第17話 食事会、再び
伯爵家とのやり取りを終えて、与えられた部屋に戻る。
あちら側は王弟殿下とまだやり取りをするらしいが、こちらはさっさと部屋を出た。
「はぁ……」
「お疲れさん。お茶でもいれるかい?」
「ああ……頼む」
部屋に戻って、綺麗にまとめられていた髪の飾りをとって、服の襟を緩め、上着を脱ぐ。多少乱雑に扱っているが、丁寧に出来るような余裕がない。
クロウは気遣いなのか、お茶の用意をし始める。
「んふふっ……やればできるじゃないですか。感心しました」
ゆっくりと、こちらを煽るように拍手をするネビアにイラっとする。いや、もう、最初からイライラしている。こんなことにするつもりは無かった。
「これで、伯爵家も終わりですね。どんな気分ですか?」
「嫌になる!! 面子を気にせずに謝ればいいものを! 言い訳なんかすれば、こちらだって厳しくするしかないだろうが!! だいたい、なんでギルド長が口開くんだよ、可笑しいだろ! くそっ!!」
腹立たしくなって、俺が怒鳴るがネビアもクロウも気にしていない。いや、クロウは若干同情した瞳をしている。俺の癇癪に対しても、労わるためのお茶の用意だろう……そう信じたい。
「愉しいショーでしたよ。貴方を舐めていた伯爵家のあの悲壮漂う顔。あの時、貴方側について良かったと自分を褒めたたえましたよ」
「俺を褒めたたえてくれ……いや、まあいい。ネビア、こいつを渡しておく」
一通り怒鳴って、少しは落ち着いた。未熟ではあるが、やる事はやった。
俺は、胸元に入れていた3センチくらいの大きめのコインのような形をした魔石をネビアに投げる。
ネビアはそれをしっかりとキャッチして、手のひらに乗せて確認後、親指と人差し指でその裏表を確認している。
「おや。用意したんですか……しかも、宝石でなんて、さすがはメディシーア。お金がありますね」
「宝石じゃない。魔石だ……普段は冒険者なんでな、魔石はいくらでもある。そいつを加工してもらった」
「んふっ……それはそれは。しかし、この細工は見事ですねぇ……これを僕に?」
「今回の件、助かった。また、俺に売りたい情報があれば持って来てくれ。それは君のために用意したものだ。メディシーアの紋章が入っているから、家の使いだと証明できるはずだ。こっちのは、君の部下に渡す用だ。君でなくても、それを持っていれば君からだと判断するからそのつもりでな」
ネビアに渡したのよりも小さくしたコイン状の紋章が10個入った袋をぽいっと投げ渡す。
少数精鋭の可能性もあるんだが……情報の正確さ、カイアが褒めていたくらいなので、一人ということもないだろ。俺に知らせるときに本人ではなくても出来るようにした方が便利だろう。
「おや、いいんですか? こんなにたくさん」
「君の部下が何人いるかわからないからな。ただ、あれだけの情報だ。それなりに人数もいるだろ。家臣としての証明があっても悪い事にはならんだろ。たいして使えない可能性もあるがな……商人達にはそれなりに使えると思うが、貴族にはたいして効果ないし、毎月の給金はないけどな。あと、必要なものがあれば言ってくれ。用意できるかはわからないが」
「まあ、部下もまともにいない家でしょうからね。いいですよ、たまに情報を送ってあげます。それでは、また……お会いしましょう」
ネビアは一礼すると、窓を開けて、そこから飛び降りて、立ち去った。
ここ、2階だけどな……まあ、それくらいは平気な身体能力してそうだ。気にすることも無いだろう。
「ほら、お茶だ。お疲れさん」
「ああ、ありがとう」
「で、俺にはないのかい?」
「ん?」
お茶を受け取り、それを飲みながら、何のことだ? と視線を向ける。
「あのコイン。メディシーアの者だと証明するためなら、俺にもくれていいんじゃないか?」
「ああ……クレインに一晩で作ってもらったんだ、あれだけしかない。材料はあるから、そのうち作ってくれるように頼んでおく」
「一晩で……器用なもんだ」
魔石を好きな形に加工できるのには驚いたわけだが……付与を試すために試行錯誤していたら出来るようになったと言っていた。一晩というか、魔石を手にしてメディシーアの紋を見ながら数分で作っていたが……。
あの子らしいが、危ういのも相変わらずだ。
「厄介な世界だねぇ……人を殺す命令をする立場になんて、俺はなりたくない」
「……そうだな」
「だが、自分の立ち位置、振る舞いを理解してるだけ、妹のように『奴隷を持ちたくない』と我儘を言うよりはましなんだろうなぁ」
「我儘ね……簡単に受け入れられんだろう。奴隷を持つことも、死刑を宣告することも……そんなものとはほど遠い生活をしていたはずだ」
「俺らの世界でだって、国が変われば常識が変わる。世界が違う。貴族はそういうもんだ、割り切るしかないんだがなぁ……年下に甘えている俺がいう事でもないんだろうが」
そうだな。
そういう道を選んだの俺自身だからな。やるしかない。
居場所を確保するために突っ走り、腕を磨いているあの子のために、せめて、後ろから援護くらいは出来るようにと……。
「話を戻すが、コインの形状がいいのか? 武器やらカフスなどの装飾品に紋章を付けることもあるようだが、希望あるかい?」
「装飾品とかに付けるのもできるのか」
「多分できるだろ、クレインだからな。考えておいてくれ。……茶、旨かった。ありがとうな」
「ああ、お粗末さん」
茶を飲み干して、服を着替えてベッドに入る。時間はまだ夕方に差し迫るくらいだが、もう疲れたので寝てしまいたい。
そう思ったのに、ノックが響き、クロウが苦笑してドアへと向かった。
「失礼いたします。ラズ様より、夕食のお誘いが」
「……フォル。それ、断れるやつか?」
「他の方とお約束が?」
「いや……もう、疲れたから不貞寝したいんだが」
部屋に入ってきたのがフォルなので、諦めて起き上り、ベッドに腰掛けるが……続いて、カイアの従者も来た。
フォルは部屋に入ってきたが、カイアの従者については部屋の前で立っている。
「失礼します。カイア様より夕食のお誘いを……」
「……兄弟一緒でいいのか、確認してくれ。駄目なら、先に誘いのあったラズを優先する。それから、用意する食事は、スパイスは少なめ、無くてもいい」
「承知いたしました」
カイアの従者がやってきて、要件を聞き、回答をするとすぐに出ていった。
フォルならワンチャン断れるかとも思ったが、他からも来てしまったなら、もう諦めるしかないだろう。
「グラノス様。お食事に何か不満がありましたのなら」
「ない。ただ、あんなやり取りした後に普通に食えるような頑丈な胃はしてない。刺激物を避けないと吐く」
「くっくっ……あんたは顔に出さないからな。立派なお貴族様だったしな」
「クロウ……君な。俺を何だと思ってる……フォル。出来るなら、カイアの食事みたいな重くないもので頼むと伝えてくれ」
「はい、かしこまりました。それと、すぐに胃薬もお持ち致します」
「いや……メディシーアの者が、薬を提供してもらうわけにはいかない。まだ、伯爵家の者も離宮にいるんだろう? 大丈夫だ。それから、ラズにもカイアにも言うな」
最悪は、お師匠さんから預かっている薬を飲むことも出来るが……こうなる可能性はわかっていたのにな……きつい。
胃薬……クレインに頼むのも恰好悪いし、心配させてしまう。流石にお師匠さんの高価すぎる薬は使えない。
「はい。では、お時間になりましたらお迎えにあがりますので」
「ああ、頼んだ」
フォルが出ていき、クロウと二人きりになる。
クロウはもう一杯、お茶を煎れてくれたので、受け取って、ベッドの横におく。
「無理して倒れんようにな」
「この後の食事の内容次第だ……前に王弟殿下との食事お時は、スパイスの味しかしなかった」
「それはまた……高いのか?」
「ああ。あの町だと塩すら、沿岸部が遠いから高いぞ……来るかい?」
「遠慮しよう。俺は一人寂しく食事をしよう」
「嘘つけ、寂しくないだろ……滅多に飲めない高級酒でも飲んで、一人で楽しんでくれ」
「バレたか……しかし、ネビアが何本か持っていったようだ」
「あいつ、抜け目ないな」
棚を確認すると、ワインが数本無くなっていた。
クロウと軽口を叩きながら、仕方なく、もう一度貴族らしい服に着替え、いつ呼ばれても大丈夫な様に準備をする。
ラズに報告する必要もあるし、カイアともしばらく会えなくなる。二人との食事なら良かったと考えよう。
「おつかれ~大変だったみたいだね~」
「ふむ。ようやったと言ったところか? 頑張ったようだな」
食事のために席について、二人からのねぎらいの言葉。いや、大変だった、頑張ったさ。だけどな、もう少し親身になってくれても良いだろう。
席について、食事が運ばれてくる。食事はどうやらカイアと同じ食事にしてくれたらしい。フォルが給仕してくれている。
「ああ、色々心配かけたな。とりあえず、穏便ではないだろうが、片が付いた」
「父上と先代伯爵の方で、もう少し話を詰めるだろうがな。お主の出番は終わりだろう。多少は父上に泣きついて、奴隷の売却額などは減らされるだろうが、こちらで補填しよう」
「そうか。金については、まあ、欲しいんだがな。それより……処刑だが……」
「こちらで手配しておこう。今のメディシーアでは出来ぬだろう。全員殺してしまってよいか?」
俺が伝える前に、カイアが対処するという言葉を貰え、安堵する。引き渡しを命じたが、それが来ても殺すとなると……そんなことが出来るような設備もなく、対応が出来ない。
「あの異邦人の女だけ、判断は任せる。王弟殿下が使うなら、どうぞと伝えてくれ。能力とかも聞いていないが、何らかの暗示が出来る能力持ちだろう」
「そっか。ちゃんと調べないと殺しても生き返る可能性があるなら、一緒に処理出来ないんだ? 面倒だね~」
「むしろ、人の話が聞けないから、そっちのが面倒だぞ。というか、伯爵家も何考えてるんだ?」
「ああ、あれね~。グラノスがあそこまでやると思ってなかったのが大きいだろうね。それと家の事情を細かく調べられてるとは思ってなかったみたいだよ。それと、メイドの方が胸を触られたとか、あの場で言って、逆に追い詰めるつもりだったらしいよ~? まさか、襲われた相手を生け捕りしてるとも思わなかったみたいだし」
まあ、わざわざクロウに声かけた時点で、他にないからな。他にもいくつかの家が接触してきているのは注意が必要なのかもしれんが……。
クロウ自身が見えてるらしいから、トラブルにならないのは助かった。
ネビアがフォローしてくれたらしいが……あれは楽しんでいただけだろう。
「やり過ぎたことになるか?」
「まあ、そうだね~。でも、メディシーアの薬を領地通さないは流石にね。他の貴族からも恨まれるから諦めたんでしょ。他家もこの内容を知って、ちょっかいは出さないと思うけどね~」
「ラズ。それは甘い。グラノス、お主が爵位を継ぐまでは、他家には注意をしておけ。一番手っ取り早いのは、妹御を攫って手籠めにするだけだ。身柄さえ確保すればいい上に、そこが弱いということは今回の件で露呈したからな」
クレインの身柄か。
確かに、それが一番大きいんだよな。
「甘いか?」
「甘いな。貴族としては、出し抜くことを考えるだろう。ラズ、一応護衛を付けているんだったか?」
「一応ね~。ただ、クレインも実力上がってきたせいで、気付かれない様にするのが難しくなっているみたいだよ。一瞬の隙で拉致される可能性はあるかな」
ラズの方も、例のクランとの最初の騒動以後は、クレインには護衛を付けていたらしい。それは知らなかったな。
その分、クレインの行動が筒抜けらしいが……国境山脈の件も奴隷の件も治療の件も、あいつ色々やらかしてるからな。
ラズとしても、予想以上に治療能力が高いのがバレない様にと気を付けているらしい。薬と魔法で、後遺症が無いほど回復させると思わなかったとか……本人はクロウの力が大きいとか言ってたけどな。
あとで、クロウとクレインには、もう少し話を聞いておこう。
「護衛ついてるのは言わない方がいいのか?」
「もう言ってもいいよ~。あの奴隷達の目と耳を掻い潜って護衛できるとも思わないからね。ただ、家の防犯はもう少し何とかした方がいいんだけど、聞いてる?」
防犯?
一階の店舗と繋がるドアが修理されていたのは聞いたが……精神がおかしくなった薬師ギルド長がやったんだったか?
「薬師ギルド長がドアを壊した件か?」
「その前。店側から入りやすいせいもあるんだけど。留守中に、家に侵入されてるね~。こっちで捕らえたけど、目的としてはクレインがどの程度実力があるかを確認したかったみたいだね。クレインの薬作成の記録を確認してる。……書き写していたことは確認している。錬金の記録もね。まあ、捕まえられたから漏れてないとは思うけど……こっちで飼い主にちくちくやってるけど、グラノスがやる?」
「そのまま頼む。派閥は?」
「うちの派閥~。クレインと息子を見合いさせる前に、実力を知りたかったんだって~。解放はしないけど、すぐに殺せないから扱いに困ってる」
クレイン、作った物の記録取っているからな。それだけを書き写すのは、薬師の実力を確認するにはいい資料だろう。
しかし……同じ派閥?
「君の婚約者候補を同じ派閥の息子と見合いさせるっておかしくないか?」
「それは……」
「まだ、公になっていないというのが大きいのだろうな。だが、発表すれば撤回はできんぞ? 本当に良いのか?」
カイアの確認が何に対してなのか、わからんのだが。
とりあえず、俺とクレインの意思は一致していると思うんだが。
「良いも何も……本人、妾宣言をし始めてるが? ラズの方が、気が乗らないとしても、名前貸しも嫌なのか?」
「いや、名前を貸すのはいいんだけどさ。あっけらかんと妾でよろしくって条件だしてくるし、理解しているのかわからなくて」
「クレインの場合、わかっててやってるから大丈夫だろ。俺らの立場を安定させるには必要なことって意味では、君の地位目当てでかなり失礼かもしれんが……君と協力関係を結ぶのはあの子の意思だ。『俺が勝手に押し付けたことにし良い』といったが、『自分の考えだ』と言っていたぞ」
憤慨していたのはレウスとナーガだった。
レウスはぷんぷんして怒っていたが、クレインが宥めているくらいだしな。ナーガも言いたそうにはしていたが、俺が首を振ったので諦めたようだった。
「……でも、僕の事好きじゃないでしょ」
「むしろ、俺から見たら、説明もせずに、勝手に奴隷にした男に対しては、随分と好意的だと思うがな……。まあ、あんまり本人いないのに言う事じゃないんだろうが……あいつは、この世界に来る前に夫を亡くしてる。今更、恋愛をしたいと考えるより、生活基盤を整えたいと言う気持ちが強いんだろ」
まあ、死んだ人間だと伝えているし、前に家庭を持っていた年齢だとくらいは教えてもいいだろう。
むしろ、出会いを考えると好感度は高いだろう。俺らにも言えることだと思うけどな……。
「ラズが嫌なら、俺でもよいぞ? グラノスとの縁ができるしな」
「君が弟になるくらいなら、ラズがいい」
「なんだ、つれない奴だな」
カイアの提案には速攻で断っておく。
食えない義弟などいらない。そもそも、クレインの気持ちが一番大事でもある。
「…………僕、女性とどうこうなるのは無理なんだけど」
「知ってるが? クレインもなんだかんだと察していると思うけどな」
暗い表情でのラズのカミングアウトだが、何でも無いように振舞っておく。
クレインは〈直感〉で察してるだけなんだろうが……俺の方はレオのおっさんとか、他の冒険者から聞いてる。
何だかんだと、ラズの少年期のことを覚えている奴は多い。ぐれてた頃って、本人には黒歴史だろうが……。
「は? どういうこと?」
「冒険者は女が少ないから、見目が良いと声かけられるだろ。俺にもそれなりにお誘いはあったんでな。それで、君の噂も少し聞いた……あれ、野放ししない方がよくないか?」
「僕が冒険者時代に、女嫌いだったとか、残ってるの?」
女嫌いというか……まあ、色々と噂は残っていた。
俺が否定するのもおかしいので、聞き流しておいたが……。
「まあ、何だかんだと冒険者同士って情報共有しているからな。俺の調べた事情から察するに、元婚約者との件で女性を信用できないとかなんだろう? そこから派生して、色々尾ひれもついてるが。だからこそ、俺としては君に預ける方が、都合がいい」
「……大事にしないかもよ? 僕、女嫌いだし」
「まあ、別にいいんじゃないか? 俺としては、名貸しして、貴族からの盾になってくれれば構わない。他の家から見合い申し込まれる前に発表してくれ」
女嫌いと言っても、部下に女性がいても扱いは変わってない。クレインにも、色々と手を尽くしてくれているんだがな……。本人に自覚がないのか、
ちらりとカイアを見ると、楽しそうだ。弟が可愛いとかだろうか。
「では、俺の方で手配をして、正式に発表しておこう。……爵位が足りない部分については、養子の話が大きくなっていく。気を抜くなよ」
ラズが煮え切らない態度なので、カイアが受け持ってくれるらしい。まあ、助かるので任せておく。
「そうだな。養子については、お師匠さんがいる間は、他の人の養子にはならないと全部断れると思うんだが……話し合っておく。あと、俺の相手はどうなる?」
「ふむ。その気があるなら、父上に相談しておこう。希望はあるか?」
「動物アレルギーがないことだけは気を付けてくれ。あとは、俺が貴族ではない出生でも構わないこと。仮にラズとクレインに子が出来た場合に、養子にしてそちらに継がせることを了承できると助かるんだが」
「こちらで探しておこう。子が出来ぬでもよいのか?」
「それは構わない。色々すまんな」
カイアの方で手配してくれるので、任せておく。開墾する土地についてくるのかは、相手に任せる。ついて来ない場合、家を用意する必要が出てくるのか。
そっちの問題も、もう少し準備をしておかないとなんだよな。
「やる事が多すぎるな……」
「いや、むしろこれ以上はしないでおけ。言っただろう、レベルを上げろと。貴族達は、今回の件でお主を調べ始めるだろうからな。ダンジョンとかをまわって、油断させておけ。妹御も連れてな」
「本当に足の引っ張り合いばかりだな……。まあ、俺はしばらくダンジョン行って、好きにするか」
「いいなぁ……僕も行きたい」
ラズが羨ましそうに口をはさむので、止めておく。
「いや、だめだろ。むしろ、君は貴族としての立場を俺以上に固めてくれ」
「わかってるよ……そろそろ、本気で覚悟決めないといけないことくらい~。カイ兄上の力を借りて治めてるんじゃダメだしね」
自覚はあったらしい。
まあ、貴族として生まれた割には、詰めが甘い。だが、俺が今日格上の伯爵家をやり込めたのはラズとしても色々と感じることがあったという言葉が続いた。
「クレインとあいつらのレベルが安定したら、また旅に出ようと思ってるが、どこか行って欲しいとかあるか?」
「あ、それなんだけど……スタンビート始まる前に、君達を侯爵家との境に送ることになるから~。日程は決まったら知らせる」
「俺をか?」
「クレインを。で、クレインが心配だからグラノスもついていってよ」
「……理由は? 侯爵家って、国王派だよな?」
「今の当主はそうだね……ただ、色々複雑なこともある。クレインを派遣する表向きの理由は、雷魔法を使えるから。領地の境目に大河があるくらいは地理確認してるよね? 大河で魚型の魔物が異常発生が確認されているから、討伐が必要でね~」
「雷魔法ね……。クレインが使えるとはいえ、あの子でないといけない理由はないだろう」
領地を超えることがないにしても、敵対派閥の近くに行きたくないんだが。
大体、川に雷魔法を落とすって、その生態系に影響大きすぎるだろう。
「グラノスよ。お主の妹御が異常なだけで、上位魔法を覚える者は少ない。特に、魔導士は属性が偏ることが多い。火や水に比べ、風魔法使いはそう多くない。上位の雷魔法を使える者は全くいないとは言わんがな。現に、大河でのスタンピードは5年前だったが、ラズがかり出されている」
「そういうこと~。その時には冒険者引退してたけど、他にいなかったくらいにね。うちは魔法騎士団を作るわけにもいかないしね」
「……つまり、今回はクレインに任せるしかないと。で、裏の目的は?」
「言えない。君を信用していないとかではなくてね。僕の方で頼みがある旨伝えてるけど返事が無くてね。動くか動かないかが予測できないんだよね~。まあ、正直な話、向こうは僕を指名してるから、動かないのかもしれない。ただ、今回は僕も厳しいからね。上手くやって、こっちに寝返らせてくれると嬉しいな」
オセロゲームではないんだから、貴族の陣地取り合いなんぞ巻き込まれたくないんだが……。
お互いの領地の境目であるからこそ、協力する必要があるようだ。
「……どこまで話していい?」
「う~ん。クレインには話していいよ」
「クレインがいいならナーガには話すからな。他には言わないでおく」
「よろしく~」
また、胃が痛くなってきた。やるしかないのはわかってるが……本当に、これでは権力者の犬だな。まあ、どうしようもないんだが……自由を満喫できるような信頼がないからな……。
「こちらをどうぞ」
フォルが、緑色のスープを俺にだけ出してきた。
食事については、ラズとカイアと俺で全員別……まあ、カイアの食事に少し肉を足すような形と、油っぽくない料理ならラズと同じ物が出てきたりもしている。
そして……スープは、鑑定したところ、薬膳スープだった。俺の胃を心配したものらしい。
「すまんな、助かる……」
「ふむ……大丈夫か?」
カイアはこのスープがなんだかわかるらしい。心配されてしまった。だが、ダメであろうと、やらなくてはいけないことはいくらでもある。
「大丈夫だ」
「グラノス、顔に出てないからわからなかったけど、本当に胃痛めてるんだね……フォルから、胃に優しいもの食べたいって聞いて、驚いた」
フォルを見ると「申し訳ございません」と頭を下げたので、俺の胃の状態を伝えたらしい。
情けない姿を見せたくなかったんだがな。
「はぁ……君達のように出来なくてな」
「よくやってるよ~。でも、グラノスにそういうとこあってホッとしたよ。その分、僕も覚悟は決めたから。……クレインとの婚約もいいんだね?」
覚悟ねぇ……。俺の情けない姿で決まる覚悟ってなんだ?
カイアも苦笑しているので、なにかわかるらしい。
「そういや、設定として、昔から俺らを知ってたことになってるのか?」
「え? あ、いや……知らなかったでいいんじゃない? レオしか知らないくらいでいいと思う」
「了解。で、君は恩人の子に惚れて、すぐに自分の婚約者にしたってことだな」
「え? それは、いや……でも、うん……まあいいよ。フィンに似てるから、気になってってことにでもしといて」
ロリコンは避けたか。話はクレインにも伝えておくか……。
しかし……。セレスタイトも弟たちを気にかけているし、兄弟の仲は良いんだな。羨ましい限りだ。
「ちなみに聞くが、冒険者のC級になるには、功績はどれくらい必要だ?」
「グラノスとナーガはスタンビードでの活躍次第かな~。他のメンバーはそもそも足りてない。まだFでしょ?」
「やっぱりか……鉱石ダンジョンなら、ぎりぎりか」
「おお、行くなら土産を頼む。出来れば、トパーズ辺りの原石がよいな」
「了解。ラズもいるかい?」
「え~じゃあ、セレス兄上に送るための青い宝石が欲しいかな」
普通に宝石の原石を頼むあたり、この兄弟の金銭感覚おかしい気もするが……まあ、いいか。手に入りにくい物であれば、ダンジョンに籠っている理由にもなるだろう。
ダンジョンでお宝探しでもして、今回のイライラを発散したいところだな。
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