第9話 噂の噂
◇9月27日 月曜日 AM6:30
シュート
ガコン...と、リング当たって弾かれてしまう。
そうして、小走りでボールを取りに行くと、リングが「ファサ」と音が鳴る。
振り返るとそこには鷺ノ宮が立っていた。
「...おう」
「...」と、いつもの嫌な笑みではなく、無表情な姿で立っていた。
「待ってたよ。ほら、言ってたろ。彼女の写真」と、携帯電話を取りに行こうとすると、「大丈夫です」と言われる。
「いや...大丈夫ですってなんだよ。散々見せろって言ってたのに」と言いながらフォルダから写真を探して鷺ノ宮に見せる。
しかしながら、彼女は一つも表情を変えないどころかまともに画面を見ようともしなかった。
「...おい。ちゃんと見ろよ」
「...」と、仕方なさそうにその画面をちらっと見てもう一度俺を見つめる。
「...なんだよ。っは...俺にこんなに可愛い彼女が居てビビったんだろ...?」
「...そうですね。先輩には彼女が居たんですね」
そんな急に冷めたような態度を取る鷺ノ宮。
何かあったのか?...って俺には関係ないか。
「...ったくなんだよ」と、文句を垂れながらシュートの練習を再開する。
「先輩。その彼女さんとはどこで知り合ったんですか?」
「...え?な、なんだよ...。興味あんのかよ。俺のバイト先だって」
「お客さんとしてきて、仲良くなったということですか?」
「...まぁ、そうだけど」
「...そうですか。分かりました」
そういうと、珍しくそのまま俺をいじることもなく体育館を後にする彼女。
それと同時に一つの疑問が生じる。
俺がバイトをしていることは鷺ノ宮は知っている。
だけど...おかしくないか?
なぜ今の流れで俺のバイトが何かを聞いてこない。
聞いても答えないと思ったから?いや...知っていたからでは?
だってそうだろ。お客さんとして仲良くなったって...ファミレスやカラオケなんて会計や食事を運ぶ時以外話す機会なんてないはず。
お客さんとしてきて仲良くなった...ということはお客さんとの絡みがそれなりにあることを知っている...。つまり、俺のバイトを知っているということでは?
...なんて深読みのしすぎか。あいつが俺にそんないい意味での興味があるわけがないし。もし知っていたらきっと、『チェーン店のカラオケ屋じゃないところはまさに先輩っぽいですよねw』とか言って笑ってきそうなものだし。
まぁ、邪魔が入らないならそれに越したことはないな。
そう思いながら俺はいつも通り練習して、いつも通りシュートを外し続けるのだった。
◇同日 18:30
私は部屋で一人...とある写真を見ていてにやにやしていた。
それは祐樹くんとの2ショット写真だった。
「えへへ...」と、声が出てしまうほどにうれしかったのだ。
また今度デートしたいな。
でも...うーん...私から誘わないと...。
だって部活、バイトとかなり忙しいし、ある程度予定を合わせないと調整は難しいよね。
そんなことに頭を悩ませていると、一通の連絡が届く。
【先日はデートありがとうございました。また今度よろしくお願いします】
「...」
◇9月30日(木) AM6:30
昨日も一昨日も鷺ノ宮が現れることはなかった。
珍しいこともあるもんだ。もしかしたら彼女ができたことに気を使って...なんてありえないことを考えながらシュートを打つと、相変わらず外れてしまい、体育館の入り口に転がっていく。
そのボールを取りに行くと丁度、誰かの声が扉の奥で聞こえてくる。
「...でさ、あいつにちょっとわざと強めのファールしたらにらんできてさwマジ調子乗りすぎなんだよなw1年のくせにw」
「だよねーwちょっとばかし才能が有って可愛いからってw」
「てか、知ってる?wあいつを怒らせる方法w2年の男子の...なんだっけwあいつwえっと...鹿沢?だっけw男バスのあいつの悪口いうとめっちゃ切れるんよw」
「鹿沢wあーうちのクラスにいるわwあいつ男バスなの?w試合出てるの見たことねーw」
「そうw弱小バスケ部の補欠wしかも、あいつクラスでいっつも一人なんだよねwそんでめっちゃ馬鹿にしてたらめっちゃ睨んできてさw」
「え?w何?wもしかして好きなんw」
「さすがにないっしょwいやーあいつ、このままずっと体調不良になって部活やめちゃえばいいのにw」
爆笑しながら去っていく女バスの人間共。
「...」
そんな言葉に耳を疑った。
てか、あいつが俺のことを...?いやいや...ありえないだろ。
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