第2話 でっち上げた彼女

 ◇7月3日 12:45


「先輩って友達いないんですか?w」


「...だったらなんだよ」


「いや別にw先輩って友達を作らない理由に『人間強度が下がるから』とか言いそうなタイプですよねw」


 それを言っていたのはどこぞ々々々木さんだろう。


 そんなことを校舎裏の人気のないベンチに座る俺に言ってくる。


「そういう鷺ノ宮は友達も居ないだろ。誰かと仲良くしているの見たことないし」


「いやいやww普通に居ますよww先輩と同じにしないでくださいよw」


「今もこうして、俺みたいなやつと飯食ってる時点で説得力ないから...w」と、小馬鹿にしたように笑ってみる。


「いや、普通にいますよ。フレンドもソフレもセフレも」と、真顔でそんなことを言う。


 そんな発言に飲んでいた牛乳が気管に入って咳き込んでしまう。


「ごっほ!ごっほ!」


「ちょっと!冗談ですよ!w先輩みたいなダサメンが口から白い液を出すなんて需要ないですよ!」


「うっせ!っごほ!」


 一瞬でもこんな悪魔みたいなやつを好きだった自分が恥ずかしくて堪らない。

あぁ、あの時のことは思い出したくもない...。


「...もう俺に関わるなよ」


「私が関わらなかったら先輩ぼっちになっちゃうじゃないですかw」


「別にボッチでいいし」


「そんなさみしいこと言わないでくださいよwほら、あの時にみたいに私に言ってくださいよーwなんでしたっけ?wえっとーw『ただ...君のそばにいたい...』wでしたっけwだから傍に居てあげてるんじゃないですかーw」


「...いつまでそんな話してんだよ。もう鷺ノ宮こと好きでも何でもないし」


「またまたーwいっつも練習中も私にえろーい目線送ってるくせにーw」


「...勘違いだろ...w自意識過剰なんじゃないか...w」と、鼻で笑う。


「ふーん。じゃあ、ほかに好きな人できたんですか?wそれとも彼女ができたとかw」


 そんないつもの安っぽい挑発。いつもであれば適当に流していたのだが、こうして毎日毎日俺を小馬鹿にしてくるその態度に堪忍袋の緒も限界ギリギリだったのだ。

だから俺はありもしない嘘を吐くのだった。


「いるよ...。彼女」


「...は?w先輩に彼女がいるわけないじゃないですかw頭大丈夫ですかwいっつも学校で一人じゃないですかw女の影どころか男の影すらないのにw」


「...他校の女子だからな」


「うわぁあwwいてぇえww先輩その嘘はいてええっすww」と、いつものように大笑いする鷺ノ宮。


「...居るから」


「じゃあ、特徴を言ってみてくださいよw」


「...黒髪の...ロングヘアで...すごく理知的で大人っぽくて...俺に優しくて...胸も身長も...大きくて...すごくかわいくて...俺のことを大好きな...同い年の子」


「なんすかそれw妄想も甚だしいですよ。言ってて恥ずかしくないんですか?wそんな美少女が先輩のどこを好きだっていうんですかw勉強も大して得意じゃなくて、部活だって補欠どまりで、顔だって良くないですしw好きになる要素なんてどこにもないじゃないですかw」


「...っは...鷺ノ宮と違って性格もいいし、俺に嫌なことも言わないし。めっちゃいい子だから...」


「じゃあ、今度会わせてくださいよw」


「いいよ...?」と、取り返しのつかない嘘をついてしまうのだった。



 ◇放課後 15:35


 今日はバイトの日だったので学校が終わると、駅から少し離れて路地裏にひっそりと佇んでいる小さなカラオケ屋である【レッツゴーゴー】に向かった。


 このお店は個人経営でお客さんは基本的に常連さんばかり。

ここで働き始めて約1年が経過し、お店のメニューは全部作れるし、あまりお客さんが来ないことから最近はほとんどワンオペで回していた。


 学生が来る雰囲気のお店でもないので、同じ高校の人と会って気まずいとかもないし、大会前後は色々融通を利かせてくれるし、俺はこのお店が好きだった。


「おはようございまーす」とあいさつしながら入ると、店の奥で店長がぐっすりと眠っていた。


 そのままエプロンをして、16時の開店に向け準備を始める。


 そんな開店5分前のことだった。


 ほとんどの準備を終えて、入り口の看板を【CLOSE】から【OPEN】に変えようとしたのだが...。


 店前をウロチョロしている影が見える。

...なんだ?と恐る恐る入り口を覗くとそこに立ったいたのは...。


 高身長で、黒髪ロングで、胸も身長も大きくて、かわいくて、大人な雰囲気の女の子だった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093078381914202


 思わず、「え?」と言ってしまう。

それは今日のお昼、俺が架空で作り上げた彼女の特徴そのままの女の子だった。


「あっ...すみません...。えっと...HPで見たら15:30から営業になってて...」


 そこで我に返り店員として切り替える。HP?あぁ、結構前に店長が作ったやつか。情報が古いままになっていたのか。


「すみません、今は16時からになってて...あと5分ですし、もう中に入って大丈夫ですよ!」と、店内に案内するのだった。

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