第二章 ナーガ視点(第三章後)
第22話 スタンピード後
スタンピードが終わった翌日。
クレインとグラノスが双子とともに迎えの馬車に乗って去っていった。俺とレウスとアルスはマーレスタットに向かうことになった。
「行っちゃったな~」
「……ああ」
「怪我、大丈夫なの?」
「…………ああ……」
「無理しない方がいいよ。その、結構ひどい怪我だったよ?」
「……べつに、無理じゃない」
怪我とか不自由な場所は一切ない。クレインが入念に治している。骨折したところも、違和感なく動く状態になっている。
ただ、クレインは、俺の首に巻き付いているオリーブに対して、じっと見た後、ため息をついていた。グラノスが宥めていたのと、双子が側にいたこともあって、口に出すことなく許された。
心配そうにしているレウスとアルスに「大丈夫だ」と説得して、シマオウを呼ぶ。
「……3人、いけるか?」
今まで、シマオウに2人は普通に乗っていたが、3人で乗ったことは無い。
ただ、他に手段がないため、シマオウに確認した。3人で乗れないのであれば、徒歩で帰ることになる。おそらく10日以上かかる距離だ。
出来れば、3人乗って帰りたい。
シマオウは俺の意図がわかったのか、ぐるぐると喉を鳴らした後、咆哮した。
その瞬間、少しびくっとしてしまった。
それに気づいたレウスに両肩をぽんぽん叩かれ、「大丈夫、大丈夫」と笑顔で落ち着くように言われた。
「……わかっている」
「その、大丈夫なの?」
「……あれは、竜だからだ。次はない……あってたまるか」
「俺も! やっぱ、操られるとか嫌だしな。次が無いように強くなりたい!」
「……ああ」
俺もレウスも、次はないと固く拳を握り、頷く。予想外ではあったが、たかが咆哮で体を乗っ取られてはたまらない。
俺が咆哮に反応したせいで、シマオウが頭を腿の当りに擦り付けてきた。
「……大丈夫だ、すまん」
「ぐる~」
シマオウを撫でつつ、何かいるのかと警戒するが、魔物の姿はない。いや、遠くから砂埃を上げて近づいてきている。
それに気づいて、皆、武器を構えた。漸く姿が見える。
近づいてきた魔物は、尻尾を直立に立てた状態で頭を下げてから、ゆっくり近づいてくる。敵意はない。
猫型の魔物だった。大きな耳が特徴的で赤毛に首からお腹の毛が白い。脚力がありそうで、素早さはあるだろうが、持久力があるかは不安が残る。
「なんだっけ、こんな感じのネコ科の動物いたよね」
「……カラカル。色はもっと落ち着いた感じだ……」
「そう、それ!」
「でも、牙も爪も鋭いし、こんなに大きくないよね? ……一人くらい乗れそうだけど、大丈夫かな」
シマオウより小さいが、人を一人乗せるくらいなできそうな大きさの猫の魔物。一瞬、クレインが「駄目」という姿が浮かんだが、シマオウに3人で乗るよりはマシだろう。
おそらく、シマオウが移動のために、必要だから呼んでくれたのだろう。
だが、この魔物を見たことがないから、気を付けることがわからない。
「今思ったんだけどさ、俺らだと斥候とか鑑定出来る奴いなくない?」
「……いないな」
シマオウが一鳴きすると、伏せをした状態で俺達に頭を下げた。
ただ、俺の首元にいるオリーブ……蛇に気付くと威嚇してきた。俺に対してではないようだが、気に入らないらしい。
「これ、乗っていいってことかな?」
「……たぶんな」
「ぐる……」
シマオウが餌を欲しいという合図のような仕草をしたので、ユニコキュプリーノスを取り出す。まだ魔石を取っていない状態だったが、魔石を取って、食べやすいように身を剥いで、骨を取ってからカラカルっぽい魔物の前に置くと食べ始めた。
「……テイムしたら、怒られるか?」
「クレインは怒ると思うよ。だって、動物増やしても飼うスペースないじゃん? 俺らなんて宿暮らしだし、ナーガの家もモモでぎりぎりっぽいし」
「うん、僕もそう思う……でも、安全に帰るためにはテイムした方が良くない? その、確かテイムって解除できるんでしょ? 町の近くで解除すればいいんじゃないかな」
大型の猫……特に大きな耳がいい。移動にも必要だろうが……シマオウとキャロ、ロットを預ける料金もそれなりに掛かっている。
冒険者の報酬内ですんでいるが、増えていけば足りなくなる可能性もある。
「まあ、移動に必要なのは事実だし? テイムしちゃいなよ。お金は……俺らも払うよ。それに、キャロやロットと違って、戦闘も出来そうだし……もしくは、アルスの言う通りに解除するか」
「……そうか」
「こっちの世界では移動手段が限られているから……車の駐車場の料金だと言えば、納得しないかな。必要経費って言えば、クレインさんは理不尽に怒ったりしないと思うよ」
「確かに! 馬をレンタルするよりいいよね、可愛いしさ。ナーガ、俺らも説得に協力するからテイムしちゃえ」
「……ああ」
少し悩んだ後に、名付けてテイムをした。
移動を考えるなら、必要となる。ここから歩いて帰るとなれば、10日以上かかるはずだ。叱られるようなら……テイム解除か、テイマーギルドへの譲渡でいいだろう。
「でも、猫ばっかりだね。ナーガ君は犬嫌い?」
「いや……ただ、猫ばかり縁があるだけだ」
モモに出会ったのも、クレインがシマオウと会ったのもたまたまだ。
今回のカラカル達もシマオウのおかげで、俺が猫に拘っているわけではない。
「犬の魔物は見かけないよな。犬ってやっぱペットなのかな」
「……テイマーギルドにはいたぞ」
「へ~、おもしろそう。今度見に行ってみようかな」
俺はシマオウに、二人はコウギョクとサンフジに乗って移動を開始した。
数時間おきに休憩を挟むが、休憩中、二匹は俺達から距離を取っている。餌を渡すと近くにある木の上にジャンプしてそこで食べている。
シマオウのように人に慣れていないが、それはそれで可愛いと思う。
「移動、馬の方が早いのかな?」
「……どう、だろうな。行きで、キャロとロットは馬車の速度についていった」
「うん。あの二匹は意外と張り合うところあると思う。お互いに、負けん気が強いとこあるよね。あれ、多分、馬車にも競り勝つつもりで走ってたよ」
「ケンカじゃないけど、よくじゃれてるよな。しかも、なぜかクレインを圧し潰しに行くこと多いし」
それは、クレインから薬草を奪いにいっているからだろう。
どうも、あの二匹はクレインを下に見ている節がある。いや、新入りとでも思っているのか、どうも絡みに行くことが多い。最初から、百々草を奪っていたりと、怒らせるのだが、二匹は気にしていない。
シマオウはクレインを上に、そして、他の魔物たちを統率している素振りがあるのだが……なぜか、キャロとロットはクレインには強気で薬草を奪いに行く。
ただし、言い聞かせたら、ちゃんと分け合えるようになったが……。
「僕らのとこにはあまり来ないからね。グラノスさんは『餌を持ってるときだけ寄ってくるな』って言ってたし、積極的にからむのはナーガ君とクレインさんにだけじゃない?」
「クロウにも寄ってくの見た! ただ、クロウは持ってる餌をさっさと渡して、抜け出してるから見る機会が少ないかな。たまに、あの高そうなコートが毛まみれになってたりするよ」
「……調合のせいか? 餌が何かわかる人のとこにだけ行ってるのか」
「あり得るかもね。二匹とも、草食だけど、魔力がこもる草ばかり食べたがるって、クレインさん怒ってたよ」
「俺ら、それがどの部分かもわからないけどね」
クレイン、クロウ、グラノスの三人だけ、どんな草がキャロとロットの好みか理解しているということなんだろう。クレインは二匹に餌として譲らないため、圧し潰されて奪われているが……。
クレインの機微にも敏感で、意外と慰めるようなこともしている。怒らせるほうが圧倒的に多いが。
「あの二匹、最初の頃より毛の艶とか良くなってるよね。良い物を食べてるってことなのかな、クロウは失敗作も与えたりしてるし」
「…………魔力高い部分しか食べないとか言ってたな。失敗作は聞いてない……」
「薬を作ろうとして、失敗したら与えてるのかな……。クレインさんはそれもリサイクルするみたいだけど、クロウさんは面倒だから二匹に与えて処理してるとか?」
初めて聞いた内容に驚くが、まあ、腹を壊してないようだし、問題ないのだろうか。
そもそも、魔物なので、普通の動物よりも凶悪だし、強いはずなのだが……。
キャロとロットのことを考えつつ、休憩になって木の上にいる二匹に追加の餌をと思ったが、レウスも同じことを考えていたのか、ボアを狩ってきたところだった。
「ほら、これも食べる?」
レウスが近くにいたボアを倒すと、木の上にいた二匹が降りてきて、ボアを食べ始めた。ちらりと俺の横にいるシマオウを見るが、シマオウは餌を食べていないが特に気にしていないようだ。
「……いいか」
「うん? ナーガ、どうかした?」
「……いや。シマオウにも用意しようと思ってな」
「いや、自分で狩れるでしょ。俺らより強いし。食べたくなれば、自分でとるよ」
町から大河まで行きは3日かかったが、2日で帰ることが出来た。
町に辿り着いたところで、悩んだがあまり懐かなかった二匹のテイムを解除した。二日間でも俺らを乗せる以外はずっと距離を取っていた。
とくに、俺が警戒されていた。理由はわからないが、気に入らずともシマオウが命じたからだったのか。
「……ありがとうな、助かった」
「ぐるる~」
テイムを解除した後、二匹は少し戸惑ったようにこちらを見ていたが、しばらくすると二匹は立ち去った。
「いいの?」
「……ああ。ずっとテイムで拘束してても、テイマーギルドに預けるだけど何もしてやれない」
「まあ、確かに? シマオウはずっと一緒?」
「がうっ!」
「……クレインを追いかけてくるくらいだからな。すまんな、あいつと離れさせて……」
「がぅがぅ」
ぺろりと頬をなめられた。気にしていないらしい。
俺が主であることは認めてくれている。ただ、助けたクレインも大事ということだろう。モモは俺よりもクレインとグラノスの側にいることが多い。
俺がテイムしていても、個々に感情がある。無理に仲間に組み入れるのも良くない。
「シマオウ。すまないが、またテイマーギルドにいてくれるか」
「がう」
町に入り、テイマーギルドへと向かった。
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