第14話 そうして...私はカラオケ屋に行くのだった

 ◇10月11日


 あれから1週間ほど経過した。

それ以降、世上さんは俺のバイト先に来ることも、学校の前で待ち伏せすることもなかった。


「先輩って、なんでそんなにバスケ下手なんですかね」


「ガコン!!」と、汚いながらも3Pが見事に決まる。


「...見たか?」と、少しどや顔しながら鷺ノ宮に言う。


「再現性のないシュートに価値ないっすよw」


「...たまには褒めてくれてもいいだろ」


「褒めたら絶対調子に乗るじゃないですか。てか、今のシュートのどこを褒めればいいか分からないんですけど?wいいですか?私のシュートを見ていてください」


「...相変わらず冷たいな。鷺ノ宮は...。あっ、そういえば母さんが言ってたんだけど鷺ノ宮さ、小学生のミニバス時代の監督、俺の父さんだって知ってたか?」


「...」


 いつもより、やや右に寄れるシュート。

そして、ゴールに触れることもなく、ボールが床に落ちる。

珍しくエアボールしたのだった。

鷺ノ宮でもこういうことあるんだな。


「...おいおい、今のが手本か?」と、煽ったものの「ほかには何も聞いてないですか?」と聞かれる。


「...他って、なんかあんのか?」


「あっ...いえ。何でもないです」と、2本目はきれいにシュートを入れるのだった。



 ◇


 レンタル彼女なんてやらなきゃ良かった。


 今更、そんなことを言ったって意味がないことはわかっていた。


 両親に大事に大事に育てられてきた私は親の前ではいい子を装っていた。

それはもう男性との接点などほとんどないようにさせるほどに...大事にされてきた。


 恐らくへんな男とにつかまってほしくないという気持ちからなのだろうが、私だって普通の女の子。青春の一つでもしたいものだ。


 けど、そもそも女子高で周りの女子ばかりの私に男子と知り合いなんていなかった。


「ね、私最近面白バイト見つけたんだよね!」と、クラスメイトの友達が切り出す。


「面白いバイト?どんなの?」


「レンタル彼女って知ってる?」


 そういうものに疎い私は初めて聞くお仕事の名前だった。


「レンタル彼女?」


「そう!彼女のフリをしてあげてお金をもらう的な?」


「...やましいことはなし?」


「なしなし!カラオケとか、ホテルとか、家とか!そういう密室は一切なしだし、キスもしなくて大丈夫!健全な彼女を演じてお金をもらえるの!最高じゃない?しかも、意外とイケメンも多いんだよねー。あっ、凪咲もやってみる!?」


「え?うーん...なんか難しいそうだな...」


「そんなことないって!デートするだけでお金もらえちゃうんだから!楽しいよ!」


 そうして、軽い気持ち、変なお客さんに当たったら一回でやめようとそう思って始めたのだが、その初めての相手があの金髪イケメンだった。


「あっ...初めまして。ゆきです。けんたさん?」


「あっ、ゆきちゃん?写真よりずっとかわいいね!」と、そのまま彼は私の手をつなぐ。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078812879203


 正直タイプではなかったが、別に悪い人ではないし、初めてのデートそのものは普通に楽しくさらにお金も入るということもあり、私は次もやることにした。


 しかし...次のお客さんは最悪だった。

まさに不潔...としか言いようがない見た目...。

しかも、隙あらば胸をチラチラ見て、だめだというのにホテルに連れて行こうとしたり...最悪以外の何物でもなかった。


 やっぱりこういうのはやめようと思っていたのだが、あの金髪イケメンのけんたさんからリクエストのが来るのだった。


 それからはバイト自体はやっているものの、けんたさん以外のはOKせず、5回ほどデートを重ねるのだった。


「今日もありがとうね!」


「いえいえ!こちらこそありがとうございます!」


「あの...さ、今度プライベートで一回遊ばない?」


「...ごめんなさい。そういうのは規約でできないので」


「そ、そうだよね!ごめんね!またよろしく!」


 別に規約なんて守らなくてもばれないとは思うが、なんだがプライベートで会うのは少しだけ怖くて拒否したのだった。


 あぁ、普通に彼氏が欲しいな...と思っていたその時だった。


「ね!凪咲!来月の月末クラスのみんなでカラオケ大会するんだけどさ!凪咲もくるよね!!」


「え?」


 歌は大の苦手だった。

あまりの音痴ぶりにクラスメイト達から笑われたこともあり、カラオケとかは断ってきたのだが...。

クラスメイトのほとんどが来るということもあり、仕方なく了承するのだった。


 しかし、日が経つにつれあのトラウマが蘇ってしまった私はカラオケが練習できる場所を探すのだった。


 そして...私は彼と出会ったのだ。

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