第4話 約束と布石
「音痴は大体2パターンに分かれるんです。1つ目は音程がわからない。2つ目は正しい音の出し方がわからない。普段からクラシックを聴いているのであれば、世上さんは2つ目に該当していると思います。なので、まずは鼻を摘まんで歌ってみましょう」
「...鼻ですか?」
「はい。鼻をつまむと音が少しこもって自分の音の高低差がわかりやすくなるんです。なので、まずはこれから始めてみましょう」
そうして、実際に鼻をつまんで何度か練習を繰り返し、併せて録音をして自分の声がどう聞こえているかも確認してもらった。
「...恥ずかしい...//」
「わかります。自分の声ってこんなんだってなりますよね。けど、ここは我慢です。まずは正確に音を当てるところから始めましょう!」
そんな会話をしていると、裏から店長が出てきた。
「何やらすごい声が聞こえてきたけど...って、ずいぶんお若いお客さん...。もしかして、祐樹くんの彼女かい?」
「ち、違います!//」と、即答する俺。
「そうかいそうかい。もしかして歌の練習をしにここに来たのかい?」
「あっ、はい。初めまして、世上凪咲といいます」と、ぺこりとお辞儀をする。
「はい、はじめまして。そうねぇ、祐樹くんもなかなかの音痴だったからねぇ...。今でも昔撮った声とか残ってるんじゃないか?」
「っちょ...あれは勘弁してくださいよ!」
「聞きたいです!」と食いついてしまう世上さん。
そうして、渋々1年ほど前の音痴な俺の歌を聞かせる。
「...確かに、これは音痴ですね」
「だろう?」
「...//」
「じゃあ、今はどんなものかみせてやりなよ」
「...いいですけど」
そうして、その時に歌った曲と同じ曲を歌う。
声の出し方、音程の取り方、抑揚、ビブラートなど今は自然に使いこなすことができていた。
「...ふう」
すると、目を丸くして「...すごいです。かっこいいです!」と興奮する世上さん。
「あ、ありがとう...」
そんな会話をしていると常連さんたちがちらほらと入ってくる。
そのタイミングで「では、今日はここらへんで!鹿沢さんは次はいついらっしゃいますか?」
「あぁ...次は明後日かな」
「それではまた明後日きますね。今日はありがとうございました!」と、深々と礼をしながら去っていくのだった。
「こりゃ脈ありだな」と、常連のおじさんがつぶやく。
「そ、そんなわけないですよ...絶対」
もう、そんな妙な期待はしない。そう決めたんだ。
◇9月7日 AM6:30
「それで?せんぱーい。いつ彼女さんに会わせてくれるんですか?w」と、半笑いでそんなことを聞いてくる。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078427916119
「...1か月後とか」
「っはw早めに嘘って認めないと後々つらいですよw」
「嘘じゃねーし...。昨日だってバイト先に来てくれたし」
「なんすかそれ。てか、先輩バイトなんかしてたんですか?」
しまった...。バイトをしていること自体鷺ノ宮には言ってなかったんだ。
「...まぁな」
「そんな中途半端な気持ちだからバスケうまくならないんじゃないですか?」
「...は?」
「だってそうですよね。私は朝練もしてますし、もちろん学校の後もやってますし。なんか自分はすごーく努力してますアピールしているけど、しょせんその程度の気持ちでやってるからうまくならないんじゃないですか?」
「...俺にだって事情が「あーはいはいw言い訳とかいいですからw」
「...もういいよ。だから...嫌ならもう俺に関わるなって言ってんだろ」
「...っは、なんすかそれ。自分だけがつらいみたいな顔しちゃって。こっちがどんなプレッシャーの中でやってると思ってるんですか?いつも誰かの視線と浴びて、活躍して当たり前に思われて...」
「...だから分からないって。凡人が無駄な中途半端に努力しているのがそんなに気に食わないか?」
「はい。悔しかったらもっと練習してくださいよ。バイトなんかしてないで」
「なんか...ってなんだよ。お前に何がわかるんだよ。そのユニフォームも弁当も携帯だって、何一つ何不自由することなく当たり前にあるやつに俺の気持ちがわかんのかよ!お前なんなんだよ!ずっと俺にまとわりついて嫌なこと言って、馬鹿にして!お前なんか...!お前のことなんか...!」
言いかけた言葉が詰まる。
「...何ですか?私のことなんかなんですか?」
「...もういい。もう朝練はしない」と、片づけを始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。