第17話 1on1

 ◇AM6:45


「先輩、そういえばどんなバイトしてるんですか?」


「いわねーよ」


「え、なんですか?もしかしていかがわしいお店ですか?」


「ちげーよ。超クリーンだから」


「じゃあ、教えてくれてもいいじゃないですか?w」


「お前に教えるメリットが1個もない」


「メリット...ですか。なるほど。じゃあ、メリットがあれば教えてくれるということですね!w」


「...相当なメリットないと教えてやらんぞ」


「メリット...うーん...先輩にとってのメリット...顔面を踏んであげるとか?」


「俺はいつからそんなドM設定になったんだ」


「じゃあ...うーん...私の持ってる秘蔵AV貸します!」


「いらねーよ」(てか、なんでこいつAV持ってんだよ)


「あっ、ちなみにAVってアニマルビデオですからね」


「わかってるから」(あぶねー!引っかからんくてよかった!)


「んじゃ、私と1on1で勝負しませんか?」


「...俺が勝てるわけないだろ」


「もちろん、ハンデありです。そうですね...ハンデ...ドリブルは右手だけというハンデでどうですか?」


 右手だけ...。なるほど。

クロスや切り返しのドリブルはできないってことか。

となると、逆を突くことは難しいし進行方向も分かりやすい。

いくら早かろうと片手で抜くのはなかなかに困難。


 しかし...怪しいな。

いくら鷺ノ宮でも片手では厳しいことくらいわかっているはず。

そんな一か八かのギャンブルをするタイプじゃ...いや待て待て待て!違う!根本を間違えていた。


「おい、鷺ノ宮」


「何ですか?」


「鷺ノ宮が負けた場合、何か罰とかあるのか?」


「...っち、気づかれたか」


 こ、こいつ...!あぶねぇ!なんとなく勝負することは決定して後はルールだけになっていたがリスク0なら誰だって勝負するに決まっている。


「...んじゃ、罰ゲームありでいいですよ。何にします?」


「...うーん」


 普段から俺を小ばかにしている鷺ノ宮にとって屈辱の罰ゲーム...。

何がいいだろうか?うーん...。

いいこと...思いついた。


「んじゃ、俺が勝ったら俺の好きなところを10個挙げる。もし、拒否した場合1週間俺と話すときは常に語尾に『にゃん』をつけて会話する」


「...うわぁ...先輩マジっすか...引くわぁ...」と、ドン引きする鷺ノ宮。


 ふん!バカめ!その反応を待っていた!

ドン引きするってことはそれはつまり『いやだ』ということだ。

俺を罵倒してこの罰を変えさせようとしているんだろうが、そうはいかないぜ。


「なんだ?自信ないのか?別に勝ちさえすればいいんだから罰ゲームの内容なんて関係ないはずだろ?」


「...まぁ、そうですね。いいですよ」


 こうして、プライドをかけた戦いが今...始まる。


 お互いが所定の位置につき、改めてルールを確認する。


「んじゃ、9ポイント先取ってことで。2ポイントは1点、3ポイントは2点、んで、私は左手でのドリブル禁止」


「もし、左手でドリブルしたらどうする?」


「まぁ、その場合は先輩に1ポイント追加プラス攻守交替でどうですか?せっかくの勝負ですし、それで終了なんて味気ないですし」


「OK」


 そうして、じゃんけんの結果鷺ノ宮からの先行でゲームスタート。


 思えば、こうして真剣勝負というかそういうのをするのは初めてだな。


 ドリブルしながら一呼吸置く鷺ノ宮。

おいおいおい...マジモードじゃねーか...。


 その時の目はいつものコート上の鷺宮の目...。

まるで冷たい空気が充満していくような感覚...。


 すると、姿勢をやや低くすると片手でフロントチェンジ...右に左ボールを細かくドリブルをし、右手で股を通し右手でキャッチする...。


 見誤っていたかもしれない...。

まるで両手を使っているように錯覚させるほどのドリブル技術...。半端ねーなおい。


 そして、やや重心が右に動いた瞬間、俺の股を通してそのまま駆け抜けて片手でレイアップを決める...。


「...バケモンかよ...マジで」


 しかし、ゴールを決めても一切笑うことなく、スタート位置に戻る。

結果は...惨敗だった。


 9対2。

俺が決められたのはまぐれの3P一本のみだった。


 そうして、勝敗がつくといつものような悪戯な笑顔に戻り、「はい、私の勝ち」とどや顔するのだった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078838855756


「はぁ...はぁ...はぁ...」


「息絶え絶えなところ申し訳ないですけど、教えてもらっていいですか?」


「...カラオケ...だよ」


「カラオケ?駅前のやつですか?」


「おいおい...どんなバイトをしてるかっていう質問だろ...?...場所まではいうとは言ってないぜ...」


「...こっすい男ですね。先輩」


「...うるせ」

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