第12話 来訪
「...」
朝練をサボってしまった。
熱なんか出ていないのに母に嘘をついて、学校も休む予定だ。
あの後のことはよく覚えていない。
気づくとベットの上でシクシクと泣いていた。
あぁ、なんか全部どうでもいいな。
部活を頑張ってきたことも、恋なんてものにバカみたいに浮ついたことも、将来も未来も...。
全部全部...鷺ノ宮のいう通りだった。
よくよく考えれば当たり前のことだ。
俺みたいな凡以下の人間が、あんな美少女に隣にいること自体おかしな話だった。
誰より俺のことを嗤っていたのは、俺だった。
家に着くころにはたくさん世上さんから連絡が来ていたが、見ることもなくトーク履歴はすべて削除し、ブロックしたのでもう連絡が来ることはない。
元に戻っただけだ。今まで通り。
そうして、横になっているとインターホンが鳴る。
「...はーい」と、母さんが出る。
こんな朝早くに誰だ?近所の人とかかな。
何やらうっすらと母さんの話声が聞こえる。
そうして、足音がだんだんこちらに近づいてきて扉が開く。
そこに立っていたのは...鷺ノ宮だった。
「...こんな朝早くにどうしたんだ?」と、背を向けて布団に被さる俺。
「...いえ。別に...。たまたま近くを寄っただけですけど」
時刻は7:05。いつもならとっくに学校にいるはずの時間だ。
「...たまたまなわけ「たまたまです」と、俺の言葉を遮ってそういった。
「...風邪ひいたから今日は学校も休むから」
「そうですか。じゃあ私も休みます」
「...何でだよ。ちゃんと行けよ」
「...別に私が学校に行こうが先輩には関係ないじゃないですか」
「それで俺の家に居座るっていうなら関係はあるだろ」
「...なんで休むんですか?何かあったんですか?」
「...別に何も。風邪ひいたって言ったろ」
「...彼女さんと...別れたとか」
そんな言葉に胸が痛くなる。
なんとも情けないウソをついた自分が...本当に笑える。
「...あぁ...あれな...wあれ...嘘だから...w俺にあんな可愛い彼女が出来るわけないだろ?お願いして...写真撮ってもらっただけだから...w」と乾いた声で笑う。
「...」と、押し黙る。
「ありえないだろ...。俺みたいなやつにあんな可愛い女の子が彼女なんて...。釣り合わないってレベルじゃないし...w本当...笑えるよな」
「...そうですね。最高に...笑えます」
「だよな...!...本当...馬鹿な話だったよ...本当...」
「先輩にあんな可愛い彼女...できるわけないじゃないですか...w」
「...うん。知ってる...w」
「...」と、急に押し黙る鷺ノ宮。
ゆっくりと振り返ると、大粒の涙を貯めこんでいる鷺ノ宮がそこにいた。
「...なんで...泣いてるんだよ」
「な、泣いてません...っ!」
「...ただの笑い話だろ。こんなの...」と、そんな自分の発した言葉で胸が痛む。
そうだ。こんなのは笑い話だ。くだらなくて、最高に笑える...。笑えるはず...笑われるはずなのに...。
「先輩...私は...」と何かを言いかけた瞬間、扉が勢いよく開く。
「かぁさん行くからね...って...ちょっと!なんで泣いてるの?こいつに泣かされたの!?」と、すぐに鷺ノ宮に駆け寄る母さん。
「いや!ち、っちがくて...!」
「ごめんねぇ、こいつ不器用だからさ。本当...ごめんね?嫌いにならないであげてね?」
「...は、はい...」
そうして、母さんが出ていくタイミングで鷺ノ宮も居なくなるのだった。
「何かあったらいつでも連絡ください。私でよければなんでも話聞きますから」
そういって、二人とも家を後にするのだった。
◇PM1:30
あの後はすぐに寝てしまって、それからは寝て起きてを繰り返していたらいつの間にかこんな時間になっていた。
こんなにダラダラするのなんていつぶりだろう。
そう思いながら時計を見て、バイト先に連絡しないと思い、店長に連絡を入れる。
『すみません。風邪ひいたのでお休みしたいです。穴埋めはちゃんとします』13:35
『わかったよ。ゆっくりやすんでね』13:45
『あと、世上さんが来ても住所とか教えたりはしないでください』13:55
『なんで?けんかしたの?』13:59
『まぁ...はい。なので、お願いします』14:00
『( ;∀;)』14:06
これで大丈夫だろう。
まぁ、もう俺なんかに興味があるとも思えないが念には念を入れて。
もう二度とあんな思いはしたくないし、あの子とも会いたくないから。
◇PM7:15
いつもより少しだけ早く帰ってきた母さん。
「体調はどう?」
「...うん。大丈夫。明日からはいける」
「そっか。ってか、びっくりしたー。瀬奈ちゃん、あんなに大きくなったなんて!」
「...瀬奈ちゃん?」
「え?あれ、瀬奈ちゃんでしょ?ニュース見ててあんたと同じ学校だとは思ってたけど、まさか付き合ってるとはねー。母さんびっくりだよ」
「大きくなったって...何?」
「え?あんた知らなかったっけ?あの子、お父さんが監督してたミニバスのメンバーだったでしょ」
「...え?」
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