第19話 異常
「鹿沢先輩はその...あれですね。センスがないです」
「...どストレートに言ってくれるね」
「事実なので。じゃあ、もう一度俺の動きをよく見ててください」
「...おう」
そうして、スムーズにドリブルをする神田。
脳内ではこう動いているつもりなんだがな。
「あっ、そうだ。録画しましょう、先輩の姿を。多分客観視できれば悪いところ分かりますよ」
「...なるほど」
確かに自分の姿を見ることはなかった。
そんなタイミングでチャイムが鳴る。
よく見るともう8時を回っていたのだった。
「...今日はここまでかな」
「はい。じゃあ、明日は録画しましょう」
「うん」
そうして、神田と岡崎が朝練にくるようになって、2週間ほどが経過した。
意外と真面目な奴らでサボることなく毎朝来ていた。
そのおかげもあり、ちょっとだけ上手くなっていっている気がしていたそんなある日のこと。
「ごめん、今日はバイトなんだよね」
「あー、そういや先輩放課後は残ってないことあると思ったらバイトしてたんですね。どこでしてるんですか?」
「まぁ、カラオケ屋だな」
「へぇー。先輩、接客できるですか?」
舐めてるとかではなく、こいつは思ったことが全て口に出てしまうタイプなのだろう。
「まぁ、それなりにはな」
「あっ、そうだ。先輩、前に体育館に来てたあの美人さんって先輩の彼女ですか?」
その言葉に真っ先に思い浮かぶ世上さんの姿。
「あぁ、いや、そういうのじゃないよ。ただのお友達」
「えー?じゃあ俺に紹介してくださいよー」
「それはちょっと...。あぁ、もう行くから!」と、はぐらかしながら急いで自転車に乗り込みバイトに向かっていた。
そうして、信号待ちをしていると「やぁ」と声をかけられる。
そこに立っていたのは...あの金髪イケメン男...いわく、レンタル彼氏の男であった。
「...」
「久しぶりだね。もしかして僕のこと覚えてないかな?...確かにあの時は自己紹介してなかったかな。
「...はぁ。俺に何の用ですか?」
「いや、一応言っておこうと思ってね。僕は彼女と付き合うことになってね。だから、彼女にとって君なんか眼中にないってこと」
「...はぁ。そうっすか」
「うん。だから、2度と彼女に近づかないでくれるかな?」
「...」
『ぱっぽーぱっぽー』と、信号が青になったので俺は返答することなく自転車を漕いだ。
この時、こいつがやばいと思った理由が二つある。
一つ目はおそらくこれは偶然ではなく俺を待ってやっていただろうこと。
しかも、校門の前ではなくこんな普通の信号の前で...。
つまり、俺がここを通ることを分かっていたはずだ。
二つ目は...こいつはきっと世上さんとは付き合っていないだろうこと。
もし付き合っているなら俺と会っていないことくらい分かっているはずだから。
仮に本当に付き合っていたとしても、その言葉とは裏腹に執念深いというか、相当に嫉妬深いということだ。
「...」
しかし、つまりそれは世上さんがいっていたことが本当かもしれないという裏返しでもあった。
けど、もう俺には関係ないか。
◇PM9:30
『先輩、私今お風呂入ってます』
朝練同盟を組んだおかげでちゃっかり連絡先を交換した私は、こうして先輩に放課後もちょっかいをかけていたのだった。
『風呂場で携帯をいじるな』と、返してきたので『うっさい。童貞』と返信する。
「ふふっ」と、思わず笑みが溢れてしまう。
最近、先輩が元気そうで私的にはすごく嬉しいというか...うん。やっぱ、大好き。
ずっと、そばに居たい。
それはあの約束のこともあるけど、それ以上に私は私に素直なのだ。
いつか...先輩と一緒にお風呂に入ったり...とかそんなことを考えて悶えてしまう私はしっかり女子高生をしているのだろう。
さて、明日はどんなふうにいじってやろうかと、そんなことを考えていると、「ちょっと、瀬奈。お友達来てるよ?」とお母さんに声をかけられる。
お友達?こんな時間に?
それに具体的に名前を出さないということはお母さんの知らない人?
あまり思い当たる節がないまま、とりあえず急いでお風呂を上がり髪の毛を乾かすこともなくリビングに行くとそこにはあの男の子が座っていた。
「やぁ、こんにちは」
それはあのイケメン金髪男であった。
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