第25話 バイト仲間の世上さん
いつも通りバイトに向かおうと校門を出たところで人だかりができていた。
なんだ?と思っているとその中にいたのは世上さんだった。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079439752994
「世上さん?」と声をかけると集っていた男子どもが消えていく。
「あっ、祐樹くん...」と、振り返りながら小さく手を振っていたのは私服の世上さんだった。
「...どうしたの?」
「あっ、えっと...その...いや、た、たまたま...こっちに用事があって...その...」
「そっか、なるほど。じゃあ、俺バイトだから行くね」と、伝えると制服の裾を握られる。
「ん?どうしたの?」
「あっ、今のは嘘で...祐樹くんのことを待ってた...」と、顔を赤くしながらそんなことを言われた。
「...あっ、ありがとう...けど、俺このあとバイトだよ?」
「...知ってる。マスターから聞いてるから」
勝手にシフトをバラすマスターだった。
「...じゃあ、一緒に行く?」
「...うん」
そうして、自転車から降りて歩きながらバイト先に向かう。
「てか、私服ってことは今日学校早く終わった感じ?」
「今日は開校記念日だったんだよね」
「あっ、そうなんだ」
「...あれからそっちには来てない?」
「来てないけど...そういえば一個言わないといけないことあって。なんか帰ってる時に見かけたんだよね、あの東山とかいう人。けど、その時まぁたく同じ顔をした1人が2人いてさ...」
「...え?何?怖い話...?」
「いや、怪談ではなく。そん時後輩の...あっ、知ってるのか。鷺ノ宮も一緒見てたから、階段とかお化けとかそんなんではないと思うけど」
「...ぷぅ」と、ちょっと頬を膨らませる。
「何?」
「...いや、別に?」
「...鷺ノ宮とはそういう関係じゃないよ?まぁ、昔に一回好きだったこともあるけど」
「...それ聞いたら余計に...」
「いやでも、こっぴどく振られたし。ほら、世上さんも知っての通りあいつ超有名人じゃん?それに出会った時はすごい優しくて可愛かったんだけど、いつからか俺のことを馬鹿にするようになってきて...あぁ、思い出すだけでむかついてきた。悪いやつではないと思うけど、舐められるっていうか、本当にそういうのじゃないんだよ」
「じゃあ、告白されても断るんだよね?」
「まぁ...そうだね」
「変な間がありましたけど??」
「いや...その...流石に悩みはするよ。けど、悩んでも答えは変わらないかな。俺にとっての鷺ノ宮は憧れの存在だから。やっぱ付き合うっていうより、今の距離感が正しいっていうか...なんていうか...」
「...そうですか。...じゃあ、もし私が告白したらどうしますか?」
「...そ、それは...考える...かな」
「...そうですよね。分かってます。私には今その権利がないことくらい。本当はあの人との関係を終わらせてから会うつもりでしたから...」
なるほど。世上さんなりに色々考えて会いにきてくれたということ...だよな。
そのままバイト先に到着すると、マスターが俺たち2人を見てにっこりと笑う。
「いらっしゃい。2人とも」
「ども。すみません、ちょっと遅れちゃって」
「全然大丈夫だよ。あぁ、それより一つ相談があってね。アルバイトの小沢さんなんだけど、お母さんが倒れちゃったみたいでさ...。しばらく来れないみたいで、1人バイトを雇おうと思うんだけど、凪咲ちゃんさえよければバイトやってみない?」
「...え?私ですか?」
「うん。勿論一人前になったら1人でも入って欲しいけど、その間は...祐樹くんが入ってる日に合わせる感じでね?それなら不安もないだろう?」
「まじっすか、マスター」
「マジだよ。こんな辺鄙なところで働きたいなんて子、そうそう居ないしね。どうだい?」
「...是非、お願いします」
こうして、世上さんはバイト仲間になったのである。
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