第47話 ティアドロップス

 「もう帰るの?私としてはいい音で、もっと聴いてたかったけど。」

「それは素人だからそう聴こえるだけ。はぁ…やっぱり耳はしっかり

憶えてるもんだね。先輩達はやっぱり、目標としてはライブですか?」

「そんなの…当たり前じゃない!バンド組んでるからには、ライブやって、

箱を埋めて、ゆくゆくはアリーナとかで…って感じだけど。」

「じゃあはっきり言いますけど、それじゃまだ届きませんよ。路上で

やったらそれでいいかもしれませんが、上を目指すならまだ足りない。」

一体何が聴こえていたんだろうか。本人しかそれは知り得ないけども。

 「…これで良かったの?本当に。仮にもファンだったのに…

なんか悪いことしちゃったな。けど、言ったことはホントだから。」

結局、納得行かず数回繰り返したが、ネネの評価は変わらなかった。

明らかに気分の落ちている先輩方を横目にスタジオを出るのは、正直

私も気が引けたが仕方ない。プロの洗礼というものを目にしただけでも満足。

「いいの。あれで奮起しないようじゃ、蒼星の生徒じゃない。先輩達も

それを理解した上で、あの感じを求めたんじゃないのかな。まさか、私が

詳しい人を連れてくるとは思わなかっただろうけど。」

そう話していると、不意にスマホが震える。福岡先輩からだった。

『とても参考になった』というメッセージだけがそこにあった。

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