第13話 今日も朝練に行く
「あの子、お父さんが教えてた最期の代の子でね~、よく話してたの。『あの子は将来スーパースターになる逸材だー』って。実際すっごい活躍してるもんねぇ。父さんも天国で喜んでるわね。きっと」
そんな話は初めて聞いた。
あいつは...知っているのだろうか?
いや、小学生の時の監督の名前なんて...。
覚えていたとしてだからなんだという話だし。
「...そうだね」
「そんで?どこまで進んでるのよ?」
「...付き合ってもないし、俺はあいつが嫌いだから。あいつもきっと...そうだし」
「二人で泣いっちゃってたのに?」
「あ、あれはそういうのじゃないから!//」
「顔赤くしてーw」
そのあともしつこく聞いてくる母さんをいなしながらその日は眠るのだった。
◇翌日 AM6:15
いつものように学校に向かっていた。
自転車を漕ぎながらもあの瞬間のことがずっと脳裏にこびりつく。
1日や2日で吹っ切れられるほど都合の良い頭ではなかったが、それでも前を向くしかない。向くしかないんだ。
そうして、考え事をしながら自転車を漕いでいると、校門前に見知らぬ女の子が立っていた。
他校の女子?こんな朝早くから何を...と思っていると、すぐにそれが世上さんであることに気づく。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078810388155
「キキィィーー!!」と急ブレーキを踏んで何とか踏みとどまり、そのまま来た道から戻ろうと思ったものの、リアキャリアというママチャリについている荷物を載せる場所を掴まれてしまう。
「待って!!話を聞いて!!」
「話すこととかないから!」と、それでも無理やり踏み込むと、世上さんが前のめりに倒れこみ、膝を強くぶつけてしまう。
「...っ!」
恐らく膝が擦りむけてしまっていることはなんとなく予想が出来た。
流石の俺も足を止めると、血だらけの膝のままそれでも彼女は構わず「待って!」と、自転車にしがみつきながら言った。
その必死さに根負けし、仕方なく足を止める。
「...何を待てばいいの?」
「...私の話を聞いてほしいの...」
「...別に...俺なんかに言い訳なんかしなくても...」
「違うの!私は...私は...」
擦りむいた両膝から血がにじんでいた。
「...と、とりあえず...その膝...。えっと...中入ろう」と、ひとまず体育館に向かった。
無言のまま彼女と体育館に行き、バスケットのゴール下に座る。
俺は持っていた除菌ウェットティッシュで膝の傷口を優しくたたく。
「いた...」
「ご、ごめん...」
「ううん...。ありがとう...。優しいね」
「...別に。俺のせいでケガしたわけだし...」と、持っていた絆創膏を貼って応急処置を終える。
「...あのね...あの人は彼氏じゃなくて...その...お客さんなの」
「...お客さん?」
「私...その...レンタル彼女をやってて...」
「レンタル彼女?」
「うん...。アルバイトで。だからあれは彼氏じゃなくてお客さんなの...あの人は特に常連さんで何回もデートしてて...」
なんとも斬新な言い訳だなと鼻で笑う。
仮にその話が本当だとしたら、何回もデートするってことは向こうは世上さんを気に入っているということ。
それにあの発言からも好意があることは間違いない。
それに世上さんも嫌なら断ればいい。
そうしていないのは、つまりは少なからず世上さんもいい印象を持っているのではないか?
なら、いいじゃないか。
嘘から始まる恋でも。俺は応援するだけだ。
「そうなんだ。かっこいい人だよね。世上さんとお似合いだと思う」
「...お似合い...って?」
「だから、世上さんの隣が似合ってるってこと。俺は...不釣り合いだから」
「そ、そんなことないよ!祐樹くんはとっても優しくて!すっごくいい人だと思うよ!」
「優しさとか目に見えないし。ってか、嘘でもかっこいいとか言ってくれないんだ」と、鼻で笑う。
「祐樹くんはかっこいいよ...。それはその...恥ずかしくて...言えないだけで...。なんでそんな意地悪なことを言うの...?」と、だんだん涙が溜まっていく。
これじゃあまるで...鷺ノ宮だな。
自分でもわからない。多分否定されたかった。嫌われたかった。もう好かれているなんて思いたくなかった...。期待をしたくなかった。
またあんな思いをするのは嫌だから。
「これが本当の俺だよ。意地悪で、愛想が悪くて、頭もよくなくて、ひねくれていて...。知らなかった?じゃあ、最初からこうしてればよかったのかな」と、引き攣った笑みでそう言った。
「...ごめんね」
そういうと世上さんは体育館を後にするのだった。
これでいい。これでいいんだ。
すると入れ替わるように鷺ノ宮が入ってくる。
「...先輩。今...「なんも言うな。全部...終わったから」
そうして今日も俺はシュートを外し続けるのだった。
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