第3話 現実の少女

 お店の中にはいるとキョロキョロと店内を見渡す。


 昔はスナックをメインにしていたが、現在はカラオケがメインになっている。

しかし、店内の雰囲気はスナックの名残があり、やや古めかしいというかよく言えばある世代にとってはエモい空間になっていた。


 どうやらそれが物珍しいらしく、きょろきょろと見まわしていた。


「...こういう雰囲気は好きですか?」


「あっ...はい。すみません、ジロジロ見てしまって...。小さいときおばあちゃんがこういったお店をやっていてなんだかその時のことを思い出してしまって...」


「あっ、そうなんですね」


「えっと、あなたがマスターさん?」


 そんなFa〇eみたいなセリフをリアルで言われることがあるとは。


「いやいや違います。僕はただの店員です。ていうか、高校生です」というと、驚いた顔をする。


「あっ、そうなんですね。お若いマスターさんだなと思ったら...。高校生ということは私と同じですね」


「...え?」


 佇まいや雰囲気からてっきり大学生くらいかと思ったらまさかの高校生だった!


「...見えないですよね。よく大人にみられるんです。そんなに老けて見えるんですかね?」


「いやいや!大人っぽいというか...佇まいとか雰囲気とかしゃべり方とか...ずいぶん落ち着いて見えるので...。そのせいではないですかね?」


「そうですか?店員さんお口がお上手ですね」と、上品に笑う。


 やばい...。これはマジでヤバイ。ドストライクすぎる...。

じゃないじゃない。俺とこの人はあくまで店員とお客さん。

それにこんなにきれいな人は絶対彼氏がいるし、万が一いなくても...俺なんかが振り向いてもらえるわけがない。

それは3か月前に味わったばかりだろう。


「でも、珍しいですね。高校生の方がこういうお店にくるなんて...。正直入るの結構勇気いると思うんですけど」


「...そうですね。帰ろうかとも思ったんですが、店員さんが出てきて優しく向か入れてくれたので」


「...そ、そうなんですね...」


「実はここに来たのには理由があって...。実はその私...かなり音痴でして...」


「そうなんですね」


「はい...。それで1か月後にクラスの皆でカラオケ大会なるものが開催される予定で...。本当は不参加の予定だったのですけど...。私が行かないなら行かないという人も居て...仕方なく。なので、それまでに人並程度に歌えたらなと思いまして...。けど、駅前のカラオケとかは同じクラスの子が働いていたので...ヒトカラを見られるのは恥ずかしいですし、歌声を聞かれてもあれなので...」


「なるほど...。それでうちに来たと」


「はい...。高校生が来る雰囲気ではないですけど、特に年齢制限みたいなものもなかったようなので勇気を出してきました」


「そうだったんですね。なるほど。うちの機械もちゃんと採点機能とか音程バーとかもあるので、練習には良いかもです。それにこれから2時間ほどはほかのお客さんは来ないですし、常連さんは歌がうまいおじさんやおばさんも多いですし、みんないい人なので」


「そうなんですね!安心しました!」と、俺の手をぎゅっとつかんで嬉しそうに笑う彼女。


「あっ!!//いえいえ...//」と、童貞丸出しで恥ずかしがる俺。ダサい。


「えっと...店員さん...良ければお名前を伺ってもよいですか?」


鹿沢しかざわ...祐樹ゆうきといいます」


「鹿沢さんですね。覚えました。私は世上せじょう 凪咲なぎさといいます。ちなみに高校2年生です」


「あ、自分もです」


「そうなんですね!なんだか親近感がすごくわきます!あっ、ごめんなさい!...そ、そうだ...。何か注文とかしたほうがいいですよね」


「す、すみません。メニューはこちらです。あっ、歌を歌うなら、リンゴジュースとか温かいお茶がおすすめですね。のどの炎症を抑えられるので」


「そうなんですね!...では、お茶をもらってもいいですか?」


「かしこまりました」


「鹿沢さんは優しいですね...」


「いやいや...そんなこと...」


 それからお茶を飲みながらお互いの話をした。

血液型はA型で、誕生日は7月7日。趣味は読書と音楽/映画鑑賞。

ちなみに高校は駅の近くにある私立清宮女子学園高校という超お嬢様学校だった。


「鹿沢さんは山の川高校なんですね。山の川高校といえば女子バスケットボールが強いと有名ですよね」


「...そうですね」


「鹿沢さんは部活は入っていましたか?」


「現在進行形で一応バスケットボールを...」


「そうなんですか!それはぜひ一度見てみたいですね」


「いえいえ!...補欠ですし...見せられるようなものではないですよ」


 そんな雑談を15分ほどして、ようやく本題に入る。


「じゃあ、そろそろ歌ってみますか。何か好きな曲とかありますか?」


「交響曲 第41番 ハ長調 K.551 ジュピターですかね」


 うん。わからないけれど多分それ歌ないよね。楽器の音を口でやるつもりなのかな?


「えっと、歌があるやつで。あと、歌えそうなので」


「...簡単な曲とかありますか?」


「中島み〇きさんの『糸』とかはどうですか?曲調はゆっくりですし、歌いやすいかなと思います」


「...やってみます」


 そうして、マイクを握っているのだが既にその手が震えていた。


「なぁ↑ぜぇ↓めぐりあうのかお~↑」


 結果は言うまでもなく、正真正銘の音痴であった。

途中であきらめそうになっていたが、そこは俺が「とりあえず歌い切りましょう!自信をもって!」といい、なんとか鼓舞することで最後まで歌いきることができた。


 さて...どうしたものか。


「...ごめんなさい。本当に音痴で...//」と、顔を抑えて照れる世上さん。かわいい。


「いやいや、大丈夫です!俺も元々音痴でしたし!よし!とりあえず、歌う曲を絞るところから始めましょう。音痴の根本を治すのは1か月では難しいですから、音痴には聞こえない曲を選んで同じ曲で最低限のレベルに行けるようにしましょう」


「...音痴...最低限...」


「いや!ごめんなさい!そんなつもりはなくて!」


「い、いえ!事実ですし...その...わかっているので大丈夫です」


「では、まずはパターンを探っていきましょう」


「...はい!鹿沢先生!」


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