第10話 お見舞いGo

 ◇同日 PM3:50


 高熱に魘されていると、部屋をノックされる。


「凪咲。お見舞いに来てくれたわよ。もうだいぶ熱下がったでしょ?」


 お見舞い?もしかして玲奈れいなとか?あとは結衣ゆいとか?でも、連絡なんか来てなかったし...。


 しかし、寝起きということもあり、あまり頭が働いておらず「うん。大丈夫」と返事をすると入ってきたのはまさかの鹿沢先輩であった。


「...え?」


「...よう」


「...なんで先輩がここに...」


「別にいいだろ...。たまたま...近く通ったから」


「...たまたまって...。家の方向と逆じゃないですか?てか、なんで私の家を知ってるんですかwストーカーですか?w」と、咳き込みながらどうにかいつものように先輩をバカにする。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078585803353


「...前に話してたろ。ここら辺に家があるって」


「...よく覚えてましたね。それでここら辺の家回って見つけたんですか?キモ~w」と、一瞬ドキッとしまう。


「それだけ元気なら大丈夫だな。...ほれ。プリン。なんか人気のやつ」


「...なんですか、急に優しくして...。弱った女の子には弱い感じですか?w」


「弱った女の子に強い男なんていないだろ」


「はぁ...。プリンはいただきます。早く帰っていただけますか?」


「...まだ1分くらいしか経ってないぞ」


「いや〜、ほらぁ〜、風邪移したら悪いじゃないですかーw」


「そうだな。...部活は大丈夫なのか?」


「何がですか?別にちょっとで休んだところで衰えるほど柔い練習してませんから」


「そうじゃなくて...。ほら、お前こういう性格だから上のやつとかと揉めたりとか大丈夫かなって...」


「何ですか、その心配。まぁ、どこに行ったって才能に僻む奴はいますから。相手にしないだけで勝手にどこかで挫けますから」


「...強いな」


「スポーツは才能とメンタルゲーですよ」


「...そうか。まぁ、元気なそうならいい」


「あれ?もう帰るんですか?」


「...お前が帰れって言ったんだろ」


「何ですか?先輩って私に言われたらなんでもやっちゃうんですか?wなら、はい、ちんちん」


「やるわけないだろ」


「うわー、のりわるーw」


「...まぁ、元気ならそれで良かった」


「明日からは行きますから。待っててねダーリン♡」


「病み上がりに朝練に来ようとするな」


 そのまま少し話して帰宅しようとしたのだが、鷺ノ宮のお母さんに捕まってしまうのだった。


「あらっ!もう帰っちゃうの?」


「はい。すみません...いきなりお邪魔しちゃって」


「いいのよいいのよ。けど、あの子に男の友達がいたなんてねー。...お友達よね?」


「...はい。友達です」


「そーう。なら良かった!また来てね?」


 鷺ノ宮の家を後にすると一通の連絡が届く。


『今週の土曜、私とデートしてくれませんか?もし、バイトがあるならお店に伺っていいですか?』


 世上さんからの連絡だった。


 デート...。

それも貸し借りではなく、純粋なデート。

そんな言葉に胸が躍る。

つまり、彼女は純粋に俺と一緒に居たいと思ってくれたということだ。


 好き...ってことだよな?と、思わずニヤッとしてしまう。


 そうして、ステップを踏みながら家に帰るのだった。


 ◇10月1日(金) AM6:30


 いつも通り朝練を行っていると、ガラガラと扉が開く。


 休み明けから早速朝練か?と思いながら振り返ると、そこに立っていたのは同じクラスで女バスの坂倉さかくらまゆずみだった。


 金髪ショートヘアと、黒髪ショートヘア。

金髪が坂倉で黒髪が黛である。


 一体なんのようだと思っていると、「うわっ、本当に朝練してんじゃんw」「ちょっ、やめなよ...w可哀想じゃんw」とか言いながらこちらに歩いてくる。


「...何ですか?」


「いや、なんか噂で聞いてさ?w鹿沢が男バスでしかも毎朝朝練してるとかw」


「...はぁ。してますけど」


「え?wそんなに頑張ってるのにレギュラーじゃないん?w」


 まぁ、こいつらもレギュラーではないはずだが、強豪校のベンチと弱将校のベンチではだいぶ意味合いが違うか。


「...そうですね」


「てか、タメなんだから敬語じゃなくていいのにーwてか、あんたって鷺ノ宮の付き合ってんの?w」


「...付き合ってないです」


「そだよねーwあいつ性格ゴミだもんねーwんじゃー、なんで仲良くしてんの?w」


「別に仲良くもないです。あいつにとって俺は壊れないおもちゃという認識なんじゃないですか?いつも楽しそうにイジってきますし」


「こwわwれwなwいwおwもwちwゃw」

「ちょっとw笑いすぎだからw結奈ゆなw」


「まぁ、いじられるのは慣れてますからいいですけど」


「そwそうなんですねーwか、かっこいいっすねw」


「...でも、時々イラッとしますし、喧嘩をすることもありますけど。それはお互いの関係性があってこそのことだと思います。俺のことを知らない人間にいじられたり、鷺ノ宮のことを笑われたりするのは普通にムカつくだけなんですよ」


 そう。今俺は今年1ムカついている。

この間もそうだった。鷺ノ宮のことを悪く言われるのはムカつく。


「...え?何?怒っちゃった?wこわーいw」と、笑いながらバカにしてくる。


「...てか、そんな風に他人の悪口を吐くような人間性だからレギュラーにならないんじゃないですか〜...?w」と、俺も返すのだった。


「...はぁ?弱将男バスのベンチとは格が違ーんだよ」


「...え...?wそーなんですか〜...?wもしかしてー...ベンチが金でできてたりとか〜...?wすごーい...wかっこいいんですねぇ〜...w強豪校のベンチってw」と、さらに煽る。


「ぁ?何調子になっちゃってんの?」


「実力がないことを努力しないことを才能がないことを棚に上げて、下を見て見下して。そんなことしてるから鷺ノ宮に舐められるんじゃない?」


「てめぇ...調子に乗ってんじゃ!」と、行った瞬間「先輩たち。何してんすか?」と、鷺ノ宮が現れる。


「...っち」と、舌打ちして帰っていく女バス2人。


 っけ。ざまーみろ。と思いながら朝練を続ける。


「どういうつもりですか?先輩。昨日のお見舞いといい、今のも...。私の悪口で盛り上がればよかったじゃないですか」


「別に。ただ、事実を言っただけだ」


「彼女さんができて余裕が生まれたって感じですか?」


「...そうかもな」


「それは良かったですね...」


「なんだよ、その言い方」


「いや、別に。それじゃあ」

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