後日譚
クリストロフ王国王城内──。
「何!? エルフ討伐に行った騎士達が壊滅!? んな馬鹿な!?」
王は、ご乱心の様子だ。自分にとって自慢の騎士達が突然何者かによって蹴散らされてしまったのだから無理もない。
すると、そんな王へ部下の騎士が1人、膝をついた状態で告げる。
「……誠でございます。エルフの森へ出て行った者達、全滅でございます」
「そんな馬鹿な!? あの者達を蹴散らすなんて……相当腕の立つ者達を集めたはずだぞ! 一体、誰がそんな事を!?」
「そっそれが……どうやらその……村人達によりますと……2人の女を連れた西部の冒険者の男で名前は……その……」
騎士は、一瞬だけ言うのを躊躇った。しかし、騎士のその態度は、王には丸わかりだ。王は、怒った様子で告げた。
「……もったいぶらずに言え! 誰がそんな事をしたのだ!」
男は、口をモゴモゴさせながら、とても言いづらそうに告げた。
「……ジャンゴです。西部で冒険者をしているジャンゴという男が……騎士達を悉く倒していき、挙句の果て……その仲間達もエルフを討伐するのではなく、エルフの女と共に何処かへ旅立って行ったと報告を受けています」
「……ジャンゴ? まさか、魔龍騒動の時の……。くぅ、己! あの時は、ワシの国のためにと感動したのに……奴め、どういう風の吹き回しだ!」
「それが……私にもわかりません。ただ一つ言える事は……奴が、いいえ……ジャンゴが相当強いという事」
腹を立てた王は、悩んだ。顎に手をあてて真剣に考え……そして、王は告げた。
「……目的の分からぬ奴をこれ以上のさぼらせていても……仕方あるまい。クリーフよ! 命令じゃ。今すぐ西部に向かってそのジャンゴという男を捕まえてくるのじゃ!」
騎士のクリーフが、王の命令に従って返事を返そうとしたその時だった。突如、玉座のある部屋の大きなドアが開かれて、外から1人の男が参上した。その男は、玉座の前に姿を現すと開口一番に告げた。
「これはこれは王よ! その言葉……わたくしめが、引き受けましょう!」
男は、そう言うと部屋の中へズカズカと入って行き、クリーフの隣に立った。彼の存在を見て嬉しそうに微笑む王は、男に告げた。
「……おぉ~! 勇者スターバム。帰って来たのか……」
男は、頭を下げた。
「……はい。勇者スターバム。ただいま帰還しました。南部地域の魔族の残党狩り……これにて終了となります」
「頼もしいのぉ。スターバム殿。……どれ? それでは、報酬を……」
「おっと……その前に。王よ、貴方の言うその……西部の謎の男に関する任務。このわたくしめに是非……!」
「おぉ! スターバムよ、わしの頼みを引き受けてくれるというのか?」
「はい……! 勿論でございます。私は、王の為に……そして、計画のために……力を添えるだけでございます」
「ほっほっほっ! なんて頼もしい男なのだ。スターバムよ! よろしい。では、こちらの任務……貴様に任せるとしよう!」
「……御意!」
勇者スターバムは、そう言うと颯爽と玉座の前から姿を消した。そんな男の姿を隣にいたクリーフは、ジーっと見ていた。
――勇者スターバム……。異世界より転生してきた勇者にして……
クリーフには、それが分からなかった。彼は、玉座からいなくなった後もずっとその事を考え続けていた。
そして彼は、王宮の長い廊下をずっと進んだ先を見つめた。
「……まぁ、ともかく……姫様に報告だ。ジャンゴという謎の男が、西部で騎士達を殺した事とそれから勇者スターバムの事。王とスターバムが言っていたある計画についても気になる。……まさか、スターバムは、王の計画の内容を知っている? 急いで報告せねば……」
クリーフは、そんな独り言をぶつぶつ喋った後、姫の元へ向かった。
そして、姫のいる部屋のドアをノックすると、彼女はすぐに出迎えてくれて、2人は部屋の中でゆっくり王宮から見える景色を眺めながら話をした。
クリーフの報告をあらかた聞いた姫は、お茶の入ったティーカップをテーブルの上に置いた後に、一言告げた。
「そうですか……。冒険者ジャンゴが……」
「はっ。私も……とても驚いております。なぜ……そのような残虐な行為を……」
しかし、悲しそうにしているクリーフの横では、真剣な眼差しで告げるエカテリーナ姫の姿があった。
「……いえ、おそらくジャンゴ殿は……何か考えがあってやった事だと思いますわ」
「と、言いますと?」
「全てわたくしの勝手な考えになってしまいますが……あの御方の行動について考えていると……少し思うのです。……あの御方は、何かとんでもないものを背負って戦っておられると……。きっと、悪事を働くような方ではございません」
エカテリーナ姫は、そう言った。そんな姿を横から眺めていた騎士クリーフは、ただ頷いた。
「そうですか……」
しかし、彼のその返事は、姫を信頼しているからこその返事だった。クリーフは、長年姫に仕える騎士として知っているのだ。エカテリーナ姫の直感の鋭さを……。彼女の直感は、ほとんど当たる。
――だからこそ、この方は、凄い。やはり、王族なのだ。
そう感心しているクリーフに姫は、告げた。
「……クリーフ!」
「はっ!」
「……勇者スターバムさんは、既に西部へ?」
クリーフが、エカテリーナに言葉を返そうとした次の瞬間だった。突如、ドアの方から1人の男の声が聞こえてきた。
「……おぉ~! 姫よ! わたくしは、ここでございます!」
その言葉にエカテリーナもクリーフも驚く。すると、2人の視線の先にドアの傍でもたれているスターバムの姿が目に入った。
姫は、驚いていた。
「……貴方、いつの間に? どうやって、この部屋へ……」
「はははっ! そんな事などどうでも良いではないですか~姫! 私は、王国最強の実力者。ドア位簡単に開けられますよ~。それより姫、どうやら少し……私の事を考えてくれていたようですね。ふふふっ、嬉しいなぁ~。流石は、”未来の私の花嫁”です」
その一言にエカテリーナは、冷酷な声で彼に注げた。
「……貴方と婚約する予定は、今後一切ございません。ここは、王族の部屋です。今すぐ立ち去りなさい」
「これはこれは~。冷たいではありませんか~姫。せっかく、未来の夫が無事に任務から帰還してきたというのに……。はっはっ、さては照れていますね? 全く……。私達は、未来を約束した者同士だと言いますのに……」
そうして、スターバムがズカズカと部屋の中へ入って行くとその時だった。突如、彼の首の筋に向かって剣を向けていたクリーフの姿があった。彼の目は、とても恐ろしい形相となっており、今まさに命令に背いたものを切り捨てようとしている者の目をしていた。
彼の後ろで姫は、告げた。
「もう一度、言います。勇者スターバムよ。今すぐこの場から消えなさい。これは、命令です。背けば貴方は、この国の全てを敵に回した事になる……お分かりいただけまして?」
その言葉に勇者スターバムは、下を向いてにんまりと微笑みを浮かべた。クリーフが、そんな彼の事を睨みつけると、途端に彼は言った。
「良いでしょう。今回は、この辺にしておきましょう。流石に今、ここで殺し合うなんて嫌ですから。姫の前で血を見せるわけにはいきません」
彼は、そう言うと真っ直ぐ廊下へ歩いて行った。剣をしまったクリーフが、ホッと息をつく。すると、出て行く直前でスターバムは、告げた。
「……あぁ、そういえば1つ言い忘れていた事がございます」
「なんでしょう?」
姫は、冷たい声音のままそう言うとスターバムは、姫に背を向けたまま告げた。
「……例の失敗作の成り損ないくんの事ですがね……」
「サム・コーヤの事でしょうか? あの方が、どうかいたしましたか?」
「いえ、西部にいる私の部下が言うには……あの失敗作が入ったとされている棺桶が今、西部のあちこちをうろうろしているらしいですよ?」
「……!?」
姫は、目を見開き反応した。そんな様子を後ろから楽しんでいたスターバムは、わざとそこから先は、何も言わずにいた。姫は、口を開いた。
「……スターバム、その話についてもう少し詳しくお聞きしても……」
「いえ、私はこの部屋にいては、いけないようですし……。ここで失礼いたします~」
「待ちなさい! 勇者スターバム。貴方がここにいる事を少しの間のみ許可いたします。ですので、お話になってください。サム・コーヤの棺桶の事について……」
すると、スターバムは、ゆっくり姫の方を向き、それからゆっくりと近づきながら告げた。
「……いえ、私の部下の……マクドエルという人物をご存じでしょう? 実際に、あの失敗作の男を西部へ連れて行き、処刑した者なのですがね。奴の報告によると……とどめは刺したはずなのに、後で確認した時には棺桶が跡形もなく消えていた。更に奇怪なのは……その棺桶というのを目撃した事がある人物が西部で複数人存在するんです。その棺桶は、何者かに引っ張られて……今も何処かをうろうろしているようなのですが……詳細な事は不明となっています」
「……」
真剣に話を聞いている姫にスターバムは、告げた。
「……真剣に私の話を聞いている貴方の顔も美しい。ふふふっ、やはり……私の将来の花嫁にふさわしい……」
すると、エカテリーナは冷たい声で告げた。
「……やめて下さい。話が終わったのなら……今すぐお立ち去り下さい」
「ははは、つれないなぁ。もう少しいさせてくれても良いではありませんか……」
「これは、命令です。立ち去りなさい。貴方には、父上から託された命令もあるはずです。仕事に戻りなさい」
すると、スターバムは溜め息交じりに部屋を出て行った。彼は、再びドアに手を置くと去り際に告げた。
「あぁ……そう言えば、その件なんですけどね……姫は勘違いしております。西部に行くのは、私ではございません」
「……?」
「……私の部下のマクドエルです。彼にジャンゴ探しをさせます。そして、ついでに……失敗作の勇者の事も調べて貰うつもりです」
スターバムがそう言った次の瞬間、エカテリーナは目を見開いた。
「……そして、見つけ次第……早急にこの私が奴を……おっと、失敬。姫の前でなんて事を私は、言いそうになっていたんだ。それでは姫。この辺で……」
そう言うと、スターバムは部屋から出て行った。残されたエカテリーナとクリーフは、静まり返った部屋の中で棒立ちになっていた。
しばらくして、エカテリーナが隣に立っていたクリーフに告げた。
「……クリーフ。貴方に休暇を与えます」
「は……?」
「その代わり、サム・コーヤの棺桶を探しに貴方も西部へ参りなさい」
「しかし、姫……王に内緒でそのような事は……」
「私の方から父上には、言っておきます。貴方は、当分の間、実家のある西部へ帰ったと父上には伝えておきます。その間、西部で調査をしなさい。連絡は、西部から電報で……こちらに」
そう言うと、姫は一枚のメモ紙をクリーフに渡す。彼は、姫の真剣な表情を見るなり、膝をついて頭を下げる。
「はっ! この騎士クリーフ。ありがたく……休暇を取らせて頂きます」
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