第50話 逆転の発想

 とはいえ、昔話に花を咲かせただけ。結局はボーカル不在の問題

なので、最悪私が見繕みつくろう必要も無い。私ではない誰かが連れてくるなら、

それに越したことはないけど。少々の熱を見せられたのだ。私自身も、

熱に見合うようなサポートが出来れば、完全な信頼関係が出来上がる。

京姉妹と同じ、契約関係が出来ればいいのだから。

 「ねえ、ここんとこ何か、難しい顔してる。」

隣に舞ちゃんしかいないというとても珍しい状況。ネネは先に帰って、

買い物にいそしむという変なパターンで、この二人組が作られている。

「簡単にボーカルって、見つからないからね…。ネネは今の感じだと、

絶対やらない。関係を壊す訳にもいかないし、何とか…。」

そうか、何故今まで気付かなかったのだろう。この隣の存在に。

「…そう言えば舞ちゃんは、カラオケとか行ったことあるかな?」

自分から何かに誘った記憶はあまり無い。ぎこちない笑顔で隣を見た。

 似た部分が殆どだ。声のトーンは違うが、双子ではあるのだ。

練習すれば、姉の声、姉の歌声が出せるかもしれない。問題は、

「あたし、今まで歌ったことない。京都では稽古サボってた。」

素人二人が、未知の領域に踏み出す無謀を試そうとしているということ。

それでも、これから闇雲に探すよりは大分ショートカット出来る。

 「ふーん…。あたしがお姉ちゃんの声をねえ。そりゃ毎日聞いてるけど。」

「お姉ちゃんが好きなんでしょ?顔は同じだから、なってみない?」

「勘違いしないで?あたしが好きなのはお姉ちゃん。いくら顔が同じでも、

あたしは別の存在なの。京舞なの。京音々にはなれない。それは分かってる?」

どういう姉が好きという哲学には興味は無いので、しっかりなだめる。

「お姉ちゃんになる…ってのは違うか。近付くの。京舞としてね。」

正直、時間制限があるので早い所歌声を披露してもらいたいけど。

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