうもクレインはいいだろうという二匹の考えがあるらしい。なかなか納得してくれない。


「ナーガ。あとにしたら? 人が来るとまずいしさ。耐火ポーションどうする?」

「……俺のを使う。すぐに入ろう」


 二匹に耐火ポーションをかける。シマオウはと視線を送るが、首をふっているのでいらないようだ。


「じゃあ、行くか」

「うん」

「……ああ」


 ボス部屋に入って、様子を伺う。

 コールクロコが、おおよそ、100m先あたりにいた。初めて戦ったときは、他の冒険者を襲っていたためにもっと奥にいた。今回はしっかりと待ち構えていた様子だ。


 俺が盾を構えて、挑発をしようとする前に、コールクロコが大きく口を開けて突進をしてきた。


「……後ろへ。止めたら、攻撃してくれ」

「オッケー」

「うん、任せて!」


 二人が俺の後ろにて武器を構える。

 突進してきたコールクロコの熱気を感じるくらいに接近を感じ、ガードを発動しようとした瞬間だった。突然、影が出来て、真上に気配を感じた。


「PUUUUU!」

「……は?」


 思わず、上を見上げると眩い光を纏うキャロ。まぶしさに目が眩んだのか、コールクロコの突進スピードが減速した。キャロがそのまま放物線を描いて、どぉんという大きな音をたててコールクロコの口先に着地した。


結果、コールクロコの大きく開けていた口を無理やり閉じさせ、その衝撃で、歯が何本か折れてはじけ飛んでいた。


「え~」

「いや、すごいけど……」


 どうやら、衝撃で気絶をしているらしいコールクロコに対し、追い打ちでロットが紫の光を纏いながら突進。これにより、気絶に痺れも加わったのか、起き上がりそうもない。


「……攻撃用意!」

「はーい!」

「うん、いくよ」


 俺の声にドン引きしていた二人も武器を構え直し、一気に攻撃を加える。



 結果。

 大した反撃もないままに、コールクロコは撃破された。


「なんだろ、すごく物足りない!」

「まあ、レベルが上がったから楽勝とは聞いてたから……」


 MVPはキャロだろう。

 なんだろう。戦力になるということを示してみせた。それはいい。


 だが、俺は援護を頼んだ。だいたい、魔法使いが前衛より前にでるのは、どうなんだ?

 クレインも前衛にいることは多い。真似する相手を間違っている。クロウのように後ろで守られていて欲しいんだが……。


「……キャロ、ロット。よくやった……ご褒美だ」


 二匹の餌になる薬草。

 特に好物だと思われる採取していた蛍火草を取り出す。これは、以前、クレインが目を輝かせて採取していた珍しい薬草。もう、消費期限ぎりぎりなので、餌とするために持ってきた。


「ぷぷ~」

「ぷう~」


 二匹は嬉しそうにそれを頬張る。やはり、クレインの好む薬草が好物らしい。

 しかし、光っている部分だけ食べて、他の部分を残すのは駄目だと叱っておく。ちゃんと食べた後には撫でておく。


 そのまま、出口を出て、夜営の準備をする。俺ら以外には誰もいなかった。



「3時間ずつ交代?」

「……平等にいくなら、そうなるな」

「平等でいいと思うよ。それに、キャロたちがいるから心配無さそうだよね」


 結局、俺とシマオウ、レウスとロット、アルスとキャロの順番になった。

 いや、シマオウに「気配を感じたら教えて欲しい」と言っただけなのに、キャロとロットもやるということになった。

 そのために、各自乗っている動物との組み合わせで夜営となった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る