第51話 響け、歌声

 長い説得の末、一曲歌ってもらうことが出来た。三十分は使ったかな。

結局、そんなに歌った事ない私も歌わされることになってしまったけど。

探したら、京音々名義のソロ曲があった。…本当に有名だったんだ。

興奮の表情を隠しきれない妹にマイクを渡し、曲が始まった。

 感想というものが出てこなかった。そんな高尚こうしょうなものは出てこない。

歌ったことがない、という発言が本物であると言わんばかりの、その

とても酷い歌声が室内に響き渡った。それに約三分耐えただろうか。

私だけで解決出来る問題ではとても無かった。ここにバンドの先輩を

一人でも連れてこなかった私の誤算。いや、これを聴かせるのはまずい。

 「だから言ったじゃん。誰か入れる方が時間の節約だよ。」

分かりきっていたように舞ちゃんは言った。しかし、もう夏休みまで

一、二週間という日付まで来ている。そうなると、学校に来る生徒は

格段に少なくなり、余計に時間が掛かってしまう。どうやら、あるもので

何とかしてみるしか無いようだ。恐る恐る提案をしてみた。

「舞ちゃん。これから毎日、カラオケ来てみない?今度はもっと

人とか呼んでみたり…。ああ、お姉ちゃんでも連れてくれば、その。」

相変わらずこのワードを出せばしっかりと聞き分けはよくなる。

「…何か騙されてるような気はするけど、ノってあげる。楽しかったし。」

帰りにボーカルに関する本でも買うか…。今月は財布が軽くなる。

しかし、もうこの方法を押し通すしか近道が無い。覚悟を決めるように、

これから毎日見る財布を握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る