第6話 疑惑
◇9月20日 6:30
第二体育館の扉に手をかける。
しかし、やはり扉には鍵がかかっていた。
もう本当に二度と...来ないかもしれない。
すると、次の瞬間後ろから声を掛けられる。
「...そこに立たれたら開けられないんだけど」
振り返るとそこにいたのは先輩だった。
「なんで...」
「なんでって...。別に。朝練したい気分だったから」
「...そう...っすか...」
そのままカギを開けて中に入っていく。
やっぱり、先輩は先輩だ。絶対戻ってきてくれるってそう思ってました。
「...この前は悪かったな」
「別にいいですよ。私もっちょっと...本当にちょっと...だけ言い過ぎたかなとか思わないでもないので」
「...相変わらずだな」
◇同日 17:15
「...うん。だいぶいい感じだと思う。とりあえず練習した3曲は人並くらいに歌えていると思う」
「本当ですか!?やりました!」と、無邪気に喜ぶ世上さん。
「そういえばそのカラオケ大会っていつなの?」
「今週の金曜日です!」
「おっ、そうなんだ。うまく歌えるといいな」
「はい!」
ということはこの関係もあと数日で終わりということか...。
残念だけど仕方ない。
「あっ、そうだ。鹿沢くんは私にしてほしいこととか何かありますか?」
「...え?」
「ほら、こうしてバイトの日は毎日私に付き合ってくれてるわけじゃないですか?だから私もお返ししたいなって...」
「いやいや別にそんなの大丈夫だよ。俺はあくまで仕事の一環というか...業務中に教えているだけだし...」
「そうかもですけど、お返しはしたいんです!」
「いや...そうだな...あっ」
1つだけ思いついたことがあった。
「何かありましたか?」
「その...1日だけ彼女になってくれない?」
「...え...え!?//」
「あっ、その違くて!彼女のフリというか...してほしいなって」
「あっ...そ、そういうことですか...。いいですよ?面白そうですし?けど...それだけでいいんですか?」
「うん。それでいい」
もちろんそれは...あいつに対してのドッキリのためのプランであった。
◇9月22日 AM6:30
「おはよーございます。先輩」と、いつもの時間に朝練の邪魔をしに現れる鷺ノ宮。
「...おう」
「...相変わらず先輩は先輩ですね~」
「なんだよそれ」
「なんというか、見てて安心します」
「その底辺を見て安心するド畜生な性格どうにかしたほうがいいぞ。あぁ、そうだ。今度の日曜日何か用事あったりするか?」
「別にそうは言ってないですけど。てか...なんですか?特に用事はないですけど。部活は休みですけど。まさかデートに誘おうとしてますwそれならノールックお断りなんですけど」
「なんでノールックなんだよ。そうじゃなくて。ほら、前に言ってただろ。俺の彼女に会わせろって」
「...はぁ。言ってましたね」
「今度の日曜デートに行くから」
「...いや、意味わかんないですって。よく考えてくださいよ。なんでもし仮に本当に先輩に彼女ができたのならなんでそれを見に行くためだけに私が行くんですか」
...よく考えたらそうだった。
作戦をミスってしまった。
「...いや...まぁ、別に来なくてもいいけど」
「いやいかないですよ。なんで貴重な休みをそんなことで無駄にしないといけないんですか。馬鹿ですか?」
「...っち」
別の日程に...してもらったとしても意味ないよな。
そもそもどうしたって後輩に彼女を会わせるっていうのは不自然になるわけだし。
まぁ...別にいっか。
レンタル彼女感覚でデートしてみるのもありか。
それにあんなかわいい女の子と嘘でもデートできるなんて奇跡だし。
「ちなみに既に妄想デートの予定は立ててるんですか?」
「妄想じゃないから。まぁ、映画でも行こうかな?」
「映画w映画ね...wそれ何回目のデートですか?」
「...3回目」
「ふーん。それでなんの映画見るんですか?」
「まぁ...最近はやりの恋愛映画...とか?」
「先輩w恋愛映画とか見るんですかwウケるw映画泥棒の動きくらいウケるw」
「じゃああんまりウケてないだろ」
「駅前の映画館ですか?w」
「そりゃそうだ」
「へぇ~。じゃあ、写真撮ってきてくださいよ。二人で写ってる写真ね。それも彼女と分かるような」
「...おう」
「先輩、これがラストチャンスですよ?本当は彼女なんていないんですよね?」
「だから...いるって」
「見栄っ張りだなーww」
◇放課後 19:00
「今日はこれで終わりだ。んじゃ、片付け!」
「「「「はい!!」」」」
珍しく19時台に練習が終わった。
よし、家に帰ったら久々にゆっくりできるなー。
そう思いながら手際よく片づけを行い、ちらっと第二体育館を覗く。
先輩、もう帰っちゃったかな?
すると、1年の男子バスケ部である
「な、マジであれ先輩の彼女だったのかな?」
「いや、ないって。お姉さんとかそういう感じじゃないの?だって...めちゃくちゃかわいかったぞ」
「いやぁーでも彼女さんらしき人抱きついてたぞ」
「でもさ...あの鹿沢先輩だぜ?w」
「確かにw練習試合でもぼっろぼろだったもんなw」
そんな言葉に私の体は思わず固まってしまうのだった。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078429130855
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