おまけエピソード『決戦前夜の寝床戦争』
その日の夜は、とても静かだった。辺りを森で囲まれた町――レストフォレスの喫茶店に寝泊まりする事になったジャンゴこと佐村光矢は、寝る前にホールの窓から外の景色を見つめていた。とっくに閉店して、暗くなったお店の中で彼は、1人で煙草を吸いながら寝る前のひと時を過ごしていた。
夜の闇も、星の輝きもジャンゴが、前にいた世界とほとんど変わらない。星と星を線で結べば……彼のよく知る星座が完成する。月の輝きも一緒だ。下弦の月が、闇の中で怪しく輝いている。
――アイツらは、どうしているのだろうか……。
彼は、ふと前の世界で自分が教えていた生徒達の事が頭の中を過った。あれだけ毎日のように酷い仕打ちを受けて、教師として働いていた時は、生徒達に対して死ねとさえ思った事もあった。しかし、不思議な事にこうして1人になった時にふと、頭の中を最初に過ってしまうのは、家族の事よりも生徒達のその後だった。
――もう、きっと卒業しているのだろう。俺が教えていたアイツらは……ちゃんと自分の進路に進めているのだろうか? バスケ部で頑張っていたアイツは、スポーツ推薦をとれたのか? 勉強を一生懸命やっていたあの子も……。好きな人がいたと噂されていたあの子は、その後うまく行ったのか……。
そんな事を色々と思い浮かべてしまう。そして、しばらくしてから彼は、自分で自分の事を鼻で笑う。
「……いつの間にか俺も、立派な教師になっていたんだな……」
それから、しばらくして煙草の煙を味わい終えた彼は、自分の部屋へと戻って行った。彼の割り当てられた部屋は、二階の一室。普段は、使われていない部屋のようで、ベッドが1つ置かれているだけの質素な部屋だった。
部屋の前へやって来た彼が、ドアを開けて大きくあくびをしていたその時――! ドアを開けるとそこには、月の輝きが差す部屋の中に1人の少女の姿があった。
その女は、サラサラした金髪が特徴的で、小さな肩と少し幼い印象を受ける顔をしているが、それと真逆に顔よりも大きな胸とスベスベの白い肌、それから大きく実った太ももを持っており、その恰好は……頭に牛の角をつけており、胸と股には牛柄のビキニを纏い、足には黒いニーソとハイヒールを履いた格好をしていた。
ジャンゴは、彼女のその姿に……一瞬だけ少し驚いた様子で目を大きく開けて固まってしまっていた。
「……えーっと、マリア? どうしたんだ?」
月明かりの元で、頬を赤らめながらマリアは口を開いた。
「……こっ、今夜は……今夜は私が……たくさん奉仕します。ぞっ……存分に味わい下さい!」
「…………は?」
訳がわからず固まっているジャンゴを見てマリアの頬は更に赤くなる。恥ずかしさのあまり耐えられなかったが、しかし彼女は逃げなかった。
マリアは、ジャンゴの首元に手を回し、ベッドへ押し倒すようにして、自分の膝に彼の頭を乗せた。
未だに、どうしてこうなったのか訳の分からない様子のジャンゴが、目をパチクリさせていると、膝枕をしていたマリアが、ジャンゴの頭を撫でながら優しい声で告げる。
「……いつも大変な戦いをしていますし……たまには、私がこうして疲れを癒してあげないとダメですよね? 眠るまで一緒に居てあげますから。光矢は、何もしないで……私に任せて下さいね」
彼女の撫でる手は、柔らかくて心地よい。光矢の頭を優しく撫でながら掌からは、微かに緑色の光を放っている。
彼女は、癒しの魔法を込めながらジャンゴの頭を撫でていた。そんな蕩けてしまいそうなマリアの「撫で」にジャンゴは、本当に少し眠ってしまいそうになった。彼の頭は、既にぼーっとしてきている。
そんな彼にマリアは、微笑みながら告げた。
「えへへ……光矢ったら、幸せそうな顔しちゃって……可愛い。でも、もっと……幸せにしちゃいます……!」
そう言うとマリアは、自分の胸元を隠している牛柄のビキニの布を取って言った。
「……私の……おっぱい……のっ、飲ませてあげます」
「……へ?」
くすぐったい感覚が、マリアの全身をビクンッと振るわせる。彼女は、必死に声を抑えながら自分の大きな胸に顔が覆い隠されたジャンゴを愛おしそうに見つめる。
「え、えへへ……マックフライさんから借りて正解でした。この牛柄のビキニと衣装。男性は……こっ、こういうのが好きだと聞きました。光矢も……好き、ですか? ん//」
彼は、何も言わなかった。しかし、彼の気持ちはしっかりとマリアには伝わっていた。彼女は、頭を撫でながら彼の耳元で囁く。
「……このまま、今日はダメになって良いですよ。私の……お乳飲みながら赤ちゃんみたいにだらしなく寝てくれて……」
───マックフライさん! やっ、やりましたよ! 貴方が言っていた男の人を骨抜きにする甘えさせる方法! やり遂げられそうです! 最近は、ルリィさんがいるせいで、ご無沙汰でしたが……今日こそは!
マリアが、心の中で既に今、別室で眠っているであろう店主の妻に対して心の中で感謝しながら、2人が至福の時間を過ごしていたその時だった。突如、部屋のドアが勢いよく開け放たれる。
驚くマリアが、見つめた先には……赤い髪の毛を夜風に靡かせた美しい体を持った女性の姿があった。彼女は、黒いピッチピチの衣装とハイヒールを履いており、頭にはウサギの耳をつけたバニーガールの格好をしていた。
「……ル、ルリィさん!?」
ドアの前で仁王立ちの彼女に驚くマリア。すると、バニーガール姿のルリィが怒りに満ちた様子で告げる。
「……先輩、抜け駆けですか? 私に内緒で……殿方様と、子作りしようと? あらあら? そんな牛の涎みたいにドロドロした卑怯な御方だったなんて……見損ないましたわ。先輩」
ジャンゴが、乳の下から顔を覗かせようとしたその時、マリアがルリィに対して言い返す。彼女の目からは、普段以上の”本気”を感じられる。
「え? でも私、ルリィさんが仲間になるよりも前から光矢とは、毎晩あんな事やこんな事をしっ、していたんですよ。抜け駆けだなんて……私は、前から何も変わりませんけど?」
「あら? 言いますわね。先輩……。確かに今回は、後れを取ってしまったアタシが悪いのかもしれません。しかし、アタシが来たからにはもう好き勝手はさせませんわ!」
ルリィとマリアは、強く睨み合ってからお互いに牙を剥き出しにした野生動物の如く、ジャンゴの体を引っ張り合う。
「……先輩のターンは、終わりです! 離してください! 殿方様は、アタシに甘えたいのですわ!」
「違います! 光矢は、そんな事言ってません! 彼は、私が癒します!」
「いいえ! アタシですわ! だいたい、母乳すら出せない劣化乳の貴方より断然アタシの方が良いに決まってますわ! 修道女は、黙ってアーメンしててください!」
「この町に教会なんてないですぅ! そもそも私は、神より彼を選んだんです! だいたい……お乳なんて出なくても……私の方がルリィさんよりも……柔らかいし、大きさだって……」
「あら? その歳で柔らかいだなんて……萎んできてるのでは、ないですの? 人間って、老化速いのですわねぇ~!」
「老化なんてしてません! 私のおっ、おっぱいは……貴方の年中発情期みたいなのとは、違って落ち着いた優しいお胸なんですぅ!」
「年中発情期!? 言いましたわね……。もう良いですわ。先輩が、そこまで殿方様を譲ろうとしないのなら……力づくで奪い返すまでですわ!」
ルリィは、ジャンゴの頭を思いっきり引っ張り出す。しかし、マリアも負けじと彼女は、ジャンゴの足を両手で抱き寄せるようにして持ち、彼の体を離さない。
「……離してください! 殿方様は、私のおっぱいの方が良いに決まってます!」
「違います! 私の方が好きなはずです!」
2人の乙女が、1人の男の体を引っ張り合う中ジャンゴは……。
「……」
先程までの眠気も覚めてしまい、彼は……ボーっと天井を見上げていた。顔には、ルリィの大きな胸が当たって、息苦しい。……そして、下半身にはマリアの柔らかい胸が何度もギュッギュッ……と押し当てられており、窮屈だった。
「……俺がもう少し若けりゃ良かったんだが……。うむ。苦しい。が、まぁ……これはこれで、良いか……」
やがて、ジャンゴは2人の乙女達が、奪い合っている最中に目を閉じ、眠る事にした。
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