第11話 分かっていたこと

「この前のデート楽しかったよ。また今度お願いね」


「...え?」


 ◇10月2日 土曜日 PM13:30


「こんにちは!今日は予定よりちょっと早く着けたよ!」


「ぴったりくらいでもいいのに」


「いやいや!お待たせしちゃうのは悪いし!」


 いい子だなーと心から感動する。

優しくて、俺なんかのために尽くしてくれて、笑顔が可愛くて...もしこんな子が俺の彼女になってくれたらならなんて考えてしまう。


「今日は水族館に行こっか!」と、前と同じように手を握ると腕に抱きついてくる世上さん。


 む、む、むねが!!肘に!!!!


「あははは、当たっちゃってるね」と、楽しそうに笑みを浮かべる。


 わざとかよ!!...たまらん...!!


 そうして、デレデレしながら地下鉄に乗り込み、揺られながら最近できた室内型水族館に向かっていた。


「ビルの中に水族館ってなんかすごいよね」


「うん!新鮮だよねー」


 そんなゆるーい会話をしながら水族館に到着する。


 室内型ということもあり、大型の生き物はいないものの、綺麗で落ち着いた空間でまったりとカフェでお茶する気分でお魚を眺めていられる。


 遠出の必要もなく水族館を楽しめるなんて。それに今日は世上さんと2人きりで...。

楽しくないわけがなかった。


「あっ、ペンギンさんだー。かわいー」


 そんな世上さんのほうが可愛いよなんて、軽い言葉をかけられたらどれほど良いものか。


「ペンギン可愛いね」


「ね?私とペンギンさんどっちが可愛いかな?」


「え!?...そ、それは...せ...」


「せ?」


「...ペンギン//」と、逃げてしまう俺だった。


 そんな甘々なデート。

前回はあくまで彼女という体だったから、心のどこかではあくまで演技だからとどこか冷静というか、冷めてしまっている自分がいた。


 今はずっと距離が近くて、世上さんも楽しそうに笑っていて、ただ楽しかった。


「この後、どうしよっか!祐樹くんは何がしたいー?」


「えっと...本屋とかいきたいかな?」


「本好きなんだ!どういうの読むのー?」


「割と人気なものを中心に読むかな」


「おぉ、ミンハーだ!ミンハー!」


「そうだね笑世上さんは本を読んだりする?」


「うーん。あんまり読まないかなー」


「そうなんだ」


 そんな話をしながら、一つの本を2人で取ってしまう。


「「あっ」」


 そして、2人で目があってしまい笑い合う。

そんな漫画のような青春ひととき...。

嫌なことばかりの人生だったが、ようやくその揺り戻しが来たのかなと思っていた。


 それから服を見たり、雑貨屋で少し変わったものを見たり、デートを楽しんだ。


 ...正直、こんな時が永遠に続けばいい。

笑い合って、楽しんで、お互いに支えあって...そんな素敵な関係。


 やっぱり、告白は男からするべきかな?

でも、まだ知らないところも多いし...うーん...1回目のデートで告白はそもそも早いか...。


「そろそろ帰る?」と、聞かれてしまった。


 色々と考え事をしていると、いつの間にか地下鉄まで来てしまっていた。


「...まだ、もう少し...」


 まだもう少し一緒にいたいなんて言葉が溢れそうになった瞬間のことだった。


「あれ?珍しいね。こんなところで会うなんて」


 振り返るとそこに立っていたのは金髪のイケメンだった。


「...友達?」と、聞こうとしたところで「この前のデート、楽しかったよ。来週もよろしくね」とそう言った。


 デート?来週も?なんだそれ。


「...あっ...えっと...」と、明らかに動揺する世上さん。


 ...はっ?どういうこと?


「...世上さん?」


「騙してたとかじゃなくてね...その...」


「あっ、もしかしてそういうこと?あー、そっかそっか。ふーん。居たんだ。でも彼の反応はおかしいな。あー、そっかそっか。言ってなかったんだ。ふーん。なら、こう言ったほうがいいのかな?その子は僕の彼女だよ?」


「...」


 あぁ、いい夢を見られた。

言われなくても分かっていた。

そんなことだろうと分かっていた。


 それでも胸がギュッとなるのはきっと心のどこかで信じていたから。

ありもしない御伽噺おとぎばなしを。


 ◇月曜日


 いつものように体育館に行くと、先輩の姿はなかった。

もしかして、風邪でも移してしまったかな?

それならお見舞いでも行こうかな。


「あっれぇ〜?女バスのエース様がこんなところで何してんですかぁ〜?w」


「...関係あります?ベンチの先輩に」


「そんなこと言っていいのぉ?面白いもの見たから教えてあげようと思ったのにw」


「ギャグセンが低い先輩の面白いものに興味ないです」


「鹿沢がなんで来てないのか。教えてあげよっかw」


「...何かしたんですか?」


「勘違いすんなってw私がわざわざあんな奴相手するわけないじゃんw週末に駅で遊んでたらさ、すげーイケメンとすげー美少女とすげー情けない男がいてさwその情けない男がなんか駅でわんわん泣いててさ、ウケんのw女はなんか必死に説明してて、イケメンはそれを見てなんか冷めた目で見ててさwまぁ、その情けない男っていうのが、鹿沢だったんだけどねw」


 それ以上聞かなくても何があったか分かった。


 そうして、私は初めて朝練をすっぽかして先輩の家に向かうのだった。

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