第19話 国境山脈へ〈ナーガ視点〉


 俺は、アルス、レウス、ティガ、クロウにグラノスの6人で、国境山脈にやってきた。

 山にはいくつか洞窟があり、帝国へと繋がっているらしい。中腹にある洞窟でレウス達はクレインに助けられたそうだ。


 出発する時に、「ダンジョンじゃないのか?」と聞いたが、アルスがパーティーに入っていないから、無理らしい。

 アルスを仲間にするか、最終判断のため……そう言っているが、おそらくアルスをいれることはすでに確定しているだろう。


 アルスは放置して、一人で生きていけるとは思えない。……別にダメな奴じゃないが、心配になる。レウスも同感だと言っていた。



 国境山脈へと入り、キャロやロット、シマオウから降りて、各自歩き始める。


「さて……クロウ。君は十分注意するようにな。まあ、すでに蛇で懲りてるだろうが、君だけは魔法系だから、攻撃をもろに食らうと厳しい」

「注意はするが……大丈夫なのか? ここはそれなりに強い個体もいるんだろう?」

「いるだろうな。シマオウもここ出身だもんな?」

「ぐるる~」


 近づいてきたシマオウの喉を撫でながら、グラノスが辺りを見回している。周囲には敵がいないのか、じゃれている。

 シマオウは、王と付くだけあってここら辺で敵はないのだろう。「クロウを守ってやってくれ」というグラノスの頼みに頷いている。



「とりあえず、今日のところは君達で様子を見てもらってもいいか?」

「……2時間経ったら、合流しろ」

「ああ、じゃあ頼んだ」


 グラノスは、後は頼むとばかりに手を振って、立ち去った。

 おそらく、一人でどこまで出来るのかを試すのと、憂さ晴らしだろう。


 クレインが一人でここに来たのであれば、それが妥当な判断だったのか確認する……まあ、師匠がここの素材が欲しいと言ったから、ホイホイと考えずに行動した場合に叱るつもりだろう。


「彼はどこへ?」

「……憂さ晴らしだろう。色々と貯めこんでるから、少しガス抜きに行った。2時間……日が沈む前には帰ってくるはずだ」

「アルス君を見極めるんじゃなかったのかな?」

「……見極めるにしても、一緒にいないと出来ないわけじゃない……行くぞ」

 

 消えた方向を見るが、すでに姿はない。まあ、視力が良い奴ので、遠くから俺らを確認している可能性もあり得る。……いや、多分気晴らしを優先するか。



 グラノスはわかりやすくティガとは距離を開けている。好きにすればいい、俺も関わらない……そんな風に感じることがある。

 グラノスからクロウに対しては、もう少し気安い。


 ティガの方は、俺、クレイン、グラノスでそれぞれに対して接し方が違っている。

 ティガは俺やレウス、アルスに対しては子ども扱い。守る対象であり、諭す立場を崩すことは無い。学校の教師のように振舞うこともある。


 何か、仕出かさないようにという注意も多いが……「大人たちに任せておけばいい」という発言もしていた。確かに、俺らがいた世界では、子どもと言われる年齢だ。

 だが、この世界で、守られるだけで居場所を確保は難しいのではと思う。

 

 クレインが必死に腕を磨き、グラノスが貴族と交渉を持って、なんとかこの世界の足掛かりを作り、俺らの平穏を保っている部分がある。

 その上に胡坐をかいて、子どもは何も知らなくてもいいという判断を正しいとは思えない。出来る事が少ないのは事実でも、何かあった時に考える材料は知らせておくベきなんじゃないだろうか。



「いつもこんな単独行動を? 気にならないのかな?」

「……べつに」


 そもそも……このメンバーだと過剰戦力。

 なんだかんだ、アルスも物理アタッカーであるため、全員で行動しなくても、ここらへんの魔物なら対処できる。



「……一人になりたいときもある。俺と二人なら、それはできないだろうが……これだけ人がいるなら、少しくらい羽を伸ばしたいだろう」



 グラノスは、昨日、疲れた顔で帰ってきた上に、酒を一杯だけ飲んで潰れてしまっていた。前に一緒に飲んだ時の様子だと強い方ではないが、一杯で潰れる程ではない。


 クレインは倒れたグラノスをみて、「こうなるかなと思った」と苦笑していた。

 そんなに疲れているなら、延期した方が良いという提案には、「ストレス発散のためだから、みんなが行かないなら、兄さんだけでも出かけてしばらく帰ってこないと思うよ」と言っていたので、酒はほどほどにして、翌日の準備をするために解散となった。


「……大丈夫なのか?」


 酔いつぶれたグラノスを運びながら、クレインに確認すると酔いつぶれているグラノスを確認している。


「時間がなかったから、私も何があったか教えてもらってない。でも、疲れてるからだと思うよ……早めに寝たから、明日には回復してるだろうし、ストレス発散に暴れればすっきりするんじゃない?」

「……そうだな」


 貴族同士での争いになったら、俺に出来ることは無い。クレインも無理だろう……だからって、グラノスに無理して欲しいと思っているわけではない。


 ただ、この時に別行動になりそうな可能性はクレインからも聞いていた。魔物に八つ当たりするなら、俺には見せたくないだろうと……その予想通り、一人でどっかに行った。



 俺としては、ああ、やはりなと思っただけだった。


「彼はいつもこんな危険な行動を?」

「……危険? 大丈夫だと思うが?」

「勝手な行動をすれば、団体が危険なことになる。これでは一緒に行動する意味が無いと思うのだけどね」

「……そうか」


 言いたいことは分からないわけではない。

 だが、無理をして何でも受け入れて、指示をする側に立つことを望む奴じゃない。俺とクレインとの3人だったから、リーダー役をやっていただけで、ティガ達のリーダーまで引き受ける気はないというだろう。


「やっぱり、僕を認めたくないとか、かな?」


 俺とティガの話に不安そうなアルスが口をはさんできた。


「……それなら、食事に呼んでない。目の前で飲んで潰れても、危険はない……そうじゃないと、酒を飲んだりしない…………」

「確かに。キュアノエイブスにいる間、酒の誘いは全て断っていたからなぁ。そういう点では、信頼されているんだろう。まずは、俺らだけで戦おう。前方から、来ているようだからな。なあ、ティガ?」

「そうだね……始めようか」



 魔物などの索敵能力は、クロウとティガは俺より高いらしい。熊型の魔物が仕掛けてきたが、俺とアルスが戦いに参加しなくても、3人で問題は無さそうだった。



「……キャロ、ロット。餌を探してくれ……他の魔物が出ても守ってやる。クレインの分も取って帰るから3体分だ、わかるな?」

「ぷぅぷぅ」


 熊を倒し終えたので、キャロとロットに餌を探すように頼む。

 この2匹は、正式名はメガダッシュプースという魔物が家畜化されたウサギだ。人を二人乗せて長い距離走れる。しかも、毛が長くふわふわしていて、馬車とかよりも乗り心地が良いとも言われるらしい。

 急いでマーレスタットに帰るために、用意してもらった乗り物でもあるが、可愛く癒されるので〈テイム〉をした。


 だが、クレインは反対している。

 二匹の存在を知っていれば、シマオウの〈テイム〉も反対したという……預け先はあるが、タダではない。むやみやたらに増やしてはいけないというのもわかるが……。


 もう一つ、クレインの逆鱗に触れてしまった。

 アルスとレウスとティガで近場に採取に行くときに、それは起こった。


『百々草がっ!……ちゃんと、土を残した状態でせっかくまとめておいたのに!!』


 草食のキャロとロットは、クレインが調合素材として使う予定だった百々草を食べてしまった。

 百々草はそこらに生えている草で、希少価値があるものではない。葉と根の間が一番魔力が溜まっている場所らしく、掘りだされた百々草はキャロ達にとってご馳走だった。


 結果、クレインを怒らせた。

 そんなことがあってから、キャロとロットにはよくよく言い聞かせている。最近はわかってくれているのか、必ず一部を残して渡してくれるようになっている。

 


「……お前達が欲しいものは、クレインも欲しがる。だから、キャロとロットとクレインで分けるんだ。独り占めはだめだ……いいな?」

「ぷぅ~」


 わかってると返事をするようにして、二匹は餌になる草を探し始める。

 ここで、役に立つことを証明しておかないと元の持ち主に返すというクレインの案をグラノスが許可してしまう可能性がある。

 戦闘能力こそなくても有用だと示しておくことは大事だろう。


 キャロは俺に、ロットはクロウ……というか、護衛のシマオウを連れて、採取物を探し始める。距離は遠くないので、問題はないだろう。



「ナーガ君。これとか、使えるかな?」

「……わからない」


 大きな固そうなキノコをアルスが持ってきたが、正直、見たことがないからわからない。まあ、袋の中に入れておいて、必要かどうかを聞けばいい。



「まて! それをそのまま入れるんじゃない!」


 袋に入れようとしたところで、クロウから止められた。なんだと思ったら、大きめの麻の袋を渡された。


「それに入れておけ。今は固いようだが、日の光を浴びないと数日で、柔らかくなってしまうらしい。そのままだと、袋の中でボロボロに崩れる可能性がある。袋に入れておけば、多少崩れても大丈夫だろう」

「……ああ」


 言われた通りに、麻の袋に詰めてから、魔法袋に入れる。〈鑑定〉ができると聞いていたが、そこまでわかるのか、便利そうだ。


「毒とかもあるから、不用意に採取するなよ? 素手で触るな。ペット達が指示した物だけ採取するように」

「クロウ~これは? これは!?」

「人の話を聞け……どうした? 俺の顔に何かついてるかい?」

「……いや」



 クロウの事はよく分からない。俺は、ほぼ会話をしたこともない。一緒に居た時間もほとんどない。全員揃った状態で、俺はほとんど口を開いていない。何を言っていいかわからないから……。


 ただ、クレインもグラノスも一定の信頼を置いている気がする。クロウにだけ、注意するように言ってから、いなくなったしな。アルスのレベルを考えればそっちのが危険なんだが、何も言わなかった。


 信頼できる大人なのだろうか? それなら、言っておいた方がいいだろうか。


「……あんたは、どうするんだ?」

「うん? 質問の意味がわからないんだがなぁ?」

「……ティガとグラノス、意見が対峙したら、あんたはどうするんだ?」

「ああ……まあ、難しいねぇ。俺個人は、グラノスの意見に同意することは多いが……子どもを巻き込むべきではないという気持ちもわかるからな。大人として自重しろというのもわからんでもない……俺の方からも言っておく」

「……何を?」

「甘やかして、殺されたら目も当てられんとな…………俺らは奴隷にならずに、町を出ていたら……殺されていた」

「…………」


 こくりと頷きを返しておく。

 そうだろうなと思っている。キノコの森ダンジョンで、グラノスだから撃退できただけだ。俺やクレインは、あの時、人と戦うことになったらパニックになっていて、最悪殺されたと思う。躊躇せずに撃退していなければ……死ぬ。

 それも、ラズ達の派閥の側に襲われている。俺らの死は、そんなに遠い場所で起こっているわけじゃない。


 いままで、上手く行っていただけで、危険は常にある。

 アルスは全く自覚は無いみたいだが……ティガもそこら辺は甘く考えているようにも思う。


「知ってたのか?」

「……全部を話す気はない、グラノスに言われた。だが、異邦人を良く思うような世界じゃないと説明は聞いてる。マーレに帰る前…………あいつは、最悪は二手に分かれてでもと言ったが、自分が捕らわれるか死ぬことも想定していたと思う。そういう世界だと……嫌でもわかった。俺は一人でも生きれるようにと色々教わっている……アルスとレウス、いいのか?」

「どうするかねぇ……お前さんが一番幼いのに、わかってるなら……ティガとは話し合っておくよ」


 ダンジョンとかを冒険するのは俺も楽しい、好きだと思う。レウスと楽しく攻略するのは嫌じゃない。ただ、それでいいのかとも思う。その裏で、大変な思いをしているのはグラノスとクレインだからだ。


 そして……グラノスは、邪魔をしなければいいという考えで……自分から打ち解けようとはしない気がする。クレインもそれを咎めない。

 出来る事はする、やりたいことをする……結果は自己責任。そこの考えはグラノスが発端だけど、クレインも反対はしていない。



 何があったのか知らないが、俺に話す様になったのに、アルスとレウスには重要な話をしない。別に、俺らだけが知っていればいいという考えではないだろうから、誰かが知る事を阻んだからだろう。

 なら、それはティガな気がする。子どもが関わらなくていい、そういうところがある。


 もし、仲裁に入れるとしたら……クロウだけな気がする。拗れる前に……それが伝わったのか、「ありがとな」と頭を撫でて、ティガの方に向かっていった。



「ナーガ、サンキュ~」

「…………聞いてたのか」

「まあね~。いや、ナーガが知ってて、俺が知らないのも変じゃん? 俺のが年上なんだしさ! 抗議してくれて助かる」

「……別に…………あんたの保護者の方が過保護なんだろう」

「だからって、何も出来ないほど子どもじゃないじゃん。俺は成人してたしね!」


 まあ、向こうでの世界のことを言い出したら、キリがない。そもそも、俺は死んだときの記憶も、能力を選んだときもよく覚えていない。

 レウスは、「お宝探しがしたかった!」「竜ってかっこいじゃん!」と自分が能力を選んだことはしっかり覚えているらしい。大変な目にあっても、この世界を楽しんでいるのはわかる。



「何の話?」

「俺らを子ども扱いしてるって話。俺、グラノスさんにも坊やって言われたしさ」

「そっか。でも、事実、僕らは子どもだしね」


 アルスが近づいてきた。こいつは俺と同じく、ほぼ記憶がない。年齢は高校生だったという。レウスは一応大学生だったらしい。


「ぷぅ~」

「……ああ。偉いぞ、よくやった」


 土の中に埋まったキノコを見付けたキャロを褒めて、キノコを掘り出す。いくつか採取出来た後、キャロにも食べさせてやる。後で、ロットにあげよう。


「これ、食べれるかな? トリュフとか、こんな感じで埋まってるっていうじゃん? 美味しいかな?」

「量が取れればな……探せるか?」

「ぷぷぅ~」

「よし、じゃあ、掘る場所教えて!」


 キャロと一緒に地中を掘っているが……スコップが欲しいな。次までに、用意をして欲しいとグラノスに頼むか。


「ナーガ君! その、ちょっと揉めてるみたいなんだけど」

「……ほっておけ。俺らは採取しつつ、魔物が来たら撃退だ。シマオウが付いてるから、あっちは平気だ」

「いいのかな?」

「……お互いに何も知らない他人だ。意見を伝えることも必要だ……嫌い合ってるわけじゃない」


 あの二人は、仲はいいだろう。意見の対立があっても……多分。

 大人だし、何とかなるだろう。


「ほっときなって。なんだかんだで、一緒にいるんだから仲良いしさ。気にしすぎ。アルスも意見は言った方が良いよ。流されてると駄目って思ったんなら」

「う~ん……そうなんだけどね」

「……グラノスと話したいなら、今日の夜営はあいつと組めばいい」


 どうせ、俺とグラノスは戦力として、別れて夜営をすることになるだろう。

 クレインが大丈夫だったとはいえ、俺らが大丈夫とは限らない。


「あ、俺も話してみたい!」

「……俺が、あの二人とか?」

「いいじゃん、ナーガだってクロウと話したことないだろ」

「…………さっき話した」

「少ないって!」



 なんだかんだと、今日の夜営の組を決めてしまったが……そのまま、反対されずに夜営することになった。

 特に話すこともなかったので、矢じりをクラフトしながら時間を潰すことにした。


 俺が作業しているからか、二人も手伝うと申し出があった。

 わかったことは、ティガは俺よりの不器用なこと。クロウは、グラノスやクレインと同じで、最初から上手く作れる器用さがあることだった。


「なにか、コツとかあるのかな?」

「……何度も作ってれば、上手くなる。俺も最初のはこんなもんだ。……出来る奴と比べて仕方ない」


 俺が最初に作った、酷い出来の矢じりを見せると、ティガは苦笑して、作業を再開した。下手くそで、使えたものではない……今は使える程度には腕が上がった。


 静かだが、悪くない雰囲気だったと思う。


 その後、野営を交代のために起きると、いつの間にか、横でアルスが寝ていた。夜営がどうなったのかは聞かなかったが……何かあったらしい。





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