第20話 お願い

 ...なんでこの人がうちに?


「...」


「あはは、もしかして忘れちゃった?僕だよ。東山ひがしやまだよ。忘れちゃった?」


 もちろん、私はこの人を知らない。

分かっているのは先輩の元カノ(仮)的な存在と手を繋いでいたイケメンということだけ。


 そもそも、私はあの元カノ(仮)についてもよく分かっていない。

分かっているのは先輩のバイト先で出会ったらしいことくらい。


 その彼氏?なのか分からないけど...何で私の家を知ってるの?

けど、家の中に入られた以上、下手に刺激しない方がいいってことだよね...。


「...とりあえず、部屋で待っててください」


「うん。分かったよ」


 一体何を考えてるのだろう。

そんなことを考えながら髪を乾かすのだった。



 ◇


 部屋に入ると、勝手に私の椅子に座っていた。


「あの...勝手に座らないでいただけますか?」


「あぁ、ごめんね」


「それで...何しに来たんですか?そもそもなんで私の家を知っている...いや、私のこと自体なんで知ってるんですか?」


「この情報社会、調べようと思えば何でも調べられるものだ。完全に隔離した社会なんてこの地球上には存在しないからね」


 それは私への脅しか?隠し事はばれるぞという...。


「あぁ、そんなに警戒しなくていいよ。僕は君の味方だからね」


「味方って...」


「それじゃあ、まず君は一体どこまで知っているのかな?世上凪咲のこと、鹿沢祐樹のこと...そして僕のこと」


「...あなたと...世上さんという人のことはほとんど知りません」


「そう。それじゃあ1つ1つ話してあげよう。これまでのことと、これからのこと」


 そうして彼は話し始めるのだった。



 ◇翌日


 いつも通り朝練に行くとそこには変わらず先輩と神田と岡崎が居たのだった。


「先輩、フェイクの目線が甘いんですよ。だから目は何となく左を見ているんですけど、そっちに仲間はいないのもそっちにパス出す気がないこともまるわかりなんですよ」


「...じゃあどうすればいいんだよ」


「だから、ちゃんとそっちを見て見つめ続けるのもダメです。一瞬、仲間の位置を確認するように目線を送ったのとと同時くらいにパス出すんですよ。わかります?」


「うーん。やってるつもりなんだけどな」


「って、鷺ノ宮来てんじゃん。ちょっと先輩にフェイクの入れ方教えてあげてくれよ」


「仕方ないですねーwまったくw」と、いつも通りにふるまっているつもりだった。


 しかし、何か違和感があったのか先輩はすぐに私に声をかけてくる。


「なんかあったのか?」


「え?何がですか?w」


「いや...いつもとなんか違うなって...」


「そうですか?w気のせいですよwほら、フェイクの練習やりますよ!」


「お...おう」


 なんで気づいちゃうかな。

私がちょっとだけ髪の毛を切っても、シャンプーを変えても気づかないくらいに鈍感なくせになんでこういうことばっか気づくかな...。

本当...そういうところが大好き。



 ◇


 いつも通り校門を通ろうとすると、小さな人だかりが出来ていた。

そこにいる人は顔を見ずとも分かっていた。


「待ってたよ、凪咲ちゃん」というと周りの彼に集っていた人たちが離れていく。


「けんたくん...。話なら昨日した通りだよ。こういうの...はっきり言って迷惑なんだけど」


「俺はけんたじゃないよ。東山ひがしやまそう。ちゃんと本名で読んでよ」


「私にとってはただのお客さんだから」


「じゃあ、なんで俺としかデートしなかったの?」


「それは信用してたからって昨日言ったよね。なのにこんなことされても嫌いになるだけってわからない?」


「わからないね。僕のどこが嫌いなの?」


「全部だよ。その薄っぺらい笑顔も、何を考えてるかわからない目も、学校まで来ちゃうそういう行動も全部含めて嫌い」


「無理してるのがまるわかりだよ?それに...今更僕との関係を断ったところで、今更鹿沢君と仲直りできるって本気で思ってる?彼には素敵な女の子がいるの知ってるでしょ?」


「...」


「もうやめなよ。彼だってきっと迷惑だと思ってるよ」


「だから、最近会ってないんじゃん。これ以上私に付きまとうなら警察に相談するよ」


「そうか。そうだね。そんなことしたらきっと僕は彼に凪咲ちゃんのことのありもしないことを吹聴しちゃうだろうね」


「...気持ち悪い...。そんなことして何になるの?」


「さぁね。僕は理性的な人間ではないし、合理的な人間でもないから。感情の赴くままに動くだけだから」


「...お願いだから消えてよ」


「そのお願いを聞いたら僕と付き合ってくれるの?」


 その瞬間、私は彼の頬を思いっきり叩いた。


 すると、彼は頬を抑えて私を見る。


「...わかった...。もういい」

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