第23話 ダッシュプース


 マーレスタットに到着後、すぐにテイマーギルドに向かった。シマオウを預ける手続きをすると、ちょうどクロウが来ているという。それらなと、アルスとレウスも一緒に牧舎に入った。


 俺に気付いたキャロとロットが突撃してきて、もふもふの毛に包まれた。

 ぎゅうぎゅうと潰される勢いだった。普段、俺を潰すようなことはないので、珍しいと思いつつ、受け止めて撫でてやる。


「おっ、帰ったのか」


 キャロとロットが駆けてきた先に、クロウがいた。キャロとロットを宥めてクロウと合流する。


「クロウ、何してんの?」

「餌やりだなぁ」

「……あの、価値ありそうな草とかキノコに見えるけど、いいの?」


 アルスの言葉に確認するが、キノコの森ダンジョンで採ってきたキノコや草が多い。一部は西の丘の採取物もある。草やキノコが腰あたりの高さくらいある山になっている。

 どうやら、二匹の餌としてクロウが持ってきたらしいが……食べ過ぎだろう。


「もうあと数日で薬効が切れるんでなぁ。一応、婆様にも確認したが、使う予定もない。それなら構わないかと兎の餌として持ってきたんだ」


 ちょうど食べ始めるタイミングだったらしい。

 どうやら、テイマーギルドで出される餌は食べないとかでここ数日はあまり餌を取っていなくて、相談されたから持ってきた。しばらく食べてないため、餌を与えすぎではないらしい。


 師匠から許可があるなら食べさせても問題はないだろう。手分けして餌をやれば、すぐに山は無くなっていた。


「ぷう~」

「ぷぷ~」

 

 食事が終わると、キャロとロットは何かを訴えるように鳴いてよってくる。だが、何を伝えたいのかが、理解できない。


「……落ち着け、どうしたんだ?」

「「ぷぷ~」」


 しきりに何かを伝えようとしているが、全く分からない二匹に混乱する。


「クロウ。なんか言いたそうだけど、あの二匹、何言ってるの?」

「俺がわかるわけないだろう。だが、俺らを運んだあと、ここにいれられて随分と不満そうにしていたからな」

「ぷぷっ!」

「迎えに行くつもりだったのに、他の魔物の匂いさせているから怒ってるんじゃないか?」


 確かに、視線の先にはオリーブがいる。だが、この二匹は怖がっていない。他の預けられた魔物たちは距離を取っているのに、だんだんと足で地面を叩いて抗議している。



 結局、言いたいことがわからないため、テイマーギルドの職員に聞いてみることにした。


 職員が二匹を撫でながら、確認をしている。お腹が空いてるのか、体調が悪いのか、一つ一つ質問をしている。


「もしかしたら、進化したいと促しているのかもしれません」

「進化?」

「はい。メガダッシュプースは、もう一段、進化をすることできる魔物です。ただ、進化すると気性が荒くなったり、自分より下の者に従わないなどの弊害もあるため、移動用に飼っている場合は進化させることは珍しいです」


 キャロ達は、メガダッシュプースという運搬用の家畜化した魔物だ。

 進化前はダッシュプースという。毛皮などを刈ることを目的に、飼われている。一部がメガダッシュプースに進化するが、そんなに数は多くないと聞いている。


 そして、キャロ達はさらに進化できるらしい。


「……進化したいのか?」

「「ぷ~」」


 二匹は大きな声で返事をする。

 たんと前足で床を叩いているが、「進化させろ」と言うことらしい。


 しかし、この二匹はすでに気性が荒い様な気もするのだが……。

 ここには他のメガダッシュブースも数匹いるが、大人しいものばかりだ。


「……どうすれば、進化するんだ?」

「そうですね。二匹とも、上限レベルまで上がっていますから、そのまま進化もできると思いますが、詳細を確認しましょうか?」

「……ああ、頼む」


 ギルド職員が水を張った水盤のようなアーティファクトを持ってきて、キャロの前足を水盤に浸けさせる。


「はい。確認しました。キャロちゃんは通常進化のギガダッシュプース、又は、エーテルダッシュプース! わっ、すごいですね。エーテルダッシュプースに進化できるって珍しいんですよ」

「……そうなのか?」

「はい! 魔法適正が高い貴重なダッシュプースですね。大きさは、おそらく今と変わらないですね。ギガダッシュプースはさらに大きくなりますよ」

「…………そうか」


 大きくなるとさらに預ける料金が上がるか? そのままの大きさの方が良さそうだ。

 ちらっとクロウの方を見ると、やらやれという仕草をして、キャロに触れた。


「ギガダッシュブースは大きさが1.3倍くらいになるな。素早さも体力も上がるから、より重い荷物などの運搬に向いている。エーテルダッシュブースは、爪に魔力を宿らせて戦ったり、簡単な魔法を使えるようになるらしいな。戦いに向く魔物ではないが、援護やらは出来るようだな。おい、やめてくれ」


 戦いに向かないと言った瞬間に、クロウにキャロとロットが突撃した。

 どうやら、戦いたいらしい。クロウに馬鹿にされたと思ったか、軽く攻撃してアピールしている。

 二匹は移動のために運んでくれればいいんだが……。

 

 シマオウが戦ったり、運んだりと万能だからだろうか? 自分たちも戦いたいようだ。

 どうやら、ダンジョンの入口でお留守番とかが気に入らなかったようだ。



「ちなみに、何か特別なことしたりしました? もし、進化に何か心当たりがあるなら教えてください!」

「……心当たり?」


 とくに覚えはないが……可能性としては、魔力を帯びた草ばかり食べていたせいだろうか? 他に何かした覚えはない。


「餌か?」

「確かに! この二匹は偏食ですよね。預かった後、全く食事をしないため、クロウさんにお伝えしたところ、餌にしてくれと渡された草やキノコは全て魔力を帯びていました。なるほど、そういう飼育方法があったんですね」


 どうやら、いつの間にか偏食になっていたらしい。

 調合用の素材を食べさせていたのが良くなかったのか。

 そのせいで気性が荒くなったか?


「……ロットも同じか?」

「ああ、すみません。すぐに確認しますね」


 ロットも同じように、水盤に足を浸けさせ、確認してもらう。

 2匹は同じ様に扱っているから、違うことはないだろうが、一応確認をしてもらう。

 

「すごい! ロットちゃん、固有種になれます! スペルケラヴノスダッシュプース!」

「固有種?」

「はい。通常は進化できない、特殊な進化をした魔物です。シマオウ君みたいな〈王〉個体であったり、何か一芸に秀でた魔物ですね。エーテルダッシュプースのさらに上位と考えていただければ……ケラヴノスですから、雷特化ですね。ものすっごく珍しいですよ!」

「……そう、か」


 雷魔法、なかなか希少な魔法と聞いていたんだがな。十中八九クレインの影響だろう。


「あ~、調べたが……多分、クレインの雷の魔石を飲んじまってるな。腹に異物あり。そのせいだろうな」



 そういえば、3日目の夕方……雷の壁を撤収作業しているクレインにロットがじゃれ付いていた。

 その時、まさかと思うが……魔石を飲み込んだとかだろうか?


 いや、魔力を帯びた草が好物とはいえ、魔石を飲み込んだりはしないだろうと思うが……クロウが確認したのなら、間違いはないだろう。


「雷魔法に特化したダッシュプースだそうだ。通常よりも素早く、雷を纏った攻撃で周囲の魔物を一掃するらしい」


 クロウの説明に、ロットはふふんと踏ん反りがえった仕草をしている。


「ぷぷ~」

「ぷっ、ぷぷっ」


 床をだんだんと大きく叩いているキャロ。ロットが挑発している。おそらく、ロットだけが固有種になれることが気に入らないのだろう。ロットはそれを煽って、喧嘩になる。


「……喧嘩するな」

「がう!」

「ぷぷ~」


 俺が止めると、シマオウも吠え、キャロとロットは反省したように丸くなり、頭を下げている。

 だが、進化すると二匹の能力差は大きくなりそうだ。


「進化の方法ですが、進化はこちらの薬を水に混ぜて飲ませます。飲ませた後に、進化先を選んでいただけば大丈夫です。薬はご購入ください」

「……二つ、購入する。薬を用意してくれるか?」

「はい、承知いたしました」


 テイマーギルドの職員に薬を頼み、その場を離れてもらう。

 さて、どうするか。


「魔石か~。クレインがいれば分けてもらえただろうけど、キャロもスペルなんとかになりたいよな」

「そうだよね……ただ、持ってないんだよね」


 レウスとアルスの言葉にキャロが大きく頷く。今まで二匹一緒だったのに、どちらかだけ強くなるのは嫌がるだろう。


「ねぇ、クロウ。なんか方法ないの?」

「なんで俺に聞く?」

「クロウなら進化の条件とか、わかってそうだから。なんとかならない?」

「無茶をいうな……同じ条件にするなら、魔石を食べさせればいい」

「ないじゃん!」

 

 クレインがいないから、魔力が込められた魔石はない。

 だが、クロウがちらりと俺を見てきた。俺は何が言いたいか分からなかったが、こくりと頷きを返した。俺はわからないが、なにか知っているなら教えて欲しいという意味だったが、伝わったらしい。


「わかった、わかった。まず、クレインが戻るまで待つ。次に、武器に付いてる魔石を取り外して与える。あとは、魔石ではなくても、魔力が込められた素材でもいけるはずだ。ただし、相当強い魔物でないとだめだろうがな」

「槍についた魔石ってこと? でも、帰りの中でも使ったから、あんまり残ってないよ?」

「うん……それに、これは外せないと思うんだけど……」


 クレインがはめ込んだので、クレインがいれば外せるだろうが……俺にはできない。


「雷に拘らないなら、預かってる石をやってもいいが、どうする?」


 クロウはキャロに確認を取っているが、いいのだろうか?

 クレインが理由もなく、渡しておくことは無さそうだが。


 キャロはふんすと息を吐いて喜んでるのか、気合を入れているのか寄こせとばかりにクロウの前で前足を揃えて出している。


「ほれ」


 クロウが出したのは、魔石ではなく水晶……込められているのは、光回復〈ヒール〉だった。それ、渡してもいいやつなのだろうか。クロウの緊急用のためでは?


「ぷぷっ!」


 キャロは止められる前にとばかりにぱくっとそれを食べた。


「食べちゃったね」

「変化はないみたいだよ。ナーガ君、どうするの?」

「……進化させる」


 もう食べてしまったのだから、さっさと進化させないと腹を壊しても困る。


「お待たせしました」


 進化させるための薬を受け取り、それを水と一緒に盥に入れて、混ぜる。


「「ぷぷぷ~」」


 それを飲んでいるキャロとロットの体が光り輝き始める。


 キャロの方は、灰色の部分がより白に近くなり、毛先が光っているようにも見える。

 ロットの方は、灰色に紫がかった色になり、首回りの部分は濃い紫になっている。


「スペルケラヴノスダッシュプースとスペルフォースダッシュプースになったようだなぁ」


 こくりと頷きを返す。

 クロウの言う通り、2匹は進化してケラヴノスとフォースになっている。覚えている魔法も確認できた。しっかりと、雷〈サンダー〉と光回復〈ヒール〉がある。


「おおっ、なんか色がちょっと変わった?」

「どっちも体格は変わってないみたいだね」


 レウスがロットを撫でつつ、紫色になった首元を触っている。アルスも興味津々でキャロの耳を撫でている。


「無事と言っていいのか、腹にあった異物もちゃんと解けて消えている。これなら腹を壊す心配もないだろ」

「……危なかったのか?」

「ロットの方は、異物を飲み込んでから日数が経っているからな。クレインが戻るまでそのままは危険だったかもな」

「……そうか。助かった…………ありがとう」


 二匹は進化したことが嬉しいのか、アルスとレウスにじゃれている。


「ほら、そろそろ帰るぞ。宿、お前たち取ってないだろ」

「あ、そうだった! でも、今は人少ないって聞いてるし、大丈夫じゃない?」

「泊まれないことはないだろうが、食事の用意されない可能性があるだろう」

「あ、そっか、そっか。ナーガは食事、どうする?」

「…………適当に食べる。先に、フォルに戦利品を渡しに行く必要もある。……俺のことは気にしなくていい」

「ん~、わかった。じゃあ、明日、神父様のとこ? 1日の手伝いするんでしょ?」

「……ああ……そのつもりだ」

 

 まだ、数日の余裕はあるが、掃除の手伝いは必要だろう。ついでに、話を聞きたいので行くつもりだったが、レウスも来るらしい。

 ちらりとアルスを見ると、頷いたのでアルスも来るらしい。


「疲れが溜まってるから、ゆっくり寝るんだぞ。じゃあな」


 クロウにしっかりと寝るようにと言われて、3人と別れてテイマーギルドを出た。

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