魔龍ブルー・リー編②
ギルドを出て私達は早速、防具屋に来ていた。なんとも、光矢が言うに初めてクエストを受ける私の為に何か少しでも装備を用意してあげようという事らしい。優しいなぁ……。
私達は、再び町を歩きながら武器や防具を売っているお店を色々回っていた。私の役割は、
光矢曰く、とても重要な役割との事らしいが……その反面、最も敵から狙われやすいという。私もそうだが、ほとんどのヒーラーは、自分から攻撃する手段をほとんど持っていないため、一度狙われてしまうと……自分でどうにかするのが、難しい。
そのため、少しでも自分で自分の身を守れるようにと……光矢は、私の為に強力な装備を探しているのだが……。
「……ダメだ。これも買えん……」
光矢は、またしても……このお店を諦めて、次の場所へ向かうのだった。
私も初めて武器や防具の値段を見るのだが……こういったものは、かなり良い値段をするみたいだ。私達が今、持っているお金では……到底購入できないものが多く、買えたとしても……ほとんどボロボロで使い物にならなそうなものが、ほとんどだった。
「難しいな……。こうやって、物を選ぶというのは……」
悩んでいる光矢に、私はふと、ホテルに置いて行っていた彼の棺桶の事を思い出し、疑問に思っている事について尋ねてみた。
「……そういえば、光矢の武器は……何処で手に入れたんでしたっけ?」
「あぁ……あれは、こっちの世界に来た時に勝手に手に入ったから。別に買ってないな」
「いえ、それではなく……あの大きい銃……えーっと、ガトリング砲の事です」
「あぁ、あれは……自分で作ったんだ。昔、西部の荒野で1人、彷徨っていた俺を拾ってくれたとある恩人に教わりながら……2人で作った武器さ」
彼のその言葉に、私は少し驚いた。意外な真実を耳にした私は、聞き返した。
「武器って作れるんですか!?」
「まぁ……作るための環境が揃っていればな。時間はかかるが……作れるぞ」
意外だ。こう言ったものは、基本的に職人さんにしか作る事のできない伝統工芸のようなものだとばかり思っていたので……まさか、作る事ができるとは思いもしなかった。
……するとそんな時、驚いている私の隣で光矢の顔が変化し、何か思いついた様子になったのが分かった。彼は、閃いたと同時に呟いた。
「……そうか。買えないのなら作れば良いのか。自分の手で杖を……」
「え……?」
彼は、少し楽しそうに笑いながら突然、今まで進んでいた方向とは逆を向いて、歩き始めた。
「……多分、杖程度ならそっちの方が安い。……ただ、問題は時間と手間がかかってしまうのと……作るために必要な材料。特に……オリハルコン鉱石。それさえあれば、マリアの為の強力な杖を作ってやる事ができるかもしれん……」
なんだか、とても楽しそうに独り言を呟いている光矢の姿に私は、試しに話しかけてみようとするも……入り込む余地がなさ過ぎて……しばらく固まっていた。気づくと彼は、突然私の手を引っ張って走り出していた。
「そうと決まれば、早速材料調達にとりかかるぞ!」
「材料って、なんの事ですか!?」
私の疑問に答えてくれる事はなく……彼に手を引っ張られたまま私は、魔法の杖の製作に必要な材料探しの買い物に出かける事になったのであった……。
光矢が買った材料は、良質な長い木材。そして、木材を加工するのに使う小刀やノコギリ、ニスなど。更に金属の輪っかを幾つか購入していた。ここまでは、何となく杖を作っていくのに必要そうな感じのものってわけなのだが……この後に彼が買ったものは……魔導書店で様々な呪文の詠唱について書かれたスペルブック。そして――オリハルコン鉱石だった。
「いやぁ、買えてよかった。魔龍族の件を聞いた時にもしや、オリハルコン売り切れてるんじゃないか? って心配したが……まだちゃんと売ってて良かった」
心底安心した様子でそう言う光矢と共に私は、町はずれのだだっ広い荒野が続いている何もない場所へやって来ていた。彼が、早速購入した木材をノコギリで切り始める。その様子を近くで見ていた私は、作業中の彼に注げた。
「……この材料で、杖が作れるんですか?」
「あぁ……。3日くらい時間はかかるけど、かなり良い魔法の杖ができると思うぞ。それと……この作業には、君の協力も不可欠だ。頼りにしてるぜ」
「えへへ……。ところで、私は一体何をすれば良いのです?」
「……まぁ、最後の一番大事な作業だな。また、その時に説明するぜ」
光矢は、そう言うと……それ以降は物凄い集中した様子で木を切り、小刀などで形を整えていく。次第にただの木材だったはずの木は、私のよく知る杖の姿形になっていく。
*
……買い物から数時間した頃、外もすっかり暗くなってきて、私のお腹がぐぅ~っと空腹の音を掻き立て始めたのと、ちょうど同じ位のタイミングで、それまで作業に熱中しており、一言も話そうとしなかった光矢が、ようやく告げた。
「……ひとまず、形はできた」
そう言って、私に見せてくれた彼の手作りの魔法の杖の見た目は、物凄く本格的で何処か独特の姿をしていた。
……杖は所謂、短いタイプの持ち運びに便利な早撃ちタイプのものではなく、強力な魔法を放てて、更に魔法の範囲もかなり広げる事のできる大きいタイプの杖で、ただの木材だったものが、小刀などによって加工されており、杖の先端は尖っている。また、先端よりも少し下の方には、大きな窪みがあり、明らかにそこに購入したオリハルコンを埋め込みそうな形状をしていた。
更に、窪んでいる箇所よりも下へ視線を移すと、大きな金属の輪っかがあり、その輪っかの中には小さな金属の輪っかが幾つも通されている。それは、まるで羽を広げた鳥のような見た目をしており、木材でできた持ち手の部分は、赤く塗装されており、それ以外の部分は銀色に色塗られている。
「……凄いです! これって……」
関心ている私に、光矢は自信満々に杖の事を説明し始めた。
「……あぁ、僧侶が持つ杖だし……錫杖っぽい見た目にしようと思って、それで……金属の輪っかを取り付けてみたのだけど……どうだ?」
「とても良い感じです。……カッコいいです! 大事にしますね!」
嬉しかった。……私のために、ここまで真剣になって作ってくれるなんて、とても嬉しかった。
「……おいおい、大袈裟だぞ。たかだか、武器を作った程度で……。それに、まだそれは完成してないんだからな」
「え……?」
すると、彼は突然オリハルコン鉱石とスペルブックを取り出して、それを私に見せながら告げた。
「……言っただろう? 最後の仕上げには、手伝ってもらうって……これが、少し厄介な作業だからな」
「……?」
この時の私には、彼の言っている事が分からなかった。
しかし、その日は夜ももう遅いので、町の外れで焚火をして……買った食材をBBQみたいにして焼いて食べた。
食後は、すぐにホテルへ戻り、シャワーを済ませると……私達は、同じベッドで横になり、灯りを消した。少ししてから私達は、眠りについた……。
――翌朝、寒さが襲ってきたので真っ裸だった私達は、すぐに服を着た。
「……朝って、どうしてこんなに寒いんでしょうか……」
「さぁな……。昨日の夜は、かなり暑かったのになぁ……」
いつもの会話を繰り広げた後、朝食を取り、身支度などを済ませると昨日、焚火をした場所まで一緒に歩いて行った。
「……昨日言った通り、ここから少し面倒な作業に入るぞ」
光矢は、そう言うと持ってきていた棺桶を開けて、中から昨日制作した杖と、購入したスペルブックとオリハルコン鉱石を取り出し、早速説明を始めた。
「……俺が、これから作ろうとしている杖は……普通の杖じゃない。魔法を自動的に発動してくれる杖を作る」
彼の言っている事の意味が理解できない私は、改めて説明を求めた。
「……それって、どういうものなんですか?」
「普通の魔法の杖っていうのは……魔力の増幅装置であるオリハルコン鉱石に、自分の魔力を注ぎ込む事によって魔法を発動させる。この杖につけられたオリハルコン鉱石が大きければ大きいほど……増幅される魔力量は、上がっていく。だから、大きい杖って言うのは、それだけ強力な魔法が使えるってわけだ」
光矢の言う通りだ。小さくて細い木の枝程度のサイズの魔法の杖にも先端にオリハルコン鉱石の欠片が埋め込まれており、そこに自分の魔力を流し込む事で、魔法を強力に使う事ができるという仕掛けだ。
彼は、説明を続けた。
「……しかし、前のシャイモン邸での戦いの後……君は、自分の掌に魔力を込めて、それで治癒の魔法を発動させた。あの時感じた君の魔力は……かなりのものだった。その時から何となくだが、君は普通の人よりも強力な魔力を持っていると思っていたんだ。……そして、案の定その通りだった。昨日、ギルドで登録したカード。そこに書かれていた魔力の数値が、その証拠だ」
慌てて、私は自分のカードをロングコートのポケットから取り出して確認してみると、そこにはしっかりと数字が記載されている。
「……5000?」
「そう、それが君の魔力量をおおよそ数値化したものだ。普通の冒険者の場合、ほとんどの魔力量は、平均で1500~2000に到達していれば良い方だ。それを考えると君のその数値は、圧倒的すぎる。……だから、オリハルコン鉱石の力で君の魔力を底上げしてあげる必要性は、そこまでないと俺は考えた。実際、杖がなくても充分な治癒魔法を使えているしな」
「……では、なぜ私に杖を……」
すると、光矢の顔が、この時少し緩んで、笑ったのが分かった。その少年のように楽しそうな微笑みを見て、私は余計に彼が何を考えているのか気になった。
「……それこそが、これからやる。オリハルコン鉱石にスペルブックを読み込ませて……魔法を自動的に発動させる
「オリハルコン鉱石にスペルブックを読み込ませる……? それは、どういう……」
「……オリハルコン鉱石は、魔力を増幅させる機能以外にも……様々な力を秘めたすげぇ石なんだ。例えば、俺達が泊っているホテルのオートロックシステムやシャワーから水が出るシステムも全てオリハルコン鉱石が埋め込まれている」
確かに……これらのシステムは、全て自分の魔力を少しだけ注ぎ込む事によって動く。だから、ホテルの鍵も私が開ける役割だし、シャワーだって私と一緒じゃないと光矢は、浴びる事さえできない。
彼は続けた。
「これらのシステムには、オリハルコン鉱石の中に様々な魔法の詠唱が記憶されており、記憶された魔法は、使用者が魔力を少量込める事で自動的に発動する仕組みになっている。例えば、ホテルのドアなんかは……鍵を開けたり閉めたりする魔法の詠唱と、魔力による生体認証を司る魔法の詠唱が込められている。つまり、あのホテルのドアに使われているオリハルコン鉱石は、2つの魔法を記憶していると言う事になる」
「なっ、なるほど……。それで、私の杖もそのホテルのドアみたいに魔法を記憶させるって事ですね」
「そうだ。そして、オリハルコンに魔法を記憶させる時に用いるアイテムが、このスペルブックだ。マリア……これ読んだ事あるか?」
「……そうですね。小さい時に教会で魔法の勉強をした時に教科書として簡単なものを……」
「……そう。このスペルブックは、この世界の魔力を持つ人間が正しく魔法を使うための教科書のようなものだ。故に、教育の機会のあった人間なら誰しも幼少期に一度は、読んだ事のあるものだろう。俺は、ここに書かれている魔法を1つも使えないが、魔法が使える君らから見て、ここに書かれている魔法は、どれも比較的優しめの初心者が使うものが多いらしいな」
「うん。初級の魔法を覚えるために使うね。それ以上のグレードのやつも載ってたと思うけど、それ以上の魔法は、そもそもあんまり使う機会がないし……」
「……オリハルコン鉱石も同じだ。このスペルブックに書かれている魔法のうち、覚えさせたいものを3つ選ぶ。そして、それを鉱石の中に読み込ませて、記憶させ……定着させる。この作業は、これからこの杖を使うマリア……君の魔力でないといけないし、そもそも俺は、魔力がないからこの作業を手伝う事はできない。だから、君にやってもらおうと思ったんだ」
なるほど……。彼のやりたい事は、だいたい理解できた。しかし……。
「どうして、こんな事を? 私、魔法なら別に普通に使えるし……」
「……君の為に、防具を買ってやれる金が今は、ないんだ。……だから、オリハルコンに自分の身を守るために最低限必要な防御、結界系の魔法を幾つか覚えさせて、少しでも君に安全に攻略して欲しいと思ったんだ……」
「光矢……!」
「クエストっていうのは、いつ何処で敵から攻撃が来るか分からない。いくら、こっちが警戒していても突然、狙われるなんて事もよくある。俺は、多少の怪我なら耐えられるが……君は、そうはいかない。だから、杖を持っていればいつでも自動的に防御結界を貼ってあげられるようにしようと思ったんだ」
そう言うと、光矢は早速スペルブックを私に渡してきた。私は、それを手に取るとすぐにページをめくり、防御・結界系の魔法が載っているページを開いた。
光矢が言った。
「……このオリハルコンは、とても安物だから……3つまでしか魔法を覚えさせられないが、しかし通常の防御結界魔法とそれから、魔法攻撃に対する結界魔法があれば、大方ほとんどのクエストは大丈夫だ。後1つは、お好みって感じだな」
「分かりました。それで、どうやってオリハルコンに読み込ませるんですか?」
「……やり方は、シンプルだ。そのオリハルコンを手に取り、
と、光矢が横で長い説明をしている間に私は、彼に言われた通りにオリハルコン鉱石を手に取り「
すると、読み終わった後でオリハルコンがオレンジ色に発光し始めたので、私はこれでオリハルコンの読み込みが終わったのだと思い、試しにテストをしようと杖の窪みにオリハルコンをはめ込み、杖に魔力を込める。
――すると、その時だった。
杖に、はめ込んだオリハルコンから魔法陣が展開し始めて、それと共に私の周りを大きく包み込むように魔力でできた丸いドーム状の結界が生まれる。それを見て、私は光矢の方を振り返り、ニッコリ笑って告げた。
「できた!」
彼は、ポカーンと私を見ていた。「そんな……まさか、あり得ない……」とでも言いたげな顔で、彼は衝撃的な顔をしていた。
少ししてから光矢は、カウボーイハットを指で摘まみ、目の辺りを隠すように被り直してから告げた。
「……やれやれ。流石は、俺の見込んだ女だ。……魔力5000は、伊達じゃないな」
気のせいか……彼のおでこから冷や汗みたいなのが見えた気がした。
――それから私は、魔法を後2つ、オリハルコンに覚えさせるべく、作業を続けたが……これも本番1回で作業は終わってしまい、私達は予定よりかなり早く……鉱山の洞窟に眠る魔龍退治のクエストを受けに行く事になったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます