第18話 話し合い



 ラズとカイアとの食事の後に、フォルが胃薬を渡してくれた。自分が使っているもので、離宮内のものではないからということで有難くもらっておいた。

 


 そして、翌日にはマーレスタットに向けて出発をし、次の日の昼頃には帰り着いた。


 帰ってきた時には、クレインは作業をしていたが、ナーガは出掛けていた。

 夕方ごろに帰ってきたナーガは、頼まれたのは話し合いの場を作りたいということだった。


「話がしたい?」

「……そう伝えて欲しいそうだ、ティガが」

「わかった……俺とか? それとも全員か?」

「……全員」

「じゃあ、よかったら食事に来るように伝えてくれ」


 ナーガにしては珍しく、目が泳いだ。何かあるのかと思ったが、まあ、構わないだろう。ナーガが俺の返事を伝えに出かけたので、地下室で作業しているクレインに声をかける。

 クレインは「ちょっと待って」と言って、作業のきりが良くなるところまで続ける。その間は暇なので、ソファーに寝転がって、クレインの薬の作成表を確認する。


 上級下である調合薬については、成功率は7割か……。他の上級薬については、もっと成功率が下がるようだが……上級薬師と言われる基準は、すでに満たしている。


 お師匠さんの話では、知識が追いついていないとはいえ、自分で学べるようだから口を出す必要もなく、優秀過ぎてすることがないとも言っていた。


 多少、俺らが冒険に連れだしても問題はないらしい。スタンビードも近いから、レベル上げに行くのは賛成するそうだ。



「兄さん、終わったよ」


 クレインが作業を終えたらしく、ソファーに来たので起き上がろうとしたが、そのまま寝てていいと言われたが、クレインがソファーに座るので俺も起き上り、隣に座る。



「それで、どうしたの?」

「今日、いきなりですまないが、全員で食事会にしようと思う。君もいいか?」

「うん。アルス君のこと、決めないとだと思うよ。ここ数日、ティガさんが3人を連れて、素材採取に行ってくれてるから……放置も良くないし、仲間に入れようって提案とかだと思う」

「なるほど……問題は無さそうなのか?」


 アルスか。この町に連れてきて、話をしないまま、何もいわずに出かけたからな。ティガの方で保留にと言っていたはずだが、動いていたのか。

 いや、まあ……メンバーを見極めることはしておきたかったのか? ティガについては、表面上は穏やかに見せているが、疑り深そうな印象がある。


「いいんじゃない? 実際、ティガさんは放置できないと言う認識が強かったみたい。ちょっとだけ、レウスとティガさんとナーガ君の4人でダンジョン行ったんだけど、そこでナーガ君の実力を見たのもあるかな。だいぶ考えが変わったかもしれない。あと、アルス君も、だいぶ神父様の方でも話を聞いてくれたらしく、落ち着いたみたいだよ。直接は会ってないけど」


 クレインの判断なら、問題は無さそうだが。

 一応、戦いの相性なども確認した上で、パーティーに入れるか。


「パーティー入れる前に、組んで試しをしてみたいとこだが……」

「いってらっしゃい」

「君はいかないか?」

「うん。師匠が帰ってきたなら、アストリッドさんから催促きているし、共同作業をすると思う……前回、私抜きでやってたので、今回こそ!」


 なるほど。

 カイアの薬に錬金術も必要になるから、普通の薬師には作れない可能性があるとお師匠さんが伝えていたな。大家さんの協力で作っていたのか。

 クレインとしては、勉強になるからその機会は逃したくないらしい。


「君を一人にするのもな……」

「急に防備を固めてる方が、相手も警戒するんじゃない? 今は調合素材も潤沢で町から出る必要もないし、大丈夫。例のクラン、メインパーティ以外にクランに参加して名前を連ねていた人達も捕まったみたいだよ。冒険者ギルドで、聞いた話だけどね……あと、家の方も、何かあるみたいだね」

「……そうか。しばらく、君の身を狙う奴はいないってことでいいか?」

「兄さんの留守中に何かあることは無いと思うよ」


 まあ、そういうことなら6人で行ってくるか。

 俺としては、一人で気ままに過ごして、ストレス発散したいところだが。


「わかった。ただし、徹夜作業はしないようにな」

「ナーガ君から、22時以降は禁止だって。兄さんにチクるつもりだったみたい」

「そうか……じゃあ、今後はそのルールでいこう」


 しかし、お師匠さんと大家さんも職人だからな……。時間を忘れずに作業するようなことが無いようにとだけ言っておく必要がありそうだ。

 クレインも2か月間でかなり職人に近づいているよな。

 いや、そもそも過労死してるんだよな。深夜労働だけでなく、休憩時間を取るように言っておく必要があるか?



「私のことは気にしないで、兄さんもストレス溜まってるみたいだし、暴れてきたら?」

「わかるか?」

「疲れが顔に出てるよ」

「……アルスがパーティー外だと、ダンジョン入れないよな? どこかいい場所あるかい?」

「素材が欲しいのは、国境山脈の方……ロディオーラができればもっと欲しいかな。練習したいけど、素材がね……自分で取りに行くしかないから」

「わかった。行ってくる」


 素材は近場でとれる素材は在庫があるのか。まあ、俺も一度行っておきたかったからな。行く先は決定だな。


「ありがとう。…………ごめんね。貴族同士の争いって、精神面きついだろうし……任せてて申し訳ないとは思ってる。やれることはやるから、兄さんも我慢せずに言ってね。兄さんだけに私達の今後を背負わせることはしないから」

「いや、君は調合技術を磨いてくれ。それが俺らを保護する理由の根本にあるからな。あと……そうだな、詳しく話したいとこだが、この後の食事会の準備をする。また、別に時間をとろう」

「じゃあ、手伝う」



 料理を用意していると、ナーガが帰ってきて、その後にぞろぞろとティガ達が付いてきている。

クロウだけ、「疲れたから勘弁してくれ」と言うが、「諦めろ」と返しておく。


 だいたい、馬車の移動で疲れているのは俺も同じだ。帰りの馬車では、雰囲気がだいぶ緩和され、お師匠さんもクロウのことを『クロ坊』と呼び始めたので、良い関係になりつつあるとは思うんだが。



「まずは食事にしよう。その後、話し合いでいいか?」

「もちろん。急な話ですまないね」

「いや、こっちも慌ただしく出掛けていたからな……アルスもすまなかったな」

「え!? あ、ううん……僕も、何も考えずに言われた通りにしてればいいって思って、でも、ちがうってわかったから! ちゃんと考えるようにします!」

「そうかい。別に敬語を使う必要はない。今まで通りでいいぞ?」


 おどおどしているアルスは、こくりと頷いてナーガの隣に移動していった。その後、レウスも混じって笑い合って、食事を食べている。

 確かに。クレインの言う通り、だいぶ、仲良くなったらしい。



「食事はあんたが作ったのか? 女の子の手料理がいいんだがなぁ」

「そっちのシチューもどきはクレインが作ったぞ? 他にも、別に俺一人でこの量は作れない」

「……コクが足りなくないか?」

「本人もバターが足りてなくて、上手くいかなかったと嘆いていたから、言ってやるな。こちらの世界では、調味料が足りない。海産物もないから、昆布やかつお出汁が取れんからな。塩は急に増えていたんだが」

「あ、鉱山ダンジョンでたまたま岩塩が取れる階に行けたから、沢山取ってきた。で、ナーガ君がすり潰してくれたよ。ただ、ダンジョンに潜れば必ず取れるわけではないから、塩の安定供給とはいかないけど」


 クレインが若干ジト目でクロウを見ながら補足をしてきた。料理にケチを付けられたので怒っているらしい。

 実際、クレインはメシマズではないが、料理上手でもない。〈調合〉とか〈錬金〉に比べると、気が散漫していて、ミスも多く、なんか違うという出来になることもしばしばある。


 本人は、「自分一人だと食べれればいいという手抜きしか作ってなかったから……」と言い訳をしていた。まあ、全然出来ないわけでないので、しばらく作ってなかったのは事実なんだろう。

 レシピ本があれば作れる! と言っているが、この世界、本は貴重だし、作りたい料理があっても、この世界に材料がないとか、集められない可能性も多い。

 お師匠さんに教わった漬け込み料理については、きちんと出来ているので、味付けが少々独特なんだろう。まあ、塩しかないせいだと思うが……。


「塩があるだけでも、だいぶ助かるな」

「あとは麹菌の繁殖を試そうとしてる。麹さえ何とかなれば、味噌とかお酒も試せると思って……温度管理が難しいのもあって、まだ上手くいってないけど」

「おっ……それは良い案だが、温度管理ね。この土地は高温多湿ではないし、気候が難しいか?」

「いや、それは魔法で部屋の温度や湿度とかを弄ればいいから」


 それは普通ではない。まあ、言いたいことはわかる。冷やしたり、温めたりするのは、クレインは魔法で何とかしてる節があるからな。

 バレない様にやってくれれば構わないとはいえ……実験部屋があるわけじゃないしな。


「是非、日本酒を頼む」

「お米がね……主食小麦なんだよね。少しは市場で買えるけど、目立つから大量購入はしてない。兄さんも欲しい食材ある? 兄さんの料理美味しいから買っておくよ?」

「自由に食べれるなら、食べてみたかった物も多いが……自分で買ってくるのも楽しいんでな。気にしないでいい」

「あんたも過酷な生き方をしていたようだなぁ」

「どうだろうな。みんな、色々あるだろう……しかし、足りなそうだな。もう少し追加で作るか」

「おっ、なら、酒のつまみになるものを頼む。ついでに酒も」


 酒については、クレインが管理している。お師匠さんの酒とは別に、自分で作ったり、飲むようにも買ってあるようだ。俺の方でさらに買っておくのもありかもしれない。


「酒ねぇ……いいねぇ、少し出せるかい?」

「取ってくるけど、そんなに量はないからね」


 俺が台所に立ち、クレインは酒を取りに下の階へ向かった。そして、みんなで酒を飲むことになり……俺は話し合いをすることなく、俺は寝落ちした。

 記憶はほとんどない。だが、二人とも一杯飲む前に落ちていたと言っているので、醜態をさらす前に寝てしまったらしい。



 とりあえず、クレインが全員に俺の意見として、パーティーを組む前に腕試しをしたいらしいと伝えておいてくれたので、翌朝、そんなに遅くならずに集合出来た。


 ナーガとティガがシマオウに乗り、俺とクロウ、レウスとアルスに分かれて、兎のキャロとロットに乗って……向かうは国境山脈へ向かうことになった。


 国境山脈には、それなりに強い魔物もいるが、余程のことが無い限り大丈夫だとクレインからお墨付きをもらった。

 ただし、クロウは魔法系で厳しい可能性があるのと、アルスについては実力を知らないらしい。


 

「いってらっしゃい」

「……一人になったら、動く勢力があるかもしれないからな。気を抜くなよ」

「町から出る予定もないし、大丈夫だよ。流石に表立って、町中で襲う真似はしないでしょ……お土産の素材、楽しみにしてるから」


 ぎっしりと素材について記載されたメモを渡された。しかも、このメモにない素材の方が欲しいという。研究熱心なのはいいんだけどな……このメモの内容を把握するくらいなら、目についた物を全部採取してきた方が早いだろ。


 ナーガはまだ〈鑑定〉できない。クロウと俺がこの素材以外を探すことになるのか……面倒だな。


「モモ……前にクレインが採取しなかった物とか、わかるかい?」

「にゃ~!」


 元気よく返事が返ってきたので、モモに任せるか。

 一つ一つ調べるのも面倒だしな……モモに任せつつ、珍しそうな物を取って帰るか。



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